四十二話 船内状況
朔桜、ノア、アート、スノーマンの四人は船内を歩きながら互いの持っている情報を簡易的に共有する。
朔桜は七カ国空母艦“ヒュージア・ブロード”に来た経緯と
共通の敵である“顔の無い集団”ナロゥ、咲、ウォーゾーンの情報を話した。
アートは朔桜から聞いた情報を正確に精査し、まとめた結果を口に出す。
「特徴的に船員たちを虐殺していたのは、ナロゥ、ウォーゾーンって奴で間違いなさそうだ。
だけど、一番ヤバい奴と君らはまだ遭っていないみたいだね」
「一番ヤバい奴?」
ノアは首を傾げる。
「ああ、黒い衣服の仮面の者。
あいつは飛びきりの別格だ」
アートは憎しみを込めて表情を歪める。
「そんなに強い相手なんですか?」
「強い。僕たち“人魔調査団”の七人を相手にして対等に戦っていた。
いや、むしろ僕たちが押されていた」
「そんなことないもん」
ぼそりとスノーマン否定する。
「僕の能力は《迷宮美術館》って言ってね。
僕の想像空間に範囲内の視認したモノを閉じ込める事が出来るんだ」
「最高に悪趣味だったよ」
「それはどうも」
アートのノアの掛け合いを聞いて朔桜は中がどうなっていたのか少し興味が湧いた。
「その想像空間ていうのが、広大な美術館なんだ。
普通の人間なら一生出られないほど大きなね」
「いや、大きすぎぃ!?」
「弱っちいけど中はいろんなのにずっーっと邪魔されるし
同じような道ばっかりだし、悪趣味だし、悪趣味だし。
最悪の迷路だね。でも、ノアなら三日くらいあれば出れたかもしれないよ~」
「酷い言いようだね……。迷宮から出る方法は三つ。
僕がさっきみたいに閉館するか、能力者の僕が死ぬか、そして、正攻法で脱出するかだ。
そして、僕は一度、その黒衣の仮面を閉じ込めた」
朔桜はアートが一度と言った時点で嫌な予感がした。
「でもね、奴はたった五分足らずで自力で出て来た」
ノアですら三日と見積もった迷宮を五分弱で出た。
その情報だけで朔桜その黒衣仮面の脅威度が理解できる。
「僕の能力は相手の存在を強制的に想像空間に縛るけど、相手の力を縛る事は出来ない。
そして、正攻法で攻略した相手は二度と閉じ込める事が出来なくなる」
「へぇ~。じゃあ、もうその強い相手は閉じ込められないんだ」
「そう。今頃は僕の仲間が必死に戦って食い止めてくれている。
僕たちは、船員を虐殺しているその他の敵を先に排除するのが目的なんだ」
「私たちは甲板ではぐれた仲間を探しつつ、船員さんたちを助けて、敵を倒すのが目的です!」
「君たちの他にもまだ仲間が?」
「はい! 頼もしい仲間が三人……と、後二人います!」
「それは心強い! 少しでも敵の戦力を削ってくれていれば巻き返すチャンスはあるはずだ。
これ以上船員を失いたくない」
お互いに“顔の無い集団”を倒すという目的を持つ者と出会い、僅かながらの希望が見えてきた。
アートからは“ヒュージア・ブロード”の船内構造を聞く事ができた。
最初に朔桜たちが降り立ったのが、飛行甲板。
戦闘機をすぐさま発進させれるように作られた広大な船上滑走路だ。
その横に立っていた建造物が、管制塔。航空管制、航行を行うブリッチ。
三次元レーダーや通信アンテナを積んでおり、常に周囲の状況を観測しているメインエリア。
F1は格納庫。予備部品、燃料、重要機材などが積んであり、船尾側には、エンジンのテストエリアがある。
F2は食堂、カフェ。船員全員が共同で使う食事スペースとなっている。
F3は居住区。全五千名の居住区域となっている。
F4は雑貨店、クリーニング店、制服店、理髪店、郵便局、チャペル。普通の町と変わらぬ施設。
F5は薬局、病棟、入院病室、歯科クリニックの医療区画。
F6はエンジン施設、船内ラボという船の心臓部分。
朔桜、ノア、アート、スノーマンが現在居るのは、F1の格納庫部分だ。
「僕たちは船首側の階段で上がってきたけど、敵と全く遭遇しなかった。
もしかしたら船尾の方に敵が集中しているのかもしれない」
「このままエンジンテストエリアを経由して降りて行こ」
スノーマンは独断で決めると地面を滑るように先導して移動を始める。
朔桜とノアはその奇妙な動きを黙って目で追いながら、静かに後を付いて行くのだった。




