二十五話 信用に足る答え
朔桜によって人間界と精霊界を繋ぐ“精人門”の結界は解かれ
一時的に全ての生物が自由に行き来できるようになった。
来た時と同様に黒と紫が入り混じった不気味な異空間が門一杯に広がっている。
「よしっ! これでみんな通れるよ!」
朔桜が合図を出すとレオが飛び出すように一番に駆けてゆく。
「行きましょうっ!」
キリエの事が心配で居ても立っても居られない様子だ。
「Dr.元気かな~」
足取り軽くノアが続く。
「アギャ!」
バグラエガがドスドスと物理的に重い足取りで飼い主を追う。
「この子通れるかな……」
「押し込めばなんとかなるよ」
バグラエガの巨体が門を通れるか朔桜とノアが心配している。
「やれやれ、これからまた死線に行くかもしれないのに吞気だね」
朔桜とノアの胆の据わり具合に呆れながらも、ハーフが門の前へと進んでゆく。
「ボケっとしてないで君らも来るんだよ」
「へいへい」
「はいにゃ……」
ハーフが促すとリョクエンとペテペッツも渋々後に続いた。
残るは三人。
気を失っているドクレスとシンシアとカシャ。
ドクレスはともかく、シンシアとカシャが門前へと動く気配はない。
「どうしたんですか二人とも?」
異変を感じ取った朔桜が二人に問う。
すると先にカシャが口を開いた。
「私が“金有場”として再契約したのは、ロード・フォン・ディオスだ。
流れでここまで付いて来たが、人間界へ行くとなると話が変わってくる」
「今更何言ってるの?」
突然の話にノアが文句を言う。
「そうですよ! カシャさんの師匠だって敵対してるんですよ?
能力の影響も受けたままだし、彼と話し合わなくていいんですか!?」
レオも熱くなって叫ぶ。
しかし、カシャは冷静に言葉を返した。
「話は最後まで聞け。金で雇われていた関係はここまでだ。
この先からは“金有場”のカシャではなく、一人の精霊人カシャとして提案する」
意を決したようにカシャは朔桜に向き合う。
「桜髪、この私を……配下にする気はあるか?」
「えっ!」
当然のカシャの申し出に朔桜は戸惑う。
「配下だなんて! 私、人の上に立つような立場じゃないですよ!」
「何を言っている。魔界の王族の血筋なのだろう。
私が配下として仕えるには、十分な身分だゾ」
「でも……」
「これは私の利己的な判断だ。
お前たちに付けば、裕福に過ごせると判断しただけの事。
そこの白黒と動機は同じだゾ」
「白黒って……」
ハーフは不服そうに口を開くが、言葉を呑み込んで朔桜の答えを静かに待つ。
朔桜は呻りながら少し考えてからカシャへ問う。
「何度も死ぬかもしれませんよ?」
「構わん」
「王族として十分に養えないかも」
「そうなれば、帰って来たロード・フォン・ディオスに
お前不在の間、妹を守ったと取り入るまでだ」
「っ! あははっ! 正直ですね!」
朔桜はその答えで決断を下す。
カシャは神域へと消えたロードの帰還を信じていた。
それ以外にカシャを認める理由なんてものは不要だ。
「どうだ、桜髪。いや、サクラ・フォン・ディオス」
「私、まだ認知されてない一庶民ですけど、貴方の判断を絶対後悔させませんっ!
出世払いで良ければ、是非、お供お願いしますっ!!」
「ああ、これからよろしく頼む、桜髪」
こうして、カシャが雇われの身から正式に仲間へと加わり
仲間として一同のもとへと踏み出した。




