二十二話 聴取
未だ残っている敵の刺客は、ペテペッツとラヴェイン。
多くの情報を聞き出すべく、シンシアが生け捕りにした二人の男のうち
協力的な仮面の男リョクエンをレオが叩き起こす。
「おい、起きろ!」
リョクエンの胸ぐらを掴んで揺すると、不機嫌な顔でレオを睨む。
「お前らが会話始めた最初っから起きてるっつーの。服伸びるから手ぇ放せや」
レオが手を放すと深く溜息を吐く。
「俺の一張羅伸びちまったじゃねーか」
「んなもん知るか。起きてたなら色々と聞いてただろ?
お前らの負けだ。大人しく従った方が身のためだぜ」
「らしいな。この人数差で抵抗しようなんて思ってねぇから安心しな。
で、何を喋らせてぇんだ?」
「洗い浚い全部だ!」
再び溜息を吐くリョクエン。
「ま、いいだろう。面倒臭いのは嫌いだ。手短に全部話すぜ」
「いい心掛けじゃねーか」
「まず、俺らの狙いはそこのおさげ女以外の抹殺」
「おさげ女って私?」
朔桜は呆然と自分を指差す。
「他に誰が居るんだよ?」
「なんで私以外なんです?」
「んなもん知るか」
リョクエンの高圧的な態度にビビった朔桜は
シンシアの背中に隠れると代わるようにシンシアが問う。
「貴方の雇い主は誰?」
「メサ・イングレイザって随分とボケっとした魔人だ」
「ん? 彼、そんなにボケっとしてたかしら?」
「してるだろあれは。不愛想で感情も何も読めやしねぇ。
で、雇われた経緯はスカウト。報酬は金」
「僕らと同じ金で雇われたって事だね?」
ハーフが雇われた動機を話すとリョクエンは頷く。
「今の魔界は情勢が滅茶苦茶だからよ。
少しでも生存率のある十二貴族に金持って媚び売っておかないと生き残れねぇからな」
「確かにそうだね」
互いに同調し、二人して世知辛い顔で唸っている。
「目的と動機は分かったわ。
それはそれとして、もう一つ。
貴方が能力を与えられたって言うのは――――」
シンシアが能力の件について再び問いかけようとすると突如として殺意が放たれた。
「っ! 敵よ!」
一同は背中を合わせて周囲を警戒する。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
雄叫びを上げ、唾液を飛び散らしながら
森から飛び出してきたのは、朔桜が倒したはずのバグラエガ。
「うそっ! 全然凝りてないっ!」
痛い目に遭わせたにも関わらず
空腹を満たすがままに一同に襲い掛かるバグラエガ。
「も~~ちゃんと殺さないから~~」
ノアが『雨の羽衣』を使い両断しようとするが
急遽、殺すのをやめた。
衣で全身を縛り上げ、完全に身動きをとれなくする。
ノアはバグラエガの顔の前まで迫ると質問をした。
「君、お腹減ってるの?」
「アギャ」
バグラエガが可愛らしく返事をすると
ノアは自身の宝具【満腹】で
カレー、ハンバーグ、ラーメンなどの御馳走をこれでもかというほど出す。
「さ、お食べ~~」
ノアが衣を解くとバグラエガは一目散に食べ物に食らいつく。
「よっぽどお腹が減ってたんだね、この犬」
「犬……!? なのかなぁ~~……!?」
ノアの純粋な言葉に朔桜困り苦笑いを浮かべている。
そんな合間にバグラエガはノアが出した食べ物を全て喰らい尽くした。
「お手」
「アギャ」
ポン。
「おすわり」
「アギャ」
ドスン!
いつの間にか芸まで仕込んでいる。
「ねぇ、朔ちゃん。この犬飼っていい?」
「えっと……うち、庭とか無いし……。
室内飼いするにはちょっと大きすぎるというか……」
「じゃあまちかぜ園で飼うっ!」
「確かに運動場は広いけど……そうすると
みんながご飯になってしまうというか……」
「大丈夫っ! この子の面倒はノアみるからっ! ねっ!」
「う~~~ん」
ノアから物事を頼むのは珍しい。
頼みを叶えてあげたいのは山々だが
目を回しながら必至に方法を考えるも
上手く落とし込める良案が朔桜には浮かばない。
「お困りの貴女にはこれにゃ!」
朔桜にそっと手渡された大きな赤い首輪。
「えっと……これは?」
「それは魔導具『獣縛りの首輪』。大型の魔獣を使役する時に使うモノにゃ」
「はぁ……というか、どうして猫さんが……」
「猫さんではありませんにゃ。皆さん、申し遅れましたにゃ。
あたい、ペテペッツと申しますにゃ。此度の件では大変失礼をいたしましたにゃ。
無条件降伏致しますのでどうか、どうか寛大なご処置をお願いしますにゃ」
突如として現れたペテペッツが朔桜の前で土下座して
一同に無抵抗だという事を示したのだった。




