二十話 欠けずの生存
一同の乗るグリフォンが撃墜され、夜の森に散らばり各自の戦闘が始まってから数刻。
最初に合流出来たのは、レオとカシャ。
レオは重い身体を引きずって、ラヴェインに蹴り飛ばされた場所まで何とか戻って来た。
そこには既にラヴェインの姿はなく
大の字で仰向けに倒れ、呆然と空を眺めた寂しげな血塗れのカシャの姿だけがあった。
「カシャさん!」
ボロボロのレオがカシャの名を呼ぶ。
「茶髪、無事だったか……」
レオの声に反応したカシャが静かに安堵の声を漏らした。
「無事……とは言い難いですけど、なんとか生きてます……。カシャさんも勝ったんすよね?」
レオの嬉しそうな声にカシャは空を見上げたまま答える。
「いいや、私は……負けたゾ……」
「え、でも、カシャさんはこうして――――」
「見逃された」
レオの言葉を遮ってカシャは先に結末を伝えた。
「私の能力《泣きの一回》がなければ、私はもうこの世にはいない」
ラヴェインはカシャの能力を知っている。
二度殺されれば、カシャは確実に死んでいた。
だが、ラヴェインは故意にカシャにとどめを刺さなかったのだ。
それを理解しているカシャは悔しさのあまり拳を強く握り締める。
「カシャさん……」
掛ける言葉のないレオはそこで静かに沈黙した。
「お~~い」
そこに鈴のような綺麗な声色が暗闇の中から響く。
「この声は……!」
レオが聞き覚えのある声に反応すると
ハーフを『雨の羽衣』で包んだノアが元気に登場した。
「ノアちゃん、無事で良かった!」
「とーぜん! そっちは随分とボロボロだね!」
ノアが包んでいたハーフをカシャの横に放り投げる。
「いでっ……もっと優しく扱えよ……」
手足を失ったハーフが衝撃で目を覚まし
弱々しくノアに抗議する。
「あ、半分くん生きてたんだ」
ノアは意外とばかりに目を見開いて驚く。
「消えてないからそうなんだろうよ……。
お前があの魔物を倒してくれたのか」
「うん!」
「そうか、助かった。え~っと……」
「ノアだよ~」
「助かった、ノア」
「えへへ~。そうだこれも拾っといたよ」
ノアが衣から出したのは切り落とされたハーフの右腕と右脚。
端の部分からエナになりつつあるがまだ形は残っていた。
「はい、半分くんの半分置いとくね」
腕と脚をハーフに投げ渡す。
「言い方!」
「じゃ、ノアは朔ちゃん探してくるから」
『黒鏡』の存在を完全に忘れているノアが踵を返すとカシャがそれを止めた。
「待てちびっ子。どうやらその必要は無さそうだゾ」
言葉の通り、森の奥から煌々と輝く灯火が見える。
「みんなぁ~大丈夫~!?」
心配そうな朔桜の声。
その後ろから火の精霊を灯すシンシアが現れた。
シンシアの両手には二人の敵が縄で縛られている。
「朔ちゃ~ん!!」
ノアは朔桜へと飛び込み互いに抱き合う。
「無事で良かったよ~」
凄く心配するノアの様子を見て朔桜は目を潤ませ感激する。
「ノアちゃん……そんなに心配してくれてたんだ!」
「もちろんだよ!
だって、朔ちゃんになんかあったらノア、ロードくんにぶっ壊されちゃうし!」
「あっ……そーゆーね……」
「でもでも、普通に心配だったのはほんと~~~~」
ノアは強く強く朔桜を抱きしめた。
「あの~仲良しするのはいいけどさ、先に回復……頼めるかい?」
「えと……俺もたのんます……」
ボロボロのハーフとレオは申し訳なさそうに朔桜に助けを求めた。
「は、はい! 今すぐに~~!」
朔桜はすっ飛んで二人を宝具【雷電池】で回復。
その後、各自乗っていたグリフォンたちも無事に連れて来て回復させた。
一同は個々に難敵を退け、誰一人として欠ける事なく
一箇所に集う事が出来たのであった。




