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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
五章 残全生落 悪意の災
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四十五話 Ⅲ席

神の審判の判決は下された。

ロードは見事、シエラユースを討ち勝利を収めたのだ。

役目を果たした三柱の神々は天へと還ってゆく。


「ギリギリだったな……」


力を使い果たし、脱力するロード。

能力《無常の眼》は自発的に戻す前に元の黄金色の眼に戻っていた。

触手の切断箇所から漏れた白水をモロに浴びたロードだが

身体に毒のような激痛は無い。


「安心してください。白水の永続ダメージは無効化してあります……。

まさか、本当に未来の通りになるとは思いませんでした……」


ロードは自身の耳を疑う。

声の主は呼吸も絶え絶えで、身体は禄に動きもしない。

白い鮮やかな翼は焼かれて黒く散り、地に落ちたボロボロのシエラユースだった。


「ネザーの震撼砲をモロに受けて、原型を留めてるだと……!?」


ロードはすぐに警戒の体勢を取る。

だが、既に満身創痍。

反撃するエナも対抗する力も一切残っていない。


「そんなに警戒しないでください……。

辛うじて身がある程度。(わたくし)はもう何も出来ません。

この審判……ロード、貴方の勝ちですよ」


シエラユースは敗北を認め、ロードの勝利を宣言した。

その言葉を聞き、ロードは張り詰めた気を緩め

崩れるようにシエラユースの近くに座る。


「少しばかり、昔話に付き合ってくれますか?」


ロードは返事を返さない。

だが、それは無言の肯定だ。


僭越(せんえつ)ながら、ほんの少しお時間をいただきます」


意を汲み、シエラユースは静かに語りだす。


「私、シエラユースは生まれつき目が見えませんでした……。

天界でも特別優秀な両親たちは、それはそれは深く嘆いておりました。

ですが、私にはこの能力《先見の明(ディ・ヴィジョン)》が備わっていた。

目が見えずとも、先の()()()()()事が出来たのです。

未来の光景を視る事で周囲の空間を完璧に理解し

相手の動きも手に取るように分かる私は、当時の天界では文字通りの強者。

“天帝の虹翼”と呼ばれる存在でした。

しかし、その力に溺れた私は“初代六大天使”様を三体も吸収し、生物としての領域を超えてしまった。

今の貴方のように神の審判を受け、勝利し、“永遠の枷”を負わされた……。

自ら死する事の出来ぬ“裁きの調停者(テスタメント)”という絶対的な永遠の枷を」


自分の行動を悔いるように顔を(しか)めた。


「お前が意図せず“裁きの調停者”になったのは分かった。

故に、お前は俺が負ける未来を視たんじゃなくて俺が勝つ未来を視て来たんだな?」


「……その通り。私は貴方に負けるためにこの場に来ました」


「ふざけんな。最初から負ける気だったならこんなマジに戦う必要なかっただろ」


互いにボロボロの現状にロードは文句を言う。


「上に見透かされると無効審判になってしまいますので。

それにお恥ずかしながら私自身、久しぶりの戦いに興が乗ってしまいました」


シエラユースも遥か昔は戦いに身を投じ、大量のエナを吸収して神域に踏み込んだ者。

見た目に反してその内面は好戦的である。

半信半疑ながらも自身を倒す未来の強者相手に昔の血が騒いでしまったらしい。


「何故、負ける未来を視てなおこの場に(おもむ)いた?」


シエラユースは一呼吸置くと静かに口を開いた。


「“永遠の枷”から逃れるため。この命を終わらせるためですよ。

私は少々、永く生き過ぎました。

私は生きる事にもう、疲れてしまったのです」


この未来は、シエラユースが視た光景。

この結果は、シエラユースが望んだ結末。


「審判を受けるモノを視てはずっと待っていたのです。

私を倒せる存在を。秩序を壊す存在を。運命に、法に苦しめられた者たちを救う破壊の救世主を」


先を見据えたシエラユースの言葉にロードは首を傾げる。

しかし、その反面シエラユースには申し訳なさもあった。


「貴方にはこの先、辛い役目を押し付ける事を事前にお詫びし致します」


「辛い役目?」


「いいえ、こちらの話ですよ。

貴方は苦悩の果てに必ずその道の先へと辿り着くと信じています」


シエラユースは確信を持ってロードに運命を託す。


「これは私からの心ばかりの気持ちです……」


震える手で胸元から取り出したのは

指で掴めるほど小さく丸い透き通るような水色の硝子玉。


「今覗いてはダメですよ。

それにこの宝具は壊れやすいので丁重に取り扱いください」


ロードは片手で硝子玉を受け取り、掌の中心で安定させた。


「これは?」


「宝具の名は【残命(ざんめい)】。

起動型の宝具で使用回数は一度きり。

玉越しに相手覗くとその者の余命が分かるのです」


「【残命】……確かに受け取った」


「貴方が成す術なく打ちひしがれた時、この宝具は……必ずや貴方の活路になる事でしょう……」


ロードは玉を握ると黒鴉の衣に丁重に仕舞い込む。

それと同時にシエラユースは末端部分からエナと化していく。


「そろそろ時間のようですね……ご法度ではありますが、この空間の宝具を解きます。

数分程度ではありますが、貴方を元の世界にお返しします。

残された仲間に一言別れの挨拶のくらいの有余は出来るでしょう」


「お前を倒しても、元の世界に戻れない事は確定なんだな」


「はい。神域に踏み込んだ以上、貴方は元の世界には戻れません。

残念ですが、こればかりは私にもどうにもならない確定された“四界の法”です」


「なら、お前に勝った俺はどうなる?」


「“裁きの調停者”を退けた勝者への報酬は“永遠の確約”と“安寧への奉仕”です」


「永遠の確約と安寧への奉仕?」


「端的に言えば、永遠の命を得た貴方が“裁きの調停者”になるという事です」


「なるほどな……。そうやってより強い者が神域から世界を守るってか」


シエラユースは静かに頷く。


「時機に次の“裁きの調停者”が来ます。

次来るのは、私よりも上の席の者。

今の貴方では、まず勝てません。

抗わず、大人しく従う事をお勧めします……」


「それはどうだかな」


ロードは悪い笑みを浮かべる。

その言葉を聞いてシエラユースも笑った。


「では、結界を解きます」


シエラユースが指を鳴らすと暖色の空間が一瞬で普通の風景に戻る。

正しき世界、戻るべき世界へと帰る。

だが、その有余は一コンマと与えられなかった。

再び周囲の風景は暖色の世界に覆われる。


「そんなっ……結界が張り直された……。

決議が決まるにはあまりにも早すぎるっ……こんな事が出来るのは――――」


シエラユースはエナを感じ取ると静かに息を吐き出す。


「無粋な人……」


「こんな最期とは君らしくもない……。

……永い付き合いであった。別れるのは実に残念だ、シエラユース」


天から地に影が()ちる。

六枚の翼を広げ、悠然と現れた男はシエラユースよりも神々しく

比べるに値しないほどに圧倒的な力を持っていた。

その威圧。その威厳にロードですら言葉を失う。

絶対的法の具現。裁きの実質的実行者。

Ⅲ席(サネル)がその姿を現したのだった。

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