四十話 裁きの調停者
精霊神を倒した直後、異空間に捕らわれた俺が対峙するは一人の女。
あの両翼を見れば一目で分かる。四界の一つ、天界出身の天使だろう。
「天使が俺に何の用だって?」
敵意を剥き出しにするも、相手は冷静沈着。表情の一つも変えやしない。
「神域に至りし者への審判ですよ。四界で一定以上のエナを得た者は
世界の敵として我々、“裁きの調停者”の審判にかけられます」
「テスタメント?」
「我々、十二の神々。世界の安寧を守る調停者を指します」
「安寧を守る……調停者ねぇ……。
俺なんかよりもやべぇ奴らは数えきれんほどいるぞ。
なんなら優先して紹介してやるよ」
俺の言葉に女は笑う。
「世界滅亡級の力を持とうと、実際に世界を滅ぼそうと、私たちは関与する術はありません。
ただ、一定のエナを得て神域に至りし者を審判するそれが私たち“裁きの調停者”の役目なのです」
「はっ! とんだ欠陥集団だな」
「ふふ……私もそう思いますよ。
しかし、それが“四界の法”ですので。
私たちがどうする事も出来ません」
「世界を滅ぼすほどのエナがあれば、善悪問わずに問答無用で裁くってか」
「まあ、端的に言えばそうなりますね」
女はそんな理不尽をあっけなく認めた。
この女の言葉に嘘偽りは無い。
俺は今、神々の審判ってやつにかけられているのだろう。
「で? 俺は何をどう審判されるんだ?」
「方法は単純明快ですよ。
私を殺せば、貴方の勝ち。私に殺されれば、貴方の負けです」
「なるほど。お前を殺せば、ここから解放されるんだな?」
確かにこの女は神と称しても申し分の無い強さだが、こっちにも神はいる。
神域に至ったらしい俺と正真正銘の神々《八雷神》ならば、どうにでもなるだろう。
「いいえ。残念ながら、ここは宝具で四界と隔絶された場所。
言ってみれば、世界の狭間のようなモノ。
神の審判にかけられたが最後。貴方はもう二度と四界に帰る事は出来ないのです」
「二度と帰れない……だと……? ふざけるなっ!」
何が審判だ。この空間に捕らえられた時点で無期懲役。最悪、死刑じゃねぇか。
どうにかする方法はある。あるはずだ。
こんなところで素直に終わってたまるか。
「……落ち着け。落ち着け」
カーっと頭に上った滾る血を冷ます。
まずは、こいつを倒さなきゃ何も始まらねぇ。
「俺はお前を倒して元の世界に……奴らの居る場所に帰る」
その言葉を聞いて女は笑みを浮かべた。
「今まで審判を下した皆も口を揃えてその言葉を口にしていました。
ですが、誰一人として帰る事無く、私に吸収されていきましたよ」
その言葉の重圧は今の俺には抜群に効く。
こいつ、見かけによらず心理的にも仕掛けてくる性格かよ。
「失礼。自己紹介が遅れましたね。
“裁きの調停者” Ⅵ席 シエラユースが此度の審判を下します」
「魔界雷国 黒極の地 統治者。
“十二貴族”フォン・ディオス家の第二王子。ロード・フォン・ディオス。
お前を倒し、このふざけた空間をぶち壊す者だ」
互いに名乗りを上げ、神域に至りし者同士の戦いが幕を開けた。




