十四話 小さな天使
右腕を切り落とされたハーフは
左手で切断面を抑えながら懸命に夜の森を走る。
偽りの身体も厄介だが、足が進まなくなる理由も未だ解明できていない。
足を止めてしまえば、敵対する魔物ブロッコリンに殺される切迫した状況だ。
今は散らばった他の仲間に助けを求めるしかない。
必至で逃げる最中、突如としてハーフの足が前に進まず強制的に止まる。
「なっ!」
「残念、そっちは行き止まりだ!」
楽しそうなブロッコリンの声とともに
地面から突き出した木槍がハーフの脇腹を貫いた。
「ぐあっ!!!」
致命傷に至る傷ではない。
わざと急所を外し、ハーフが逃げる様を見て遊んでいるのだ。
「誰か……近くにいないのか……」
腕のの出血のせいで頭のてっぺんから冷たくなっていく。
体力と気力が削られ頭に靄がかかり気が遠のく。
「ほらほら! ははは!」
無数の木の根がハーフの肉体を抉ってゆく中
ブロッコリンの楽しそうな笑い声だけが夜の森に響く。
ハーフの身体はもう限界寸前。
一度倒れれば、もう立ち上がる事は出来ないほどに疲弊していた。
「そろそろ飽きてきたなぁ。もう殺しちゃおう」
地面から飛び出した鋭い木鎌がハーフの右脚を切断した。
ハーフは声も無く地面に倒れる。
「なんだ、つまらない。せめて叫び声でも上げてくれよ」
ハーフはもう叫び声を上げる気力すらない。
虫の息で動く事すらままならない。
そんなハーフの無惨な姿を見つけたモノがいた。
「あ~~いたいた~~」
森の暗がりから不意に出て来たノアが能天気にハーフに話しかける。
「随分派手にやられたね~~名前の通り本当に半分になっちゃってるね」
「…………」
ハーフの息はまだある。
生存を確認するとノアはポツリと呟いた。
「良かったね。助かって」
「助かる? 何を言っている」
無数の木槍がハーフ倒れる地面から勢いよく飛び出した。
「どうだ、目の前で仲間が死んだ気持ちは?」
残酷な質問を投げかけるブロッコリンに対して
「最高だよ! 勘違いバカが楽しそうに笑ってくれるんだからさ」
余裕のある声でノアが返答した。
ノアが操る『雨の羽衣』の中には
しっかりと瀕死のハーフと切り落とされた腕と脚が包まれてきた。
「何が起きてるのか地面の中じゃ伝わらないよね?
今引っ張り出して見せてあげる」
ノアは黒髪黒衣の少年ロード・フォン・ディオスへと姿を変え
地面に手を当て魔術を唱えた。
「雷衝」
手からソナーのように電波が広がり生体反応を読み取る。
「そこか」
ハーフを片布で持ち、もう片方の先端をドリルのように変化させ
土の中へ潜らせる。
数秒後腹部を貫かれたブロッコリンが地面から飛び出してきた。
ノアは少女の姿に戻り魔物と対面する。
「やっと出て来たね。うえ~でっかいブロッコリーだぁ~」
ノアは二メートルを超えるブロッコリンを見て嫌悪感を露わにする。
「少女……貴様何者だ……」
腹部の攻撃が効いたのかブロッコリンは息が荒れている。
「ノアはノア。好きな食べ物はお寿司にカレーにハンバーグ!
嫌いな食べ物は野菜全般、特にブロッコリーかな」
不意を衝く衣が瞬時に伸び、ブロッコリン頭部の花蕾を半分刈り取る。
「がああああああ!!!」
苦痛の声を上げるブロッコリン。
ブロッコリンにしてみれば、頭部の半分を削ぎ取られたようなものだ。
その痛みは想像を絶する。
「特にそのもさもさした部分が嫌いなんだよね」
ブロッコリーの嫌な舌触りを思い出し、顔を可愛らしく顰める。
「いじめは良くない事だけどさ~。
朔ちゃんの手下をいじめるいじめっ子にはノア、容赦しないよ?」
ノアは可愛い可愛い満面の笑顔でブロッコリンを見つめた。




