二十七話 情け容赦ない歓迎
シンシアに別れを告げ、精霊界を後にした一同。
皆は世界を移動中に味わう独特な五感が狂い
自分の意識が肉体から切り離されるような感覚に襲われていた。
「この感覚慣れないなぁ~」
朔桜はフラフラしながらも先導して真っ直ぐに歩き続ける。
ハーフは周囲をキョロキョロと見渡しながら冷静に空間を分析していた。
「影が侵食した空間を移動している時と似ている嫌な感覚だね」
同じく通った事のあるカシャが僅かな違いを指摘する。
「あの空間と違うのは、歩くという労力は必要なく、排出されているような点だな」
「だとすると僕たちは今、世界と世界の狭間を歩いているんだね。
前後左右上下全て同じ景色だけど、これちゃんと人間界に着くのかい?」
ハーフが不安そうに疑問を口に出す。
「(着きますよね?)」
朔桜は不安になり、内に宿るイザナミに問いかけた。
「(へーきへーき。後三十秒くらいで門が出てくるよ)」
「後、三十秒くらいで門が出てくるそうなので大丈夫です……」
「一体いつ誰がそんな事を言ってたんだ?」
「私の中の神様が!」
「君は宗教系の電波ちゃんだったのか?」
「正真正銘、創世神様のお言葉なんですがぁっ!?」
宗教電波呼ばわりされては朔桜も黙ってはいられない。
「はい! 朔ちゃんせんせー!」
「はいはい、何かな~ノアちゃん」
「なんか、知らないおじさんが居まーす。不審者でーす」
「ふえ?」
朔桜が後ろを振り返ると当然のように精霊界で捕縛したドクレスが異空間の最後方を歩いていた。
「えっ!? いつから!?」
「ドクレスの爺さんは、お前があのエルフと挨拶してる間にもうこっち側にいたぜ」
リョクエンが当然のように答える。
「じゃあ、カシャさんもハーフ君も気づいてたの!?」
「ああ」
「うん」
「言おうよっ! そういう事!! 報連相大事だよっ!?」
「まあまあ、狼狽えなさるな、人魔のお嬢さん。
儂とて十分な戦力になる。のぉ、リョクエン」
ドクレスは何かを含んだ笑みでリョクエンを見る。
「まあ、戦力としてはそーだけどよ。
今の今まで狸寝入りして損な役を俺にさせておいた癖に
エルフから離れるなり、図々しくしゃしゃり出てくるのは気に入らねぇなぁ」
「この爺さんを簡単に信じない方がいいにゃ。
寝首を搔かれてもしらんにゃ」
「アギャ」
リョクエンとペテペッツは魔界の出身だが
ドクレスは精霊界出身の“金有場”だ。
そのため、腹の底からは信頼していないらしい。
バグラエガまでもが同調している。
「どうする朔ちゃん? 殺す?」
ノアが『雨の羽衣』構え、臨戦態勢のまま朔桜に判断を仰ぐ。
「う~ん。もしかしたらハーフ君みたいに窮地で
何かの起点になるかもしれないし、このまま連れて行こう!
もし何か変な行動を取った場合は、ノアちゃん、レオ君、カシャさん、ハーフ君の判断に任せる」
「了解!」
四人は朔桜の指示に二つ言葉で返事した。
朔桜の判断を甘いとリョクエンは思いつつも
ドクレスの肩に手を置いた。
「なんとか命繋いだな爺さん」
「…………」
ドクレスはその言葉に反応する事なく
険しい顔で朔桜だけを見ていた。
「着いた!」
朔桜の言葉通り、一同の目の前に突如として通って来た門と同じ門が鎮座していた。
「うわ本当に出てきた!」
ノアが楽しそうに驚く。
「かいもん!!」
朔桜がそう唱えると手で押すには重い扉が勝手に開いてゆく。
「ここをくぐれば、人間界……」
レオ含め、魔界、精霊界出身の者は息を呑み、気を引き締める。
「さ、いこ~!」
ノアの掛け声と共に一同が門をくぐると
目の前に広がるのは無数の銃口。
「打ち方始め!!!」
男性の掛け声で銃口が火を噴いた。
門を囲うくらいの室内で即、小銃をぶっ放すなど正気の沙汰じゃない。
だが、それを想定しているかのように銃を持つ者は全て重装を身に纏っている。
破壊される事のない不破の門へ当たった5.56mmの跳弾をもろともしていない。
「撃ち方やめ! 投擲用意!」
三十名の重装兵たちは腰袋から手榴弾を手に取る。
「ピン抜け! 投げっ!」
一人の合図で全員が一秒のズレもなく安全ピンを抜いて横手で手榴弾を投げた。
激しい爆発ともに門の前方が吹き飛ぶ。
「構え!」
男性の掛け声で再び全員が小銃を構える。
「もういいわ! 全員下がりなさい」
高い所から一連の様子を窺っていた者が身軽に門前に飛び降りた。
カツカツと靴音を鳴らし、門前に近寄ってゆく。
「お帰りなさい。歓迎の花火は気に入ってくれたかしら?」
爆煙に語り掛ける妖艶な漆黒のドレスを着た金髪の少女。
「あれで死んでいたらどうするつもり?」
少女の声に反応して朔桜の言葉が返って来る。
「平気でしょ。貴女たちなら」
絶対に死ぬわけがないと完全に信頼しきった発言。
同時に透き通った布が一閃し、爆煙をかき消すと
全員が無傷でサイドテールの少女と対峙する。
「ただいま! 明っ!」
「お帰り、朔桜」
朔桜は満面の笑みで
ティナは優しく微笑み
無事、親友同士は再会を果たした。




