十六話 欧波転衝
森の上空を旋回し、レオの隙を窺う魔物白刃ヤゲン。
ラヴェインの《軽重》を受け、重量化されているレオはついに
飛行するヤゲンを倒す秘策を使う。
右の拳を高く掲げ、重量化の重さを活かして下で構えた拳に叩きつけた。
「反拳!」
拳が砕けてもおかしくない威力の衝撃を能力《反拳》で受け止め、左拳に蓄積。
上空のヤゲンにしっかり狙いを定め、拳を構える。
「食らいやがれ! 殴波!」
拳を前に突き出し、拳と拳がぶつかり合った衝撃のエネルギーを衝撃弾として放ったのだ。
これならば飛行する相手にも対抗できる。
しかし、ヤゲンは空気の流れを読み、ヒラリと無色透明な欧波を容易くかわす。
「なっ! 避けんなよ!」
重い身体を動かし、せっかく放った秘策の一撃をかわされ文句を言うレオ。
ヤゲンはかわした勢いのまま滑空し、再びレオへと迫る。
「くっそこっち来んな!」
反拳を使い殴りかかるもかわされ
すれ違いざまに腕を切り裂かれた。
そして、ヤゲンは再び上空で旋回を開始。
急がず、焦らず、無理はせず
確実に相手の隙が生まれるまで待つという知性を持ち合わせている賢い魔物だ。
「いってぇ~~あいつ……せこい真似しやがって……!」
そろそろレオも限界。
時間が経つほど出血が効いてくる。
急所をかわせる気力や体力が無くなれば
遅かれ早かれ狩られるという事にレオも気づいていた。
考え事をしている事に勘付いたのか、再びヤゲンが滑空を始める。
「くっ!」
反拳を使い、地面を殴って衝撃を拳に溜めて迎え撃つ。
「今度は外さねぇ!」
ヤゲンはクルクルと回転しながらドリルのようにレオへと迫って来た。
先端部分目掛けレオは欧波を放つが、回転の勢いにかき消される。
「反拳!」
拳で殴りかかるも見事にかわされ
左腿の肉をごっそりと抉り取られた。
ヤゲンは上空へは上がらず、一回転して
再び回転しながら仕掛けてくる。
「反拳!」
拳は空振り、今度は右の脛を抉られた。
「反拳!」
何度も切り返し襲って来るヤゲンに
レオの身体は削られてくる。
「反拳! 反拳! 反拳!」
何度も何度も反拳を使うレオ。
「反拳! 反拳! 反拳!」
むやみやたら使っていると思いきや
拳同士を合わせたまま反拳を繰り返していた。
「反拳! 反拳! 反拳!」
その異様な行動を不審に感じたのかヤゲンは今一度上空へと退避する。
「なあ、俺の反拳……今何倍だと思う?」
そうヤゲンに問いかけると右半身を前に傾け
立っているのもやっとな抉られた両足でしっかりと地面を踏みしめる。
切り裂かれた左腕を脱力させ、右腕に全神経を注ぎ強く握り締めた。
その圧倒的な圧に危機を感じたヤゲンは
死にかけの獲物から逃亡を図るため加速する。
「勘も判断もいい! だが、逃がさねぇ! 今までのツケ全部返すぜ!!」
脇を締め、一気に重い右腕を突き出した。
「欧波転衝!!」
一瞬の空白の時を得た次の瞬間。
空中のヤゲンは跡形も無く消し飛び、エナが霧散した。
反拳で倍々に膨れ上がった拳の衝撃が一点集中の衝撃砲となり
空気を揺るがすよりも速く放たれたのだ。
「どうだ……ざまあみろ……」
レオはヤゲンの最後を確認すると
張り詰めた緊張の糸が切れその場に倒れ込むのだった。




