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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
六章 心呑まれし堕黒の姫
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三十五話 ナロゥ

広い海原で轟々と燃え盛る“人魔調査団”の七ヵ国航空母艦“ヒュージア・ブロード”。

戦闘機の連鎖爆発で船の上は火の海と化して人々が逃げ回るまさに地獄。

一同は着地してすぐに見た目重視な鋭利なイヤホンを左の耳に装着した。

マイク部分は無くても、骨伝導で声を拾い、聴けるという優れものだ。

母艦からの無線を拾おうとするが、特になんの通信もない。

マイクをオンにするも、電波妨害されているのか通信機能が途絶しており

ヘリやDr.とも連絡が取れなくなっていた。


「せっかく無線に応じで来てあげたのにお出迎えも無いのかしら」


一同が降り立ったにも拘わらず、誰も感心を示していない。皆逃げる事に必死だ。

甲板から海までビルの十階以上の高さがあるにも関わらず飛び込む者すらいる。

この荒波の海に飛び込んでも生きられる見込みはほぼ0に等しい。

そのまでしても逃げ出したい原因がこの船にはあるという事だ。


「船内の各所からエナの気配を感じるゾ。

複数名に襲撃を受けている様子だな。

それに……ほどんどが大量のエナを持つ強者だ」


カシャが静かに息を呑む。


「私たちよりも明らかに格上が数体いるわ。

それでも戦う気?」


「みんなで戦えばどうにかなるよ! 絶対!」


「やれやれ……楽観的すぎるわ」


ティナは呆れつつも腹を括り、戦う事を決意した。


「全員で纏まって行動する。あまり離れないで」


一同は身を寄せて周囲を警戒しながら進んでゆく。

船の上一面には鮮血が広がっており、風で血生臭い臭いが鼻を衝く。

細長く絞った色とりどりの雑巾のようなモノが大量に落ちていることに朔桜が気づいた。


「なんだろうこの雑巾みたいなモノ?」


不思議そうに手を伸ばし拾おうとする。


「それ、人間だね」


その正体をノアがポツリと呟くと

朔桜は脳を揺るがすような強烈な衝撃と同時に手の動きを止める。


「嘘……この落ちているのが全部?」


「そうね。普通の人間はエナジードを持っていないから死んでも消滅もしない。

エナジードを持つモノは自身を強化、補充するために他を喰らう。

でもこれはただ、血液を絞り出すためだけに捩じり潰されたみたいね」


「こんなのって……」


朔桜はあまりの悲惨な惨状を前に口に手を当て目に涙を浮かべる。

そんな時、船内から赤い続服(つなぎふく)の男性船員が叫びながら駆け出してきた。


「うわーーぁぁ!!!!」


その瞬間。


グシャ。


目の前で人が潰れる。

頭蓋は砕け、肋骨も潰れ、木の幹ほどに細い肉の棒と化した。

そして、足元から雑巾を絞るかのように肉を潰し

血管を引き千切り、壊れたように血を吹き出しながら捩じれてゆく。

染み出したまだ温かい血液が甲板を彩る。

そのあまりの悲惨な死に方に皆が言葉を失った。


「きゃーーー!!!!」


一連の出来事を見ていた青い続服の女性船員が叫び声を上げる。

その瞬間。彼女もまた一瞬にして男性船員と同じ末路を辿った。


「なによ。この地獄……」


目の前の悲惨な死に様に流石のティナも不快感を露見させた。

完全な異常事態である事は疑いようもない。

だが、その原因が分からない。

皆が周囲を警戒していると排水溝の小さな穴から

紙を細く長く捩じったような何かが伸び出てきた。

ホラーな仮面を付けた白い紙のような存在。

ティナとリョクエンは一瞬でその正体を理解する。


「そいつ魔物よっ!!」


ティナが皆に大声で警告すると同時に身体が石のように硬直。


「っ――――!!」


全身に得体の知れない外圧が掛かり

メキメキとティナの骨が(きし)みだす。


「てぃ――――」


朔桜がティナの身を案じ、名前を呼ぼうとした。


「全員、叫ぶなーー!!」


必死の形相でティナ自身が叫びを上げる。

次の瞬間、ティナの身が再び軋みだした。

全身が圧縮されているような重圧がティナを襲う。

エナの無い人間なら既に肉塊と化している。

だが、強靭な肉体かつ、ある程度エナを持つ者なら

どうにか耐え凌ぐ事が出来るらしい。


八つ脚の捕食者(スパイダー)!!」


ティナは自身の背中に背負った四角い箱の魔装『八つ脚の捕食者』から

鋭い槍のような八つの脚を即座に出して全ての脚で魔物を八つ裂きにする。

魔物は即死。エナとなり散ると同時に仮面を落とし、ティナに掛かった能力も解けた。


「はぁ……はぁ……今のはナロゥって紙みたいな魔物よ……。

手の先の刺で血を吸う生物……だけどこんな変な仮面を付けている個体なんて見た事ないわ……」


「この仮面は間違いなく“顔の無い集団(ノーフェイス)”だろうな」


甲板に落ちた血塗れの仮面を拾い上げ、ティナの疑問の答えをリョクエンが断言する。


「その仮面能力は、叫んだ相手の全身を捻じり潰すってとこかしら……。

ある程度のエナがあれば抵抗できるみたいだけど、少ない者は即雑巾ね。

甲板を血で染めた元凶は間違いなくこいつ。だけど、まだ油断しないで」


ティナの忠告に皆は強く頷いた。

その途端、巨大母艦の甲板下から突き上げられるような揺れが響く。


「何この揺れ?」


異常な振動に朔桜は怯える。

再び、船が上下に揺れた。

そしてまた揺れる。

揺れは次第に一同に近づいて来ている。

異変に気付いたティナが冷静に指示を出す。


「全員、船の後方へ走れ!!」


一同は指示に従い走り出した瞬間、分厚いコンクリートを六つの鋭利な刺が貫く。

全員間一髪で回避したが、足元のコンクリートを軟土のように押し上げ

巨大で長い仮面の怪物が姿を現したのだった。

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