特別話 十二決議
そこは四世界の中心に存在し、四世界とはまるで異なる第五の世界。
分厚く濃い雲に包まれた浮遊する天の島“高天原”。
神々に選ばれたモノが住まう地。時の概念の無い永遠の空間。
手入れされずとも整った緑豊かな土地。
透き通るように綺麗な飛沫を上げる清流。
だが一番に目に留まるのは、等間隔に配置された白く輝く立派な十二の王城。
そして、島の中心部に神殿が存在する。
上品な装飾に輝かしい光源。
神殿の中心には巨大な丸机が置かれ
机を囲うように十二の席が設けられており、そのうち八席が埋まっていた。
「集まったのは、これで全員か」
空席の数を見て、神々しい八枚の白翼を持つ男が不満そうにぼやく。
「集まりが悪いのは、いつもの事だろぅ?」
白髪の男は机に両足を乗せてヘラヘラと笑う。
「あのおばさんが居ても場の雰囲気が悪くなるだけだし、これでいいよ」
小さな少女は膝の上に置いた小さな獣を優しく撫でて現状を肯定する。
「愚痴はいいわ。手早く建設的な話しましょ」
黒髪の少女は素早く済ませてくれと言わんばかりに机を指先で叩く。
「そうだな。とっとと誰が行くか決めるか~」
オレンジ色の髪の青年が腕の袖捲り、前のめりになる。
「そうだな。では、今回の審判は――――」
「私が行きます」
男の言葉に被せるように一人の女性が名乗りを上げた。
その瞬間、その場の全員がどよめく。
「へぇ~。アンタが行くなんて、珍しい事もあったもんさぁ」
白髪の男は面白そうに笑う。
だが、黒髪の少女はその出陣に異を唱える。
「待ってよ! シエラ! そんな――――」
「全員、静粛に!」
最初に仕切っていた男が大きな声でその場を制す。
その圧倒的な威圧感に呑まれ、全員は口を閉ざした。
「お前が出るという事は、既に勝敗が視えているという事だな?」
男は女性を試すように鋭い眼光で睨む。
普通の生物ならば、睨まれただけで卒倒しているほどの眼力。
だが、女性は何も動じる事無く、心身穏やかに答えた。
「ええ、もちろん」
「そうか……。ならば行くがいい。
今回の審判は……Ⅵ席 シエラユースに決定した。
十二会議はこれにて閉廷とする」
男はその身を翻し、その場をいち早く去る。
それに続き、三名がその場を外した。
「シエラ……」
黒髪の少女はシエラユースの決意を、目的を感じ取っていた。
「私は先に逝くわね」
シエラユースは黒髪の少女に微笑み、静かに手を伸ばす。
少女の予想していた別れの言葉。
その言葉を聞いて覚悟の決まった黒髪の少女は笑みを返した。
「うん……今までありがとう。シエラ」
少女は差し出された手を取り、その温もりを覚えるように強く握り締めた。
シエラユースは黒髪の少女をその身に抱き寄せると他の二人に聞こえぬように耳打ちする。
「これだけは言っておくわね、ツグミ。貴女には……まだ希望はあるわ」
黒髪の少女は目を大きく見開く。
だが、すぐに二人には悟られぬよう平然を装う。
「それは一筋の小さな闇。
この世界を……いえ、全ての世界を根本から破壊する救世主。
だけれど、今はまだ一息で消えてしまうほど弱く幼い存在。
彼を導く役目は貴方に任せるわ」
「それって――――」
「もう時間みたい」
その言葉の通り、シエラユースの足場は光輝く。
「宝具展開。行くわね、ツグミ。さよなら――――」
別れの言葉を言い残し、シエラユースは地面に呑まれるようにその姿を消した。
世界を越え、地上で周囲を見渡す黒い少年を見下ろす。
「お待たせいたしました」
シエラユースは丁寧に会釈すると少年に向かって手を伸ばす。
「さあ、始めましょうか。神域に至りし者への……審判。もとい、神の裁きを」
そう言って漆黒の希望に世界の運命を預け
静かに笑みを浮かべたのだった。




