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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
六章 心呑まれし堕黒の姫
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七話 すまにゃい

三騎のグリフォンで飛行中、敵の襲撃に遭い、夜の森の中で散り散りになってしまった。

私、朔桜はというと……落下中、飛んで来た謎の白い飛行体乗せられてまたまた捕まってしまったのでした。

全身を縄で雁字搦めに縛れ、芋虫のようになっている。

縛るのが不得意なのか縛り方はめちゃくちゃだ。

几帳面な人が見たら気絶してしまうだろう。


「あの~猫さんこれ解いて貰えないですか? 背中がかゆくって」


縄を解いて貰えないか説得を試みる。


「黙るにゃ! あたいは猫さんじゃなくてペテペッツにゃ!

お前は今の自分の立場を理解するにゃ!」


感情を表すかのように、細く長い鞭を地面に叩き付けて一喝で拒否したのは、二頭身くらいの小さな獣人の女性。

名前はペテペッツらしい。

横に伏せた猫耳にぴょんと跳ねたアホ毛。

前で分けられた(うぐいす)色のショートヘア。

頭周りを囲うような特徴的な飾り。

褐色肌に空色の瞳。

右口もとには魅惑のホクロ。

首には金色のネックレス。

熱帯風の衣装を纏い、黒い鞭を握っている。


「そうですよね~~……」


さあ、どうしたものか。

シンシアさんともはぐれ、助けに来ようとしてくれたノアちゃんの様子もおかしかった。

みんなの行方も分からないし、逃げたところでアレと戦う事になるのはちょっと……。

その明らかにヤバいモノに視線を移す。

獣人の女性の奥でグーグーと寝息をたててぐっすり寝ているのは、真っ黒い巨獣。

縦三メートル。横十メートルほどだろうか。小さな女性と比べるとその大きさが一層際立つ。

頭まで届く長さの尻尾の先には、口みたいなモノも付いている。


「なに、大人しくしていれば殺しはしないにゃ」


私にまるで興味の無さそうな口調でそっぽを向いた。

自分の鞭を動かすと一緒に鶯色の尻尾がそわそわと動く。


「他のみんなはどこですか?」


「あんた以外は全員抹殺対象にゃ。今頃、他の奴らが始末しているだろうにゃ~」


他の奴らがという事は別に仲間が居るみたい。

口調的に仲が良いというわけではなさそう。

金有場(カナリバ)”のような雇われた存在なのかもしれない。


「私を捕まえて何が目的なんですか?」


「人質に言う必要はないにゃ! これ以上無駄口を開くなら少し痛い目を受けてもらうにゃ!」


女性は目を細め、シャーっと唸り、敵意を剥き出しにしている。

流石に聞き出せるのはここまでかな。


「(イザナミさん、聞こえてますか?)」


「(うん、聞こえているよ)」


脳内に語りかけてみると私を憑代にしているイザナミさんが返事をしてくれた。

どうやら臨死体験以降、イザナミさんの声が聞こえるようになったみたい。


「(神様の知恵でこの状況からどうにか逃げる方法とかないですかね?)」


「(う~ん、今の朔桜じゃあ難しいんじゃないかな。

すぐに殺される事も無さそうだし、仲間の助けを待った方がいいと思うよ)」


「(分かりました、そうします!)」


素直に囚われの身に徹しておこう。


「にゃ~それにしても貧乏くじだにゃ~。なんであたいが子守り番なんだにゃ~」


鞭を蛇のように地面に這わせその動きを見て目で追っている。

石にぶつかった鞭が跳ねると呼応したかのように尻尾も跳ねた。

これ絶対に楽しんでる……。

黙ってその様子を見ていると、動かしすぎたのかついに鞭が絡んでしまったらしい。

女性は絡んだ箇所を解こうとするも更に複雑に絡み合ってしまう。


「むむむ、なんなんにゃこれ!」


女性は次第にイライラを募らせ絡んだ箇所を力尽くで解こうとして

硬い結び目を出来てしまった。

一度こうなったら泥沼だ……。もう簡単に戻すのは困難だろう。

更に一つ、二つと結び目が増えていく。

ていうか、この人滅茶苦茶不器用だっ!


「えっと……解きましょうか?」


「要らんお世話にゃ! くうぅ~~」


女性は私の言葉を受け、更に熱を入れて躍起になってしまう。

到頭(とうとう)細く長い鞭は毛糸玉のような見るも無残な姿になってしまった。


「くぅ~~こんにゃもん!」


女性がぐちゃぐちゃの鞭を力一杯引っ張ると

ブチッ


「ん?」


何かが切れる音がした。

地面には絡まった鞭が無惨な姿で横たわってる。

女性はその残骸を見て立ち尽くすとポツリと呟く。


「……すまにゃい」


壊してしまった物に謝ったのだろうか。

恐る恐る振り返る彼女の顔色は顔面蒼白で冷や汗が流れていた。


「魔獣を使役していた鞭の魔装を壊してしまったにゃ……」


トボトボと彼女は俯いてこちらに歩いて来た。


「えっと……お気の毒に」


何と言っていいのか分からないが、まあそういう時もあるよね。ドンマイ!


「今から……爆食獣バグラエガと白刃ヤゲンは……周囲の生物を見境なく殺す狂獣と化すにゃ……」


耳を曲げ、尻尾を垂らした女性は鋭い切れ味の爪で私の縄を切ってくれた。


「痛っ……」


でも、若干肌も切られた……。やっぱりこの人ちょっと不器用だ……。

宝具のおかげで傷はすぐに完治したけど。

ふと女性の言葉が引っかかる。

ん? 見境なく殺す狂獣?


「えっと……? つまり?」


「全力で逃げてほしいにゃ!!」


女性が一目散で駆け出すと同時に黒い塊が動きだした。

真っ赤の瞳の巨獣が私たち()を捉える。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


大きな雄叫びを上げると、その巨体から想像も出来ない速度で真っ直ぐこちらに迫ってきた。


「はっや!!」


巨体ながらも足は短く、駆ける速度が速い。

身体の下に潜り込めるスペースはない。


「避けるならっ!」


真横に全力で駆け、なんとか巨体の直撃を回避。

魔獣は前方の大木に突撃すると大木がまるで木の枝のようにへし折れた。

なんて威力だ。油断していた私の背後から影が落ちる。

振り向くと伸びる尻尾が私を捉えていた。

やはりアレも口だったらしい。


「あっ」


「死んだにゃ……」


頭からパクリと食べられる位置。

普通の動体視力でかわす事はまず出来ない。

でも、いつの間にか私は自力でかわしていた。


「あれ?」


「い、生きてるにゃ!」


女性も驚いているが、避けたであろう私自身も驚いている。


「(イザナミさんが避けてくれたんですか?)」


「(ううん、私は何もしていないよ。朔桜の能力以外では、干渉できないし。

私には朔桜が()()()()()()()()ように見えたけど)」


「(感覚で避けて?)」


イザナミさんの言葉に首を傾げていると女性が私の手を引く。


「何をボケっと突っ立っているにゃ! 今のうちに逃げるんだにゃ~~!」


「わわっ! ちょっと~~~!!」


こうして私は敵の女性と一緒に逃げる事になったのでした。

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