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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
六章 心呑まれし堕黒の姫
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十三話 シンシアVSリョクエン&ドクレス

ドクレスが放った炎の渦に呑み込まれてしまったシンシア。

リョクエンは満足気に笑みを(こぼ)し、炎に背を向ける。


「さ、ドクレスの爺さん。次を狩りに行こうぜ」


「いや、リョクエン。まだじゃ」


「あん?」


リョクエンが振り返ると炎の渦の中にシンシアの姿があった。


「おい、冗談だろ! あの炎の温度1000℃は軽く越えてるぜ!」


リョクエンは信じられないと身を仰け反らせる。


「よく見ろ。炎精霊が奴の周囲を守っておるんじゃ」


ドクレスの言う通りシンシアの身体の周りを小さな赤い光が忙しなく飛び回っていた。

シンシアは炎の渦に呑まれる寸前、火の精霊デネブを呼び出し周囲に結界を展開していたのだ。


「なるほど。アレを弾いちまえば良いんだな?」


ドクレスが頷くとリョクエンは意気揚々と指を構える。


「お安い御用だ!」


リョクエンが仕掛けてくる事を悟り、一手早くシンシアが動いた。


「エレクト!」


雷の精霊ベガの力を借り、足力を強化し

猛烈な速度で炎の渦から飛び出した。


「爺さん!」


「アースウォルバ!」


リョクエンの合図とほぼ同時にドクレスが地の精霊術を唱え

地面から鋭く尖った棘のある防壁が飛び出し、シンシアの行く手を阻む。


「くっ……“三適者(トリプル)” か」


シンシアは足を止めず、棘を足場に飛び上がった。


「フレイグ!」


拳に炎を纏わせ、直接ドクレス目掛けて殴りかかる。


水柔(すいなん)


ドクレスは焦る様子もなく、水の中級精霊術を唱えると空気中の水分が一点に集まり

シンシアの凄まじい威力の炎拳の衝撃を吸収し、炎を鎮火した。


「ストーンレガド!」


地面から極限まで速度と殺傷力に特化させたであろう細く鋭い尖った岩が飛び出す。


「くっ!」


シンシアは身を捻って攻撃をかわす。

次いで蹴りを繰り出そうとすると

それを狙っていたかのようにドクレスの眼がギラリと輝った。

咄嗟に危機を感じたシンシアは身を翻して後方へと退く。


「流石は異形種。到底精霊人の動きではない」


ドクレスの言葉にシンシアは顔を(しか)める。


「……今どきエルフ差別は流行らないわよ」


「異形種の小娘がこの老い耄れに説教するか」


「小娘? 年上の有難いお言葉よ。お坊ちゃん」 


「おほほ、これは失敬。異形種は無駄に長命であったな。

まるで……“精霊女王の忘れ形見”のようじゃ」


「…………」


ドクレスの言葉にシンシアは沈黙する。


「長命でありながらあの陰気な森に籠り、無駄に命を消費してゆく存在。

僅かでもその無駄な命を儂に分けてほしいものじゃ」


「…………」


「この仕事を終えたら、異形種を解剖して寿命を延ばす研究をするのも一興じゃのぉ」


「何それくそ面白そうじゃん。俺にも見せてくれよ解剖」


同胞を軽んじる二人の言葉にシンシアはついにキレた。


「……お前のような奇異な目を向ける者が居るから私たちは森の中でひっそりと生きているのよ。

私たちだって広い空の下で自由に生きたい! 広い荒野を自由に走り回りたい!

普通に暮らして色々なものを見て生きていたいだけなのよ!」


「おいおい、キレちまったよあの女。面倒くさ」


「長い歴史の溝を簡単に埋める事など出来ん。

エルフとは我々からしてみればそういう存在なのだ。

貴様がどうしても精霊人と言い張るのであれば認めよう。

だが、精霊人としてこの“四適者(リゾーマタ)”の天才錬金術師ドクレスの研究のためその命を捧げておくれ」


ドクレスは自慢そうに言いながら長い髭を撫でる。


「“四適者”如きの実験体でこの命終える訳にはいかないわ」


「如き、と申すか。いいだろう。なら見せてやろうではないか」


ドクレスは火風水地の四属性を同時に発現させる。

凄まじい力がドクレスの手元で形成されてゆく。

何か仕掛けてくるのは明白。

だが、不用意に近づくのは危険だ。

シンシアは咄嗟に背中の弓矢に手を掛けようとするも

シンシアに顔を向けるリョクエンの存在を思い出す。


「いいぜ、使えよ。そのご自慢の弓矢をよぉ」


自信に満ちたリョクエンは人差し指でシンシアを挑発する。


「さぁどうしたぁー? 爺さんの究極術が完成しちまうぜー?」


シンシアは不満を抱きつつも、背の弓矢を取って放つ。


星々は世界を渡る(スターゲートワン)!」


放たれた矢は即座にその姿を消して別次元、超異空間に消え去る。


「なるほど。消える矢ってか。

だが、刺さる時は必ず現れるよな」


異空に消えていた矢がドクレスの腹部で突如として出現。

腹部への到達まで僅か二ミリの距離。


「捉えた」


リョクエンが一言小さく呟くと矢は木材とは思えないほどにぐにゃりと曲がり

ドクレスの腹部スレスレで軌道を変える。


「返すぜ」


シンシアが矢を素手で回収すると同時に

ドクレスの精霊術が完成してしまう。


「完成じゃ。これが我が最高傑作の錬金術の果て。錬金核(アルケミーコア)


手元ではドクレスの顔と同じくらいの大きさの銀色の液体が

意思を持っているかのように不気味に動く。


「この物質は全ての既存する元素へ変化する!

生身で触れたが最後じゃ! リョクエン、手早く決めろ!」


「わーってるって。熱くなるなよ爺さん」


液体が爆ぜ、数百となり散らばり

それをリョクエンが自由自在に操る。


「んじゃ、死んでくれよ」


無慈悲なる無数の死がシンシアへ向かって放たれた。

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