五十一話 快挙の温度差
七カ国空母艦“ヒュージア・ブロード”はひたすら
広大な海原を真っ直ぐと突き進む。
F6でティナがアルレイア・インベルトと対峙している一方
朔桜、ノア、ボーノ、スノーマンはF1の船尾方向からF2へと移動していた。
朔桜たちの目的は散らばった仲間の捜索と人命救助。
ボーノとスノーマンの目的は侵入者の排除と人命救助だ。
移動する最中、休憩室の中に数十名の生存者を発見し、甲板への退避を促してゆく。
一列になり、スノーマン、ボーノ、朔桜、ノアの順で歩いていると
ノアが遠くの物音にいち早く反応した。
「誰か走って来る。足取りは軽いし速い。歩幅は大きくないから多分若い女の子」
戦闘のスノーマンとボーノも気配を悟り戦闘態勢を取る。
すると目の前に甲板で一戦交えた“九邪候補”一文字 咲が現れた。
「げっ!」
咲は蛙の鳴き声のような声で明確な嫌悪感を示す。
「あの子は敵です!!」
朔桜が指差すと同時にスノーマンが周囲の水素を凍らせ氷の塊を生成。
鋭い先端を咲に向け容赦なく放つ。
「ちょっ!」
咲は前方に気盾を展開。
氷塊の軌道を上手く逸らす。
「一つ相談なんやけど、ここは穏便に見逃してくれへんかなぁ~」
「敵、倒す」
「知ってたわぁ~ほな、しゃぁなし。死合いましょか~」
人差し指と中指を揃えて構える。
「刀使わないの?」
ノアが不思議そうに首を傾げると
咲の背後から回答がくる。
「今、私の能力でその子の刀は使えないわ!」
その声の主は黒いマイクロビキニ姿のメイプルだった。
「なんか凄い恰好の人来ましたけどっ!?」
あまりの際どい格好に朔桜は目を見開いて驚く。
「あ~……あれは味方だ。
彼女の恰好は能力の都合……もとい趣味なんだ……」
アートは頭を抱えながらも、いつもの事だと呆れた様子で説明する。
「な、なるほど……」
朔桜はあるがままを受け止め順応する事にした。
奇妙な状況ではあるが、戦況は有利。
咲は刀が封印され、能力の副作用で激しい酔いに襲われている一方
味方は五人。しかも全員が万全の状態だ。
相手は“九邪候補”これほどの好機、逃す手はない。
「ノアが殺るね!」
速攻で飛び出し咲へと迫る。
「来たなぁ~化け物~」
「その言いぐさは酷い、なぁ!」
語尾と同時に強烈な衣の一撃を撃ち込む。
確実に咲の心臓を捉えた即死の一撃。
だが、その場所に咲の姿はなかった。
「眼鏡くん後ろっ!」
唯一その尋常じゃない動きに対応出来たノアがアートに警告を出す。
「おっと! 動かんといてっ!」
咲は一瞬でアートの背後を取り、左の腕で首を締め、頭に指を当てる。
「みんな動かんでね~。少しでも動いたらドーン! やで?」
「くっ! アート!」
隙を作り仲間を人質にされた事を悔やむメイプル。
「……ごめん、こんな時だけど、人質として一言だけ言わせてくれないか?」
「なんや? 命乞い?」
「君、随分と走り回ったみたいだけど、少し汗臭いよ」
「なっ――――」
年頃の女子高生が激しく動揺した瞬間、アートは咲の方へと身体を向けた。
「《迷宮美術館》!」
「しまっ――――」
アートは自身の能力で咲を仮想空間に閉じ込める事に成功。
「よし! 敵確保!」
ガッツポーズで喜ぶアートとは対照的に女性陣の視線は冷たい。
スノーマンの能力で冷える区画に男女で明確な温度差があった。
「えっ……僕、何かした?」
「今の言葉は、敵でもうら若き乙女に対して流石に無いわね」
「ない。あり得ない」
メイプルが口にするとスノーマンも同意する。
「うんうん」
朔桜も激しく頷く。
「眼鏡くん、デリカシーないね」
「ぐはっ!」
ノアのストレートな言葉が見事“九邪候補”を捕獲したアートにとどめを刺したのだった。




