五話 さら馬 戻りの森
“戻りの森”へと無事帰還した一同は
エルフが住む村の一つクェア村の村長チェイビに“風神封縛帯”での出来事を報告した。
「そうか……ロードが神々の審判を受け消えたうえ、仲間まで攫われたと……。
諸手を挙げて喜べる結果にはならなかったか……」
「はい……。でも、ロードは必ず帰って来ます!
それにキリエちゃんも必ず取り返します!」
「仲間を取り返すあてはあるのか?」
「はい。なので私たちは一度、人間界に戻る事に決めました」
「そうか……」
寂しそうに呟くチェイビ。
桜花の一件もありチェイビの脳内には一抹の不安が過る。
「いかんな。明るく送り出さねば。
サクラ、エルフを……精霊界を代表して礼を言う。
精霊界を倒してくれて本当にありがとう」
床に手を付き深々と頭を下げた。
「いいえ! チェイビさんもお母さんを助けてくれてありがとうございました」
朔桜もまた床に手を付き深々と頭を下げる。
「またいつでも来なさい。気長に待っておるよ」
小さくか細い手が伸びる。
「はい! 今度はお母さんも連れて改めてお礼に来ますっ!」
朔桜はその手を両手で取り、チェイビと握手を交わした。
話が終わった頃を見計らいエルフの少女リクーナが
シンシアのもとに駆け寄り深々と頭を下げる。
「シンシア様、シネト村で私を助けてくださって本当にありがとうございました」
「リクーナ……もう捕まらないようにね?」
「はい! 気をつけます! 私、シンシア様みたいな強い女性になります!」
「そう、それは楽しみね!」
皆がリクーナとの別れを惜しんでいると
シンシアの耳が機敏に動く。
「準備が出来たようね」
「準備?」
朔桜が首を傾げると
数分後エルフが鷲のような頭に獣の四足と大きな翼をもつ
三匹の鳥獣を連れて来た。
革製の鎧に乗れるように鞍が付けられている。
ちゃんと飼い慣らさせてるようだ。
「シンシア様! 王城の精鋭隊から借り受けてきました!
こちらが、グリフォン三騎です!」
「みんな、わざわざありがとう」
シンシアがエルフたちに礼を言うと
ノアが近くでグリフォンを観察する。
「なんか精霊神に似てるね」
「シ・セウアと種族は同じだからね。
でも安心して。うちの王城で飼っている比較的穏やかな個体だから」
「もしかしてこの子たちに乗って行くんですか?」
朔桜が問うとシンシアは頷いた。
「ええ、グリフォンで人間界の門まで行く。
駅馬車は置いていく事になるけど、ストロベリアルが消えた今なら最速の手段よ。
夜目も効くし、二日あれば着くわ。
私が戦闘で騎乗して先導すれば二騎は追従するから騎乗技術は要らないわ」
「そっか、ウマタ、ウマミ、ウマジロウ、ウマサブロウたちとはお別れなんだね……」
朔桜が今までの旅を思い出し、四頭の馬たちを感慨深く撫でる。
「あの馬たちに名前あったんだ……」
全然知らなかったとノアが呟く。
無論、朔桜が初日に勝手に考えた名前で
他の全員は知るよしもない。
「馬たちはこちらで手厚く面倒をみよう。安心しておくれ」
「お願いします~~~~!!」
朔桜は目を潤ませながら一か月以上を共に過ごした
四頭の馬と駅馬車に別れを告げたのだった。




