表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
五章 残全生落 悪意の災
245/396

四十一話 白の天術

裁きの調停者(テスタメント)”を名乗る天使 シエラユース。

そのエナは精霊神を喰らった俺をも遥かに凌駕する力を持っていやがる。

だが、俺には自身の身体能力エナの量を二倍にする能力《無常の眼》と八柱の神々を顕現させる《八雷神》がある。

こんなところで負ける訳にはいかねぇんだ。

俺にはやらなきゃならねぇ事がまだ残っている。


「では、先手は頂きますね」


シエラユースが腕を振るうと、周囲に白い球体が出現。

精霊王アーガハイドが使っていた消滅の球体に似ているが同じではない。

球体には潤いと光沢がある。あれは水だ。

喰者(フルーヅ)”ビッグレモンと同じように水滴を漂わせてやがる。

消滅でも溶解でもないだろうが俺の直感がヤバいと告げてくる。

奴は目を閉じたまま腕を振るうと

浮遊する球体を横なぶりの雨のように飛ばす。


「風壁!」


俺は風の魔術で前方に壁を形成。

エナ値が上昇した事で、風の流れる速度も厚みも今までの数倍以上になっていた。


「その程度の薄い壁では無駄ですよ」


シエラユースの言葉の通り、強化された俺の風壁はあっけなく貫かれ、無数の水滴が襲い掛かる。


「雷光!」


光速でその場を離脱。

ギリギリで猛攻を凌ぐ。


「あの広範囲攻撃をよく無事にかわしきりましたね」


随分と上から物申しやがる事に腹が立つ。

それにこいつ、目を開けてすら無いのに、俺が無傷でかわした事を理解しているらしい。

殺し合いの最中とは思えないほどに殺意が感じられない。

なんだか底知れぬ不気味さがある。

まるで何もかもを見透かしているようだ。


「時にロード・フォン・ディオス。

ふむ……少し呼ぶには長いですね。ロードと呼ばせてもらいましょうか」


「許す。何だ?」


(わたくし)が今放ったものは、最上位色“白”の天術。白水。

魔人が少しでも触れれば、致命傷に至ります」


あの浮遊する水滴全てが白水かよ。

黒風の次は白水ときたか……。

インフレも大概にしやがれ。


「わざわざ自分の手の内を教えてどういうつもりだ?」


「深い意味はありませんよ。

ただ、魔人の弱点が“白”のように、天使の弱点も“黒”。

“白”と“黒”は互いを滅ぼす対の力なのです」


互いを滅ぼす対の力ねぇ……。


「べらべらと教えてくれたところ悪いが、俺は黒の魔術は未収得だ」


“黒”の使い手には、付け焼き刃程度の努力じゃ至れない。

俺は才能の塊みたいなクソ親父やザイアとは違う。

自の戦闘力は平均程度。二つの強力な能力に恵まれただけの()()()()()だ。

皮肉な事に今の強さはあの地獄みたいな日々の果てに身に付いた力でしかない。

つまり、シエラユースも才能を有した()()()()って事だ。


「……左様ですか。残念ながら、それでは私を倒す事は厳しいかもしれませんね……」


「さあ、それはやってみなけりゃ分からねぇぞ」


俺が構える同時にシエラユースは手の動きに呼応させて白水が四方八方に飛び散らせる。

さっきの抜け穴を完全に封じられた。

雷光を使ったとて、もう何処にも逃げ場が無い。


「この程度で終わってもらっては困りますよ?」


無慈悲に放たれた白水が正面から一気に襲い掛かる。

もう何処にも逃げ場は無い。

それに俺の魔術ではあの攻撃を防ぐ術も無い。

だが、凌ぐ可能性はまだ残されている。


「この土壇場で一か八かの賭けとはなっ!」


自分のギリギリ具合に嘆きつつも

魔装『黒鴉(コクア)の衣』の懐から一本の大剣を取り出して地面に突き立てる。


「どうにか耐えてくれよ!」


大剣を盾の代わりにして白水の猛攻を受ける。

その瞬間、水とは思えないほどの激しい轟音が鳴り響く。

白水の衝撃で剣が傾いた瞬間、豪速の水滴が肩を抉った。


「ぐっ……!!」


腕を見ると真っ赤に熱した鉄を押し付けられたような、焼け爛れた跡。

猛毒が腕を侵食して広がるような永続的な痛みがある。

掠めた程度でこの傷と痛み。痛すぎて意識が引っ張られる。

これなら腕ごと()いだほうがまだマシだ。


「ウィンダガー」


風の小さなダガーを出し、自ら傷口の肉を削ぐ。


「っ……!」


痛みがだいぶマシになった。

どうやら白水は猛毒のような持続ダメージがあるらしい。

咄嗟に出した大剣のおかげで、致命傷は受けずに耐え忍ぶ事が出来た。


「剣一本で白水の雨を凌ぐとは……ん?

それは……なるほど。ベーゼンの作った“五魔剣(いつまけん)”ですか……」


シエラユースは魔剣の知識をも有しているらしい。

俺が盾代わりに使ったのは、あの鬼人をもぶった斬れる硬度を誇った“五魔剣”の一本 『骨断』だ。


「やはり、彼は良い剣を作りますね。

彼としては、その盾のような使い方は些か不本意でしょうが

使い手がまだ存在するという事を知れば、大層喜ぶでしょうね」


まるで見知った仲のように、亡き魔剣職人の事を語り出す。

魔人と天使の知人関係性に今は興味が無い。

あの白水をどうにかする方法が俺が考える最優先事項だ。

シエラユースが言うには、白の天術は黒の魔術じゃないと

太刀打ちできないらしいが、今の俺の魔力量ならば三回、《無常の眼》を使えば

六回は《八雷神》を顕現させる事ができる。

奴らを呼べさえすれば、対処法なんてどうにでもなるだろう。

だが、問題はこの空間でも出来るかどうかだ。


「狂い咲け、無常の眼!」


俺は目に手を翳し、《無常の眼》開眼。

そして祈るように手を天に翳す。


「現れよ、我が“八雷神”が一柱。火雷神! ブレイズ!」


橙色の雷が俺の手に落ちた。

どうやらこの空間でも神は呼び出せるらしい。


「エナが倍近くに跳ね上がった……それに呼び出したモノの威厳と存在感。

そちらのお方は神、ですね」


シエラユースはこの状況でも冷静さを欠かずに現状を正しく分析していやがる。

食えねぇ相手だ。


「ロードてめぇ! さっき呼び出したばかりだろうがっ!」


顕現早々、種火のブレイズは文句を言い出して大きさを増す。


「お前ご所望のさっきよりヤバい相手だ」


俺がシエラユースを指差すとブレイズは不敵な笑みを浮かべる。


「お前も大分力を上げたみたいだが、奴は別格だな。

今回は存分に楽しめそうだ!」


「あいつの相手は後だ。先にその辺に漂う白水を蒸発させろ!」


「俺様に命令すんじゃねぇ!」


文句を言いつつも、大きさを増すブレイズに

追い風とばかりに風を送ると完全体へと姿を変える。


災禍(さいか)!」


炎の渦が周囲の白水を巻き込み蒸発させてゆく。

どうやら、神の放つ炎は白の天術にも打ち勝てるらしい。


「私の白水をいとも容易く……少々凹みますね……。

ですが、これならいかがでしょうか」


シエラユースは距離を取り、両手の指先を合わせ円を作った。

ヤバい、何かが来る。


「構えろ! ブレイズ!!!」


「だから命令すんじゃ――――」


「白水―聖浄(せいじょう)!」


円の内側から眩い光が放たれ視界が潰される。


「くっ!」


腕で目を覆うと同時にブレイズの叫び声が響いた。


「ぐおおおおおおおおおおお!!!」


光が収まり、視界が戻るとブレイズはいつの間にか弱々しい小さな種火に退化していた。

虫の息だが、意識はまだある。


「今の攻撃……何をされた?」


攻撃を食らったであろうブレイズに問うと

怒りで表情を歪め大きさを増す。


「あの(アマ)……霧状の白水を放って俺の身体を溶かしやがった……」


にわかには信じがたい。

今までどんな強敵をも一方的に葬ってきた《八雷神》が初めて相手に害された。

俺の《八雷神》が、だ。


「いいか、ロード……てめぇがアレを食らえば塵一つ残らねぇ……一瞬で消え去るぞ……」


「分かっている……お前が庇ってくれなければ、俺は死んでいた」


「ちっ……貸し一つだぜ……」


そう言い残し、瀕死のブレイズは天へと還った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ