十一話 赤纏の白刃
カシャの元師匠ラヴェインの蹴りで森の奥に吹き飛ばされ
森の中を一直線で吹き飛んでゆくレオ。
彼の能力《軽重》を受け、身体は鉛のように重くなり、思い通りに動かなくなっていた。
「く……そ……」
重さも相まって木に激突しては、木を大破させ後方に吹き飛んでゆく。
三十七本目の木にしてやっと勢いが落ちて勢いが止まった。
「……ぐっ……」
レオの身体はもうボロボロだ。
特に背中は肉が抉れ、血が滲み出ている。
「身体が重い……くっそ…………」
レオは自分の非力さを実感しながらもなんとか立ち上がる。
蹴りに対応するどころか、反応する事さえする事が出来なかった。
まるでレベルの違う相手。
ロードや精霊王アーガハイド、鬼人と対峙した時と同じ感覚を思い出す。
絶対的強者の圧力。
しかし、レオの足は前に進んでいた。
「早く戻らなきゃ……」
無謀ながらも、ただでは折れない心を持っているレオ。
重い身体を前に倒し、足を前に引きずってカシャのもとへ急ぐ。
しかし、そんなレオの前に突如として白い飛行体が立ち塞がる。
「なんだ……こいつ? 見た事ない……。精霊か……?」
その正体に疑問を抱くも、敵か味方の答えはすぐに出た。
白い飛行体はレオ目掛け、一直線に突っ込んで来る。
「なっ!」
危機を感じたレオはぎこちない動きで拳を前に突き出す。
「腕おっも!」
飛行体が直撃する寸前で能力を発動。
「反拳!」
事象を倍返しで反射する能力《反拳》で衝突の衝撃を返そうとするが
飛行体はレオの拳をひらりとかわし、レオの腹部を切り裂いた。
「ぐっ!」
ぱっくり切れた腹部を押さえ、敵の姿をよく見ると
白い飛行体は紙飛行機のような形で
先端は鋭く尖り、外側にいくほど細い刃になっていた。
白刃ヤゲン。速度は速く、空中を機敏に動く魔界でも恐れられている魔物である。
ペテペッツの魔装で操られ精霊界へ来たが
魔装が壊れた事により、バグラエガと同じく自意識を取り戻し
近くに居合わせたレオに襲い掛かってきたのだ。
「くっそ……この重さがなければ……」
ラヴェインの能力で受けた重量化がかなり効いている。
一瞬目を離した隙にヤゲンはレオの視界外に回り込んだ。
レオは重い身体を捻り、敵を捕捉しようとするが
ヤゲンはあっという間にレオの首元に迫る。
「――――!」
咄嗟に左腕で首元を守り、致命傷を阻止したが
肘から手首まで深々と切り裂かれる。
旋回したヤゲンはその後も、レオの身体を何度も何度も切り刻む。
少しずつ安全に。
少しずつ安全に。
獲物の体力を奪っていく。
「はぁ……はぁ……野郎ぉ……好き勝手してくれやがって……」
身体中、血まみれの痛々しい姿で息を乱し
空中で機敏に動き回るヤゲンを睨む。
ヤゲンはレオが弱り果て、生を諦める時を安全な上空で待っていた。
白い刃はレオの血に塗れ、レオの目からしてみれば
挑発するかのように空を回遊している。
「しゃーねぇ……そっちが殺る気なら見せてやる! 俺の新しい攻撃法を!」
レオは精一杯の力を振り絞り
重い両手を構えてヤゲンに宣戦布告した。




