五十話 天を穿つ覇者の拳
“金有場”であり、カシャの元師匠でもある
ラヴェインと対峙するレオとカシャ。
二人はラヴェインの仮面能力《軽重》により
カシャ右手と左肩が軽く、レオ身体全身は重いまま継続している。
時間の経過で多少は身体の扱いに慣れてきたものの、本領発揮には程遠い。
「ほらほら、どうした、どうした!」
容赦ないラヴェインの拳が二人を襲う。
二人は協力して攻撃をどうにかいなすのがやっと。
反転攻勢に転じる暇も無い攻撃の嵐。
攻撃をまともに食らえば、《軽重》で更に負荷を掛けられる。
今以上に能力の負荷を受ければ、もうまともには戦えないだろう。
「受け流すばかりで一向に攻める気迫を感じない。
お前たちは私に勝つつもりがあるのか?」
真っ向からぶつかり合って来ないレオとカシャに不満を感じ小言を漏らす。
「貴方の能力を前に真っ向からぶつかり合う訳ないでしょう」
「確かに。違いない!」
カシャの言葉を肯定し豪快に笑いだすラヴェイン。
そんなところは何処かカシャに似ている。
「カシャさんっ! 俺がアレで仕留めますっ! 少しだけ時間を稼いでください!!」
レオは自身の拳をぶつけ合わせその衝撃を《反拳》で吸収。
倍にした衝撃を放ち、それを再び吸収。
一連の動作を何度か繰り返し続ける。
「なるほど。反射する拳を自身の衝撃で賄うか」
「余所見は禁物だゾ!!」
カシャが目にも止まらぬ回し蹴りを放つも、ラヴェインは容易くかわす。
「お前一人では前回の二の舞だ。二十秒と稼げまい!」
「二十秒も稼げれば、十分!」
同時に放たれた拳。
ぶつかり合えばどちらが打ち勝つのかは明白。
カシャは即座に拳を広げ、ラヴェインの手首を掴み、捻り上げた。
「なにっ!」
ラヴェインは手首を捩じり折られないよう身体を捻ろうとするが
「ヒゲバライ!」
カシャの足払いを受け、空中へふわりと浮き上がる。
ラヴェインの手首に危険信号が通った瞬間、空中で身体を大回転させて手を掴んでいるカシャもとろも回転させる。
「ぐっぅ……逃がさんゾ!!」
カシャは振り払われないように必死でラヴェインの回転に食らいつく。
「いい加減離せ!」
ラヴェインは回転の勢いを守ったままカシャを壁に叩き付けた。
「まだだゾ!!」
暇を与えぬようにカシャは必死で拳を畳み込むが全ての攻撃をいなされ、負傷を与えるには至らない。
「これならどうです! ハネジロスタンプ!」
高々と天に上げた足を真下に一気に落とし、全体重をラヴェインの肩に捻じ込む。
「っごおおおおお!!!!」
ラヴェインの鋼鉄のような筋肉も本人と一緒悲鳴を上げている。
並の生物なら真っ二つに裂けていいるが、惜しくもラヴェインの筋肉の壁は越えられなかった。
「ぐっ! ……重いっ! いい一撃だ……だが、ふんっ!」
肩の筋肉に力を込め、発条のように伸縮させカシャの足を跳ね返す。
「《軽重》。軽量化!」
能力によりカシャの右足の質量がスポンジのように軽く変化する。
「なにっ!? 攻撃を受けても質量を変化出来るのかっ!?」
足が浮き上がりバランスを崩すカシャ。
その隙をラヴェインは見逃さない。
「クロミンククロ―!!」
五本の指先を一点に集めたドリルのような手がカシャの腹部に迫る。
「カイクルシュートッ!」
重量の残っている最後の片足に体重を込めてラヴェインの手を蹴り上げた。
なんとか死は逃れたが、最後の足にも《軽重》を受け、カシャの四肢はもう腑抜け同然。
カシャはまともに立つ事すら出来ず、地面に背中から落ちる。
「ぐっ、茶髪ーー!!!!」
カシャがレオに呼び掛けると既にレオの拳は臨界点を迎えていた。
丁度二十秒にして二十回。レオの拳の百四万八千五百七十六倍の衝撃が拳に宿っている。
その拳を見た瞬間。ラヴェインはあれが放たれたその後の光景が容易に想像できた。
「食らえ、反――――」
「っ! 待て!! 降参だ!! それをここで放つなッ!!」
レオが反拳を放とうとした瞬間、ラヴェインは両手を挙げて無抵抗の意を示した。
「え、えぇ…………」
興冷めしたレオがカシャの顔色を窺う。
「拳を下げろ、茶髪。本当に敵対の意志はないようだ」
「下げろって……取り敢えず、これどっかにぶっ放さないと……」
手に溜めた衝撃を何処に放とうかと周囲をキョロキョロと見渡す。
レオは丁度目の前に開けた場所を見つけた。
それは甲板から大きく開いた穴。
穴からは微かに青空と雲が見える。
「あそこでいっか。《反拳》」
気軽に天に拳を向け反拳を放つと、天が爆ぜた。
空気が逸脱した速度で揺るぎ、ソニックブームが起き
船の走行音を遥かに超える轟音が落雷のように鳴り響く。
もしも、船内であれを放っていたならば、一瞬にして船内は消し飛び
沈没していたであろう。
「はぁ?」
そこでレオは初めて気が付いた。
自分の永久無限の乗算がどれほどの可能性を秘めた能力なのかを。




