三十七話 ノアvs咲
一同は燃え盛る甲板で鉄の仮面を付けた樹の上級魔物ウォーゾーンと
狐の仮面をつけたセーラ服の方言女子“九邪候補”一文字咲と甲板で対峙する。
「うちはそこの青髪の娘相手にするからウォーゾーンはその他をよろしゅうなぁ~」
「ティナちゃん、朔ちゃんのお守り交代ね」
「侮ってると負けるわよ? 私たちと戦った時みたいに」
「大丈夫。もう手抜きは卒業したから」
「あっそ」
ティナはノアと交代して朔桜の傍へと寄りノアは前線へと立つ。
「話は終わったん?」
「うん! 待っててくれてありがと~」
「かまへんよ~。じゃ、死合おかぁ~」
その刹那、互いは一閃の如く一足で跳び出し、ノアの衣と咲の刀が火花を散らし激しくぶつかり合う。
あまりの衝撃に空気が揺れ動いた。
世界の重力に従い、落下しつつも双方は目にも止まらぬ連撃を繰り出す。
「ええ動きや」
「そっちもやるね」
互いを褒め合いながら甲板に着地。
「うちと互角かぁ。ほんま、どんな身体能力しとるん?」
「ノア凄いでしょ?」
「せやなぁ。でも、これならどうや?」
右手の親指を立て、人差し指をノアに向ける。
「ばーん!」
咲が口で効果音を発すると指先からエナの塊が弾丸のような速度で放出された。
だが、ノアは涼しい顔で見えない攻撃をも凌ぐ。
「あんた気術にも対応出来るん!?」
「なんの事か知らないけど、目で見えなくても空気の流れで軌道は読めるもん」
「じゃあ、これはどうや?」
人差し指と中指を揃えノアへ向けるとノアの周囲を結界が覆う。
「封印結界。並の攻撃じゃあ破れ――――」
ないと言う前にノアは衣で結界を軽々と打ち砕いた。
「んなアホなぁ……」
「もうおしまい?」
涼しい顔でノアはにこりと可愛らしく笑う。
「こない小さな化け物。相手してられんわ!」
咲は早々に踵を返してノアから距離を取る。
「待ってよ~」
その後をノアが追いかけたその時だった。
「いだっ!」
見えない壁がノアの顔前に突然現れ、ノアの動きを一瞬止めた。
「抜刀―清代水!」
追いの誘いを狙った誘導戦略。
腰の鞘から刀を抜き、澄んだ水の如く静かで速い一振りを繰り出す。
いや、正確には二振りだ。
その閃光のような剣術はノアの喉元を連続で引き裂く。
「――――っ」
喉が深々と切り裂かれ、声が出ないノアは驚きで目を丸くする。
「うっぷっ! 今ので首落とすつもりやったんやけど。
あの状況でよう身を引いて凌げたなぁ」
「――――っ」
「喉引き裂かれて生きてるのが不思議なんやけど。
まあ世界は広いし、多いという事で済ましとこか~」
咲は刀を再び鞘に収めると、構えを取る。
「抜刀―不死身」
死せぬモノすら殺す咲の不死身殺しの剣術でノアの首を一刀両断。
「ほな、さいなら」
「うん、ばいばい」
「っ!?」
勝ち誇ってキメている咲の背後から
可愛らしい鈴のような声が聞こえきめ細かな鋭い布が襲う。
狙いは咲の顔に収まる狐の仮面。
“顔の無い集団”は仮面で能力を得る代償として
仮面が破壊されれば即死に至るという情報のもと
ノアは自身の宝具【最高の親友】で自分の分身を囮に
油断した相手の背後から確実な勝利を狙っていたのだ。
ノアお得意の死に芸戦術。しかし、その攻撃は咲に届かない。
顔の寸前でノアの攻撃が止まる。まるでロードの使う風壁のようだ。
しかし、周囲の風の流れは海原の自然風のみ。
違和感は感じられない。
「分身出来るんは流石に焦ったわぁ~。いきなり仮面狙うんは反則ちゃう?」
口では焦ったと言っているが咲の口調から焦りは一切感じ取れない。
「気術便利やろ~。攻撃の気攻に防御の気盾。
なんでも応用が効く人間が使える術なんやで~」
咲は自慢げに声を張る。
「へぇ~そうなんだぁ」
「全っ然っ興味なさそうやなぁ~」
ノアが気になったのはもう一つの言葉の方だ。
「ていうか、お姉ちゃん人間なんだ。
なんで“顔の無い集団”なんかになったの?」
「聞きたい?」
「うん」
「素直なええ子やな~。なら教えたる。
うちな、絶賛反抗期やねん」
「はぁ」
「そんでな、うちのお家そこそこ有名なんやけど
色々と親が口うるさくてかなわんくてな。
やさぐれて刀振り回して暴れてたら、めっちゃ強い人にスカウトされてん!」
「めっちゃ強い人?」
「聞いて驚かんでね! あの二百年前の“人魔戦争”で活躍した玖寧さんや!!
凄いやろ!? “九邪”となって生きとったんやで!
直接話す事が出来ただけじゃなく仲間に誘われるなんてほんま夢みたいやぁ~感激やぁ~~」
「ふ~ん。“人魔戦争”の生き残りの“九邪”玖寧……ね。一応、名前覚えておこ」
「うっすい反応やな~。嘘やないで!」
「あ~はいはい。ノア、もう興味失せたから続きしようよ」
「飽き早いなぁ~やっぱ可愛くない子供やねぇ。じゃ、お望み通りもう一戦いこか!」
その刹那、二人は目にも止まらぬ速さで激しくぶつかり合った。




