一話 姑息な道化師(表紙絵あり)
登場人物
●並木 朔桜
種族:魔人と人のハーフ
属性:雷
能力:《朔》
宝具:【雷電池】
魔導具:『黒鏡』
●ノア
種族:人工宝具
属性:なし
能力:《ノアの方舟》
人工宝具:【最高の親友】【変身】【鵜の目鷹の目】【敏感感覚】【満腹】
博士の発明:『雨の羽衣』
魔導具:『黒鏡』
●シンシア
種族:精霊人
属性:雷 風 火 水 地 樹(六適者)
能力:《星奏調律》
宝具:【一輪光】
精霊装備:『母天体』
●カシャ
種族:精霊人
属性:樹
能力:《泣きの一回》
宝具:なし
精霊装備:なし
●レオ
種族:精霊人
属性:火
能力:《反拳》
宝具:なし
精霊装備:なし
●キリエ
種族:精霊人
属性:土
能力:なし
宝具:なし
精霊装備:『短杖』
●ハーフ
種族:魔人
属性:なし
能力:《風断》
宝具:なし
魔装:なし
魔導具:なし
穏やかで涼しい風が精霊界にそよぐ。
小鳥が囀り、木々が躍る。
風の精霊神を封じていた“風神封縛帯”で
“九邪”を名乗る魔人メサ・イングレイザにより
精霊神 シ・セウアの封印が解かれ
皆の協力の末、何とかシ・セウアを倒し、精霊界は平穏を取り戻した。
しかし、その代償としてロード・フォン・ディオスはメサの策略にハマり
精霊界のエナをありったけ吸収し“四界の法”に抵触。
世界の安寧を守る“裁きの調停者”により
ロードは神々の住まう“高天ヶ原”へと昇華されてしまった。
桜色の髪をたなびかせる少女は静かに涙を拭い、ぐずぐずの鼻をすする。
ロードの妹である並木朔桜は兄との約束を信じ、別れ際に指示された事を実行しようと動く。
指示されたのは
・最初にシンシアを回復させる事。
・安全が確保されたら精霊術でノアに電力を供給する事。
・カシャ、レオ、キリエ、ハーフを回復させて状況を立て直して影の奇襲に備える事だ。
朔桜が皆の元へ急ぎ踵を返すと、ロードの想定を上回る早さで悪意は既にそこにいた。
朔桜の目の前に、皆で退けたはずの白い仮面に道化師の衣服を身に着けた魔人。
カテスが行く手を阻むかのように立ち塞がっていた。
「っ!」
朔桜は足を止めず、横をすり抜けるようにして突破しようと計る。
「おっと、行かせませんよ」
カテスは細くしなやかな足を伸ばし、朔桜の進行を阻んだ。
足に引っかかった朔桜は盛大に正面から転倒。
「いてて~」
仰向けに転がるとカテスは朔桜の上にに跨るように立ち
品定めするかのように見下す。
「ふむ、兄が消えたというのに、まるで闇が感じられない……。
見た目に反して心は冷たいんですかね? それとも――――」
その先を言いかけた瞬間、瞬時にカテスは朔桜から身を引いた。
「朔ちゃんへーき!?」
咄嗟に駆け付けた蒼白髪の少女ノアが『雨の衣』でカテスの首を狙い、朔桜の前に立つ。
「ありがとうノアちゃん! 平気だよ! ちょっと擦りむいたけどもう治った!」
朔桜の言った通り、宝具の力で擦りむいた怪我は一瞬で治っていた。
その様子を見てノアは一安心の息を漏らす。
「もうっ! ロードくんは一体、何処に消えちゃったの!?」
ノアは顔を顰めて周囲を見渡し、突如として消えたロードの行方を探す。
だが、その姿は何処にもない。
「ここを乗り切ったら……説明するよ」
行方を知っている朔桜の言葉はどことなく歯切れが悪い。
「了解! じゃあ、とっととこいつ倒さなきゃね!」
ノアは瞬時に衣を操りカテスに猛攻を繰り出す。
しかし、カテスはしなやかな動きで無駄一つなく衣の攻撃を全てかわしきった。
「全然キレがありませんね。もう限界ですか?」
「ちょろちょろとギリギリで避けるのムカつくなぁ~~」
頬を膨らまし文句を言って再び飛び出そうとするが
ノアの身体が不安定に揺れだす。
「ヤバ……もう電力が……」
ノアは精霊神との戦いで何度も宝具を酷使している。
眠そうな目で何とか意識を保っているが、そろそろ本当に限界の様子だ。
「待っててね、ノアちゃん!」
朔桜は深く深呼吸をした後、人差し指をノアの背中に合わせ指先に意識を集中させた。
「エレ!」
朔桜が術を唱えると指先から電撃が放たれ、一直線でノアに直撃する。
以前、雷精霊と契約した時キリエに教わった雷の精霊術初歩の術だ。
イシデムで精霊術の鍛錬をした甲斐あって威力も上がっている。
「出来たっ!」
電撃を受け給電したノアは少しばかりの力を取り戻す。
「お~!! 給電ありがとう朔ちゃんっ! 質は悪いし、くそほどに不味いけど我慢するっ!」
「んんんっ!? 一言、二言余計じゃないかなっ!?」
ノアの揺れは止まり、しっかりと地に立つ。
「ノアちゃん、シンシアさんを回復させるまでの少しの間、時間を稼いで!」
「了解っ!!」
ノアがカテスに向かって飛び出すと同時に
朔桜はシンシアのもとに駆け出した。
「ふむ、これ以上強者を復活されては厄介ですね」
カテスは迫るノアを無視して、手に収まる程度の短剣を朔桜目掛けて素早く放つ。
「朔ちゃんっ!」
ノアは身を翻し、衣で短剣を弾く。
その一瞬の隙にカテスはこの場に再び現れた真の目的の場所まで一気に駆け
一人の少女を確保した。
「このお嬢さんは貰っていきますね」
精霊神との激闘でエナを奪われ、動くことの出来ないキリエを肩に抱え
顔に手を当てじっくりと観察する。
「心の内に秘めた熟成された闇……最高ですね。これは良いモノが作れそうだ……」
「キリちゃんを離せ……殺すぞ」
ノアは目の色を変え、殺意を剥き出しにする。
「おっと、動かないでくださいね。
こいつの首、へし折りますよ?」
カテスはノアの殺意に臆する事なく、冷静に冷酷に
キリエと同様に精霊神との戦いで力を使い果たし
エナ不足で倒れているレオの首元を踏み抑えていた。
「……随分と姑息だね」
「ふふ、よく言われます。
私自身、そこまで戦闘に特化している者ではないのでね。
使えるモノは使わせてもらいますよ」
動くに動けないノアと周囲の状況を窺うカテスの間に少しの沈黙が流れる。
そんな時だった。
「ノア……ちゃん……俺はいい……キリエを……助けてくれ……」
レオが必死に声を振り絞ると、カテスは足に体重をかけ踏み込み
メキメキと骨が軋む鈍い音が鳴る。
「がっ……!!」
「待って、待って!」
「時間稼ぎは不要。
エルフの回復まで留まるつもりはありませんので。
それでは、さようなら」
カテスは懐から取り出した玉を地面に叩き付け、周囲に煙を撒く。
「っ!」
先手を打たれたノアは即座に突撃。
『雨の衣』で煙を晴らす。
「くっそ!! やられた!!」
切り裂かれた煙が渦を巻き晴れてゆく。
だが、そこには倒れたレオの姿だけ。
カテスとキリエの姿は影も形もなかった。




