二十七話 怒れる十二貴族
顔に重い一撃を食らったステンは、割れた眼鏡を投げ捨てる。
眼鏡が破損した事で、宿っていた宝具の概念はきれいサッパリ消滅していた。
髪を乱雑に掻き毟り、綺麗に整っていた髪型はボサボサ。
上品に着飾っていた燕尾服も投げ捨て、血の付いた白いシャツの首元のボタンを二個外す。
そして両手の白い手袋を千切れそうなぐらい引き伸ばした。
「よくもやってくれましたね……、このクソガキ。今の眼鏡は宝具だったんですよ……?」
「知ってる」
なんの感情もなくあっけらかんと答えた。
その態度は更にステンの怒りを跳ね上がらせる。
「それをよくも……私にたて突いた事を後悔させてやるよ!!」
以前の様な冷静ですかした顔つきではなく、鬼のような鋭い目つきでこちらを睨む。
「そーゆーのは鼻血を止めてからにしてくれよ。あまりに滑稽で笑っちまう」
顔に手を当てステンを指差し笑う。
「貴様ァァァァァッァ!!!!!」
本気のステンがまっすぐロードのところへ向かってくる。
「普段すかしてる奴ほど頭に血が昇りやすいってな」
煽られて激昂するのはロード予想通りの展開だ。
「大揺地―裂!!!」
硬く握った拳を拳法の型のように突き出す。
「おいおいどんだけ手前で――――」
言葉を終える前に大地が揺れ、轟音とともに地面が二つに裂けた。
飛翔で浮遊し難を逃れたが、飛翔が無ければかなり厳しい術だった。
「無事象!」
突然ロードを囲うように青色の結界が張られた。
「なっ!」
すると魔術は無かった事にされ、飛翔の能力が消え落下。
このままでは裂け目に落ちる。
「クソが!」
結界を何度も殴るが、先ほどよりも硬く張られていてなかなか割れない。
「大揺地―幽獄!」
魔術を唱え、地面に拳を強く叩むと、割れた地面からゆらゆらと歪んだ無数の紫色の触手が現れた。
触手はもうロードの目前。
ギリギリのところで無事象の結界を叩き割って外に出るも、紫の触手が髪の先端を掠める。
すると掠めた先端部分は一瞬で溶かされてしまった。
「くそがぁぁ!!! 死ね! 死ねぇ!」
触手の速度は速くはないものの、何度かわしてもしつこく追ってくる。
おそらく追尾能力があるのだろう。
だが、当たらなければどうという事はない。
「紫雷」
広範囲に広がる紫色の電撃を放ち、触手を軽々と一掃する。
「おいおい、随分鈍い術だな」
ステンの怒りはもう限界値を突破している。
冷静で澄ました姿はもうない。
荒々しく声を荒らげる。
「アルシャヴィキーラァ!! なにをしている!! 早くこいつを殺せェ!!!」
ステンの命令で、壁にめり込んでいたアルシャヴィキーラも再び動きだす。
「さあ、嬲り殺しだ!!」
「まあ、これぐらいがちょうどいいハンデだな」
「戯言を! 遺言はそれだけか?」
ステンは有利な状況になり落ち着いたのか高笑いを始める。
「御託はいい。早くかかって来い、五流貴族」
ロードは冷静に再びステンを挑発するのだった。




