四十四話 CN.エンジェル
飛行甲板にて裏切り者のリョクエンとドクレスは
金髪の少女に高速で打ちのめされた。
「残りは居なそう」
周囲を見渡し、他の敵がいない事を確認し、少女はその場を去ろうとする。
その無防備な背に向けて突如として業火が放たれた。
少女は咄嗟に攻撃に気づいて背後に気盾を展開。攻撃を防ぎきる。
「っか~おっしい!」
リョクエンがもう少しだったと悔しがり
ドクレスは即座に次の攻撃へと備えていた。
「あなたたち意外と丈夫だね」
少女は死に至る一撃を打ち込んだつもりだった。
だが、二人は生きている。
「エナになったの確認しねぇで勝ったと思うのは甘えだぜ。
あぁ、人間にはそんな風習ねぇか」
「しかし、この服には助けられた」
ドクレスが服を捲り、攻撃を受けた部分を見る。
そこにはDr.が作った量産型の耐術インナーの繊維が
ぐちゃぐちゃに乱れて激しく損傷していた。
「これがある程度衝撃を吸収していなければ
今の一撃で儂らは死んでいたであろうな」
「まったく、元“九邪候補”様々だぜ。
移動速度が速い分、確実に当てられる面積の多い身体を狙ったのが仇だったな」
二人は再び少女と対峙する。
「クソアマ。今の借りはデカいぜ?」
リョクエンは何度か手を握り、バキバキと指を鳴らす。
「私の名前はエンジェル」
「名前なんぞ聞いちゃいねぇ。早々に死ね」
リョクエンと会話している間にドクレスが精霊術を唱える。
「フレイウェーブ」
広範囲広がる火炎の波がエンジェルを襲う。
「気盾」
指を揃え、全方に気の盾を展開。
ドクレスの炎の波を防ぐ。
「リョクエン!」
「縦女二人分! 横女四人分だ!」
二人の断片的な会話をエンジェルは理解出来ない。
「ファイアバイツ!」
巨大な炎の弾丸がエンジェルの背後に迫っていた。
かわそうとするも前方は炎の波に埋め尽くされ
横に移動する他選択肢がない。
エンジェルが右を向いた瞬間火の波が気盾から溢れ
行く手を阻んだ。その予想だにしない出来事にエンジェルの動きが一瞬止まる。
「ジャスト!」
動きの止まったエンジェルを追尾した炎の弾丸が狙う。
「甘い」
エンジェルはロケットのように垂直に空へと飛び出し炎の弾丸を振り切る。
「残念。空中も既に我が手中じゃ」
エンジェルが周囲に目を凝らすと小さな銀色の滴が浮遊していた。
リョクエンは上空に目を飛ばし、全ての状況を把握している。
気盾の縦横の範囲。後方の逃げ場。
それを全て計算してエンジェルを上空にまんまとおびき出したのだ。
「錬金核」
全ての元素へと変化出来るドクレス必殺の精霊術。
その異様な見た目に危機を感じたエンジェルは
既に身体に付着した液体を自身の能力《推進力》で吹き飛ばすが、既に身体に異変が起こっていた。
眩暈に吐き気、身体は下半身は麻痺して、右の目は見えない。
人体に猛毒の原子を受けもなお、ただではやられるつもりはなく
その目にはまだ闘志が残っていた。
「せめて……一人だけでも!」
自分はもう助からないと悟り、捨て身の覚悟で真っ直ぐリョクエンに突撃。
そのまま船の外まで押し出す。
「ぐおっ! なんでよりによって俺を選ぶんだ!」
「フィジカル……弱そうだから……」
「俺は爺以下に見られてんのかよ!」
何度もエンジェルを叩くが離す気配は一切ない。
「爺! 早く助け――――」
「アムズウォーターヘップ!」
巨大な水の槌が船外を飛ぶ二人を打ち付け
広大な海へと無慈悲に叩き落した。
「悪く思うな、リョクエン。
手負いの獣は何をするか分からんからな。
お前諸共、確実に仕留めさせてもらった」
船の端から沈黙した海原を静かに眺める。
「ふう。離脱手段を失ってしまっては、作戦を変える他あるまい」
非情なドクレスは柳色の羽織を翻し、次の策を考えながら船の内に踵を返すのだった。




