十五話 仮面に伝う鮮血
旧師であるラヴェインとの拳と拳のぶつかり合いで敗北したカシャは
吹き飛ばされ背中に深い痛手を負ってしまった。
口から零れる血を腕で拭い、カシャはふらつく両脚で
しっかりと地面を踏みしめて立ち上がりラヴェインに向き合うと
ラヴェインは腕を組み満足気に頷いた。
「さあ、来いカシャ!」
森中に響くような大きな声を上げ、両拳を構える。
それに応えるようにカシャも大声を上げ、その身を投じた。
「マカロニタックル!」
低姿勢で肩から猛速で駆けるカシャ。
その動きをしっかりと観察するラヴェイン。
「速度に角度に体格。申し分ない!
だがっ! シロナガスタックル!」
ラヴェインもカシャと同じように
低姿勢で肩から猛速で駆け出し、両者の肩がぶつかり合う。
大木と大木がぶつかり合うような重く鈍い音が響く。
「《軽重》! 軽量化!」
ラヴェインの能力で途端にカシャの質量が変化。
大木のような根強い重量感が突如、朽木のように軽くなり
ラヴェインの強固な肩がカシャの肩骨にめり込み、骨が易々と砕けた。
「がぁ!」
そのまま突き上げられるようにしてカシャは吹き飛ばされる。
「まずは左肩粉砕」
ラヴェインは壊した部位を確認し、即座に追撃する。
「ニタリジャンプッ!」
一足で宙へ飛び上がると大きな両手を強く握り合わせ指の隙間なく埋める。
「ホッキョクハンマー!」
鉄槌のような重い一撃がカシャの六つに割れた腹部に入り
物凄い速度で地面に叩き付けられ、地面で跡形も無く爆ぜた。
「腹部大破……のはずだが、今の感覚は――――」
ラヴェインが訝しげな顔で地面に降り立った瞬間
背後の茂みに潜んでいたカシャが背後から飛び出す。
「ジェンツーチョップ!」
重機のように重く、易々とは止まりはしない一刀両断の手刀がラヴェインの首を狙う。
「殺気が駄々洩れだ」
ラヴェインは背後からの不意の攻撃を
まるで後ろに目が付いているかのような動きで
背を向けたまま、手首を掴んで受け止めた。
「やはり宙のは変わり身だったか。いつ変わったのかまるで分からなかった」
その言葉からは喜びの感情が伝わってくる。
旧師として元弟子の成長は素直に嬉しいのだろう。
しかし、振り向くと同時に放たれたのは無情な一撃だった。
「ツノシマブロー」
刃物のように鋭い突きがカシャの強靭な肉体を掻き分け、心臓を貫く。
「がはっ……」
金色の仮面から真っ赤な血が伝い
活力に漲った肉体は力なく項垂れ、命亡き肉塊へと化した。
「これは一回目か? それとも……最後か?」
貫いた腕を引き抜くとラヴェインは弟子の亡骸を静かに地面に横たわらせる。
「残念だ。カシャ」
ラヴェインはそう静かに呟くと森の中へと姿を消して行くのだった。




