十九話 覚醒の精霊魔術 (挿絵あり)
私は秘策でバグラエガと戦う事を決意し
死苦草を大量に用いた花束を食べさせる事に成功したが
バグラエガを倒すには至らず、逆に追い詰められていた。
倒れ込む私に大口が迫るが、立ち上がる隙は無い。
横に跳んで避けれる距離でも無い。
私は一か八か目を左腕で覆い、右の人差し指と中指を揃え
手を銃のようにして精霊術を唱えた。
「眩しいエレル!」
唱えた通り、いつもより眩しい光が出る。
バグラエガは一瞬怯み、その隙に私は後方に身を引いた。
「(強い認識の精霊術で奴の目を眩ませたのね)」
視界の無いままバグラエガは口を閉じるが、何も食を満たすモノは無い。
「ロードの言った通りでした」
私は以前ロードと話した時の事を思い出す。
「ロードってなんで術を言う時と言わない時があるの?」
「ああ、そんな事か。
術ってのは、脳で明確にするほど威力や精度が増す。
口に出す事で脳がこの術を出すんだと明確にしやすいってだけだ。
逆に口にしない方が集中出来て明確にしやすいって奴もいるしな」
「ほぇ~」
「お前が聞いてきたんだからもっと関心持てよ……」
「いや、全然実感出来なくて……」
「ま、術を使ってれば嫌でもその感覚が分かってくるだろうよ」
ロードとの会話を思い出し、咄嗟に初心者精霊術エレの上位術のエレルに“眩しい”という付加を与えた。
精霊王や精霊神との戦いでは日の目を見る事が出来なかった精霊術だけど
私だってスネピハの鍛錬場でちゃんと精霊術の修行したんだから!
自分の力で危機を逃れた。この成功体験は私に自信をつけてくれた。
「(尻尾がくるよ)」
空腹に飢えたバグラエガは尻尾を伸ばし私を狙う。
私は再び、指を向けて精霊術を唱える。
「サンダル!」
中級のサンダの上位術サンダルの電撃が尻尾の顔に当たった。
でも、まるで勢いは衰えていない。
「眩しいエレル!」
再び視界を眩ませて攻撃をかわし、なんとか木の裏に隠れる事が出来た。
でも稼げて数十秒。匂いですぐにバレてしまう。
一応、上級精霊術も習っていたけれど、鍛錬の期間に一度も出す事が出来なかった。
ぶっつけ本番で出すにはあまりにリスクが大きい。
でも、今は自分で乗り越えるしかないんだ。
宝具からエナの供給は十分に出来る。後は私次第だ。
木の陰から身を出して素早くバグラエガに狙いを定め、精霊術を唱えた。
「ランダディーラ!!」
しかし、何も出ない。
「あれ……ランダディーラ!!」
やっぱり出ないものは出ない。
私を見つけたバグラエガは猪突猛進で突っ込んで来て木を押し砕く。
「ぐっ~!」
突進に巻き込まれた私は再び地面を転がる。
木がある程度受けてくれてこの威力。
トラックに轢かれたらこれくらいの勢いなんだろうか。
いや、それ以上ある。こんな太い軽々木折ってるし。
全身打ってズキズキする。
身体も擦り傷で血塗れだ。
でも、負けられない……。
食べられてなんてやるもんか。
再会するって約束したもん。
「(朔桜……)」
助けは呼ばない。
私は一人で乗り越えるんだ。
そう強く思った途端、頭の中で“何か”と“何か”が噛み合った。
「何……今の感覚……」
得体の知れない感覚。
分断されていた何かが、一つに繋がった感覚。
今までの私と何かが明確に違う。
「(こんな事が……)」
イザナミさんは私の中で何が起きているのか分かって驚いている様子だ。
でも、説明を受けている時間は無い。
それに自分でもなんとなく感覚で理解した。
今まで曖昧だった私が“私”として確立したのだと。
「痛いから覚悟してね!」
指をバグラエガに揃えて左手で手首を固定し、上級術を詠唱する。
「精霊魔術―サンダディーラ!」
乖離していた過去の私と今の私が一つとなり
精霊術と魔術が一つに混じり合った精霊魔術と成した。
暗い周囲を照らすほどに激しい電撃が迸り
私の指先に電撃が集まり、高密度の球体が出現。
バグラエガは電撃の球体に警戒しつつも、食が勝ったのか
大口を開けながら猛速で突進して来る。
「少し――――おやすみ」
慌てず、焦らず、静かに呟き、指先の球体を打ち出すと
目にも止まらぬ速さで電撃がバグラエガの頭から尾の先までを一瞬で駆け抜ける。
その巨体は時が止まったかのようにピタリと歩みを止め
口から白い煙を出し、白目を剥き、ズドンと大きな音をたてて地に伏す。
その様子を見て私は深々と溜息を吐き勝利を確定させたのでした。




