六話 危機フラグ
時は夕暮れ。
橙の日が差し、大きな緑月が薄っすらと出現している日の入り間際の時刻。
一同は三騎のグリフォンに乗り、ガンダルの森を越えて人間界への門に急ぐ。
先導のグリフォンにはシンシアと朔桜。
右のグリフォンにはカシャとレオ。
左のグリフォンにはハーフとノアが乗っている。
「わーい! はやーい!」
「手を放すな、落ちるぞ!」
手綱を握るハーフの後ろでノアが両手を上げて
グリフォンの速度をアトラクション感覚で楽しむ。
「この速度に高さ……落ちたら死にますね……」
「そうだな! 落ちたら一回死ぬゾ!」
「一回死ねるのは、カシャさんだけっすよ……」
カシャの後ろでレオが流れる風景に怯えていた。
「朔桜はこの速度と高さは平気?」
「はい! 平気です! 空はロードに飛ばされ慣れているし
高いところから落ちるのも慣れっ子なので!」
朔桜は親指をグッと突き出し元気に答える。
「あら……そう……」
シンシアは色々大変だなと思いながら絶妙な返事をした。
「でも大丈夫よ。グリフォンが落ちる事なんて然う然う――――」
ないと発するその刹那。
遠目の効くシンシアと夜目の効くノアの大声が重なる。
「敵襲!!」
地上から一同を狙い、無数の木槍が放たれている事に気づいたのだ。
ノアは素早くハーフの手綱を奪い取り、グリフォンを抑制。
なんとか木槍の集中攻撃から逸れた。
シンシアはグリフォンを上手く操り、機敏な動きで進行しつつも攻撃をかわす。
しかし、攻撃の軌道が分からないカシャとレオが乗るグリフォンに攻撃が直撃。
グリフォンの痛々しい声が響き、地面に向かって落下していく。
「くっ! 茶髪、自分の身を守れ!!」
「はい!!」
レオとカシャを狙い追撃の木槍が放たれる。
「二人を援護するわ! 朔桜、手綱をお願い!」
シンシアは問答無用で朔桜に手綱を手渡した。
「うぇっ!?」
朔桜は動揺しつつも、その手綱をなんとなく握る。
シンシアは即座に背に背負った白く大きな弓の精霊装備『母天体』を構えて
背中の筒から矢を一本取って素早く放った。
「崩し!」
煌めく矢は大量の木槍の中心部で爆散。
レオとカシャへの追撃をなんとか防いだが、二人は暗い夜の森の中に落ちてしまった。
シンシアは二人の落下位置を記憶。
そして、攻撃の方向からある程度の敵の位置も特定した。
やられっぱなしじゃいられないとすぐに反撃に転じる。
「夜に襲撃してくるなんていい度胸ね! 流星群!」
シンシアの能力《星奏調律》は星夜になるほどに力を増す。
放たれた矢を追うようにして天から無数の光の矢が降り注ぐ。
大空からの逃げ場の無い攻撃に地上の敵は不満を漏らした。
暗い森に潜み、満天の空を見上げる男がその巨大な規模の攻撃に不満を漏らす。
「なんてデタラメな攻撃だ。あの女この一帯を消し飛ばす気か」
「お前さん、あの全て視認できるか?」
「はん、当たり前だろ。俺様の眼にかかればこんなのは……楽しい楽しい天体観測だぜ?」
若い男の籠った声と年老いた男が危機的状況の中
余裕のある声色で会話する。
「全部返すぜ。耳長の姉ちゃん!」
若い男が人差し指を中指を揃えて手首を捻ると
全ての光の矢がシンシアを狙うかのように方向を変えた。
「っ――――! この方向転換まさか――――」
シンシアが違和感を感じ、天を見上げた瞬間
高速の白い飛行体が朔桜とシンシアを乗せたグリフォンの翼を根元から引き裂いた。
バランスを崩したグリフォンは空中で横転し、二人は背から落とされてしまう。
「朔桜っ!」
「シンシアさんっ!」
二人は互いに手を伸ばすもその手は届かない。
シンシアの身体能力ならば、空中からどうにかなれど
朔桜はバッキリと折れて死んでしまう高さだ。
「朔ちゃんっ!!」
朔桜の窮地に気付いたノアは
グリフォンの背を蹴り、急ぎ朔桜のもとへと跳ぶが
朔桜との接触を妨害するかのように無数の木槍が飛んできた。
「も~邪魔っ!」
『雨の羽衣』を振り回し、木槍を細切れに変える。
しかし、その間に飛んで来た白い物体が朔桜を上に乗せて森の中に運んで行く。
「ちょ、ちょ、ちょ! どこいくの~~~!?」
「朔ちゃーん!」
朔桜は暗い森の中へと連れ去られ、ノアとシンシアは森の中へと落ちていった。
そして、シンシアの放った流星群が自然豊かな森林に降り注ぎ
森一帯を跡形も無く吹き飛ばしたのだった。




