三十八話 対ウォーゾーン
ノアが咲と対峙している間、一同は上級魔物ウォーゾーンと対峙していた。
朔桜が負傷したリョクエンを宝具【雷電池】で回復させている間
それを隠すかのようにティナが凛と立ち、右側をレオ、左側にカシャ。
少し離れた位置に静かにドクレスが立つ。
「すまねぇな。フォン・ディオス」
「いえいえ」
回復が終わりリョクエンが立ち上がると
ウォーゾーンは、大きな咆哮とともに一同に両手を向けた。
「くるぞ!!」
ティナが警戒すると同時に計四本の長い爪が伸び
三本の爪がレオ、カシャ、ドクレスを狙う。
そして、一本の爪は蛇のように湾曲し
朔桜とティナをすり抜け、リョクエン目掛け襲い掛かる。
「っ!」
四人は攻撃を間一髪で回避。
爪は人々を虐殺して血塗られたコンクリートの地面を易々と貫いて突き刺さる。
「私たちには本当に眼中に無いって訳ね」
ティナは悪い笑みを浮かべると高々と跳び上がり
背中の魔装『八つ脚の捕食者』を構えた。
「ならこっちはノーリスクで突っ込める!」
四本の脚を合わせ撥条が縮むかのように脚が収縮。
「収束―四点!」
爆発的に発射された四本の脚がウォーゾーンの仮面を狙う。
ウォーゾーンは即座に二本の爪を伸ばし、ティナの攻撃を防御する。
「薄い」
ティナが淡白な一言を呟くと、コンクリートを貫く強固な爪を易々と砕いた。
四本の脚は勢いを失う事なく、そのまま仮面へと迫る。
しかし、後数センチのところで脚の攻撃ごとティナは吹き飛ばされた。
「ぐっ!」
ウォーゾーンの球根をひっくり返したような膨れた腹部から
根のような第七の白い爪が飛び出している。
それが手の爪の倍の速度でティナを吹き飛ばしたのだ。
「このクソ――――」
ティナは上手く着地すると懐から掌に収まる程度の白い玉を取り出す。
それはDr.がノアの装備を新調するために偶然生まれた副産物。
ティナのために改変した専用装備だった。
装備を握り締め、使用しようとした時
巨大で激しい電撃がティナの背後を抜け、ウォーゾーンの顔面を撃ち抜く。
「なっ――――」
まるであのロード・フォン・ディオスを彷彿とさせる威力の電撃。
まさかという表情で振り向くティナ目に映るのは指先を揃え、迸る電撃を纏う朔桜の姿があった。
「私の親友に何するのっ!」
一切の遠慮なく、上級精霊魔術を放ち頬を膨らませている。
弱点である仮面に電撃を受け、ウォーゾーンの動きが完全に止まった。
「うそ!? 今の電撃を撃ったの朔桜なのっ!?」
「うん。凄いでしょ!」
「驚いたわ。本当に魔術を使える事にも驚いたけど
それ以上に人には殺しは控えろって言ってた癖に、躊躇なく上級魔術をぶっ放す方に驚いたわ」
「カッとしてつい」
「犯罪者みたいな事言わないでよ。
……でも、あいつ、ピンピンしてるみたいだけど」
「ウォォォォォォ!!!!」
弱点である仮面に上級精霊魔術の直撃を与えたにもかかわらず
ウォーゾーンは何事もなかったかのように高揚感を表す雄叫びを上げるのだった。




