二話 誠意と虚偽
朔桜は宝具で全員を回復させた後、馬車に戻った。
精霊神を倒し、精霊界を救った一同だが歓喜の声は聞こえない。
馬車内の空気は限りなく重い。
そこには居るはずの二人が居ないからだ。
一人は“裁きの調停者”の審判を受け“高天原”へと消えたロード。
もう一人はカテスによって攫われたキリエだ。
朔桜は結界内での出来事を、ノアはカテスとの事の顛末を皆に伝えた。
一応、朔桜の持つ魔導具『黒鏡』でロードに連絡を取ろうと試みたが当然の如く通じるはずもない。
ロードが朔桜とノアの人間界から持ち込んだ荷物一式と
当面の食料や精霊界の資金を持ったまま昇華されてしまったのはかなりの痛手だ。
「そんな……ロードまで神々に裁かれてしまったなんて……。
私がもう少し早く忠告していれば……」
シンシアは自責の念に苛まれる。
「シンシアさんに責任はありませんよ。ロードがメサの策略だって言ってました。
それにロードは戻って来るって約束してくれましたから。今は……私たちに出来る事をしましょう」
皆の視線は深く項垂れたレオに向けられる。
「どうしてキリエが……くそっ!! あそこで俺が動けてさえいればっ!!」
力を使い果たしカテスの人質となった事を悔やむ。
「貴方、奴の仲間だったんでしょ? キリエを攫ったのは何故? 何か探す手がかりは無いの?」
シンシアは情報を求めハーフを見る。
だが、ハーフは早々に両手を上げた。
「さあ? 集められたのは、僕とハンマーヘッドとモージーの三人だ。
カテスは最初からメサ・イングレイザの配下だったし、僕らの前じゃ特に力を見せなかった」
「そう……」
「ああ、でも精霊神復活の際、メサに君の役割は特に重要な役目だからねって言われてた」
「その役目は?」
「そこまでは知らない。僕たち使い捨ての駒には教える必要ないだろうしね」
自嘲しつつ乾いた笑いを漏らす。
「奴らに見捨てられて魔界にも帰れないし、ロード・フォン・ディオスも居ないし、これから僕はどうしたもんかなぁ」
すかさずその答えを出したのは朔桜だった。
「よかったら、今後も私たちに手を貸してください!」
その発言にハーフは目を丸くする。
「正気かい? フォン・ディオスの妹。いや、正確には君もフォン・ディオスか」
ハーフは朔桜がフォン・ディオスの一族だとメサから聞いて知っている。
「正気です。あの土壇場で貴方が力を貸してくれなければ
私たちはもちろん、この世界も滅びてました。
言うなれば、命の恩人。世界の救世主の一人です!」
「あれは僕も死にたくなかっただけで――――」
「でも、貴方の気まぐれで結果的に私たちは助かった!
それに世界も救えたんです!
ロードが返ってきたら貴方を好待遇で迎えてもらうように説得するので
どうかご協力お願いします!!」
朔桜は深々と頭を下げる。
ハーフはノアとカシャに見張らせろとロードに言われたが、朔桜はそれをしなかった。
ロードの強制とは真反対の誠意ある説得。
ハーフは意表を衝かれ、少しの間の後溜息を漏らす。
「十二貴族ともあろう者が軽々と下民に頭を下げるものじゃない。
それに敬語は不要だし、僕の事はハーフでいい。
朔桜と言ったっけ? 好待遇期待しているよ」
ハーフは朔桜に手を伸ばす。
「うん! よろしく、ハーフ君!」
朔桜も手を差し出したと同時に
ハーフの手は衣で弾かれた。
「朔ちゃんへのお触りは禁止です」
見張らせずともノアの目は厳しい。
「やれやれ。僕が信頼されるのはまだ先だね」
「ごめんね!」
ノアの対応を朔桜が謝罪する。
「いや、いいよ。
僕も誠意をみせていなかったからね。
じゃあ信頼の証として奴らとカテスの情報を開示するよ」
その言葉に一同は驚愕する。
「お前っ! この状況で嘘をつきやがったのか!」
怒号とともにレオがハーフの胸ぐらを掴む。
「奴らの情報を口にしたらただでは済まない。
普通、殺されるリスクは負いたくないだろ?」
レオは渋々手を放す。
「奴らは君らが想像しているより別次元でヤバい連中なんだ」
「奴らって?」
朔桜が問うと一呼吸置いてハーフは意を決し答える。
「じゃあ、話そうか。あの得体の知れない影。そして、その配下の化け物共。“九邪”たちの事を」




