三十九話 計略の昇華
俺の能力《八雷神》火雷神ブレイズによって精霊神シ・セウアを討ち倒した。
焼き尽くされたシ・セウアの残滓は膨張し、破裂。
精霊界全地から少しずつ集められた莫大な量のエナが湯水の如く溢れ出し
周囲一帯は淡い光を放つエナに包まれる。
「ご苦労だったブレイズ」
「へっ……たわいもねぇ相手だったぜ! 次はもっとマシな相手の時に呼びな」
強敵との戦いに満足したのか、ブレイズは意気揚々と天に還って行った。
これでとりあえず一段落着いたな。
「すごい……綺麗……」
朔桜はその異様な光景に口を開けながら見惚れていると同時に
月と太陽が重なる朔の時は終わりを告げ、周囲は昼の明るさを取り戻した。
同時に朔桜の髪の毛先は白からもとの桜色へと戻ってゆく。
何故変色したのかは疑問だが、今悠長に聞いている暇は無い。
膨大なエナが天に還ってしまう。
「朔桜、宝具であのエナを全て回収しろ」
「うん!」
朔桜が返事をして宝具を天に翳す。
宝具にエナを吸収すれば、シ・セウアの黒風にエナを吸われて倒れた仲間たちを回復する事が出来るだろう。
だが、エナは宝具【雷電池】に吸われるよりも先に、俺へと向かって流れてくる。
「なんだ? エナが勝手に……」
この現象は意図していない。
確かにエナは空っ欠ではあるが
こんな膨大な量のエナを仲間の回復を差し置いて独り占めするほど捻じ曲がっちゃいない。
だが、治まる気配が無い際限なく周囲のエナを吸い尽くしている。
あっという間に失ったエナを取り戻しつつ、エナ値をぐんぐんと伸ばしていく。
成長は著しく、鬼人を倒した時の倍。
いや、それでは止まらない。
日が落ちた時の本気シンシアをも凌駕している。
「力が漲る……」
俺単体では遠く及ばなかったあのシ・セウアのエナをも軽々と超えてゆく。
「ロードッ! ダメッ!! それ以上エナ値を上げてはいけない!!! 神の領域に踏み込んでしまうっ!!
このままじゃ彼の……カウルのように神々によって裁かれてしまう!!!」
満身創痍のシンシアが血相を変え、大声で叫ぶ。
「んな事言われても、俺の意志で止まらねぇんだ!」
異常事態だ。
こんな事今まで一度もなった事がない。
俺の意志以外の外的要因が原因だろう。
今までの事柄を引っ張り繋ぎ合わせる。
この精霊界の旅路の終着点で
誰が何を望み、何を目的とするのか。
その時、一人の男の姿が脳裏を過る。
「そうか、そういう事かよ……」
突如として俺たちの前に現れ、朔桜の記憶の封印を解き
傭兵集団“金有場”を俺らの餌としてぶつけ
俺の脳の容量を底上げして、念を押してまで精霊王のエナの吸収を求めた。
魔界でダメ押しの餌を調達し、精霊神の封印を解き
俺たちに倒させてその全てのエナを俺に喰わせる。
全てが奴の計画通りだった。
「メサ……イングレイザッ!!」
憎き奴の名を呼んだその刹那
視界が目映く輝き、白一色に包まれる――――。
瞼を開くと、俺は誰一人としていない空間に存在していた。
「何だ? ここは? 朔桜! ノア!」
呼びかけるも返事は無い。
「シンシア! カシャ! レオ! キリエ! ハーフ!」
誰の返事も返ってこなかった。
「一体どうなってやがる……」
風景は変わらず“風神封縛帯”だが、周囲全体は淡い暖色に変色している。
得体の知れない空間に捕らわれ、途方に暮れていると
天空から一つの生命が虹色に変色する大きな白い翼をはばたかせ、輝く羽を散らしてこの地に舞い降りた。
その存在はもはや逸脱したエナの塊。精霊神を喰らった俺の倍はある。
明るい天色の長い髪は羽の鮮やかな光を反射し、天使のように艶やかな虹色の光沢を輝かせる。
穏やかな表情に閉じた両目。
何重にも着飾った重厚な衣装。その総重量は二十キロあるだろう。
だが、透き通るような淡い水色とものともしない彼女の表情がその重さをまるでないものと感じさせる。
司祭のサープリスのような布を下から黄、青、橙と六枚肩から腕に掛け触手のようにたなびいていた。
「お待たせいたしました」
女は丁寧に会釈すると俺に向かって手を伸ばす。
「さあ、始めましょうか。神域に至りし者への……神の裁き。もとい、審判を」
そう言って静かに笑みを浮かべた。




