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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
五章 残全生落 悪意の災
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三十七話 朔の時

レオはその身、いや、その拳一つだけで

シ・セウアの最大の攻撃黒風―黒玉を打ち返した。

無論、その威力は《反拳》で二倍。

精霊神すらも容易く消し去れる威力。

シ・セウアは咄嗟に神風という精霊術を使い、間一髪で死を間逃れたが

勝利を確信し、慢心していたシ・セウアは半身を失うという大きな代償を支払った。

身体の半分が痛々しく抉れているが、意識も戦意もまるで消えていない。


「くっそ!! 仕留めきれなかったっ!」


「いや、十分だレオ! 奴はエナを相当消費してる!

今が唯一の勝機だ!! 全員、全力を打ち込め!!」


ロードの合図で全員は最後の力を振り絞り、一斉に構える。


「ギャオオオオオオオオオ!!!!!!」


途端、シ・セウアはたたましい雄叫びを上げ、再び黒風を放つ。

完成された黒風は一同を集中して取り囲み、皆のエナを剥奪してゆく。

レオが全力を振り絞って与えた損傷を、まるで何事も無かったかのように治癒してゆく。


「ちくしょう……」


黒風で真っ先に倒れたのは、全力を使い果たしたレオとキリエ。


「無念だゾ……」


続いてカシャとハーフも倒れる。

ギリギリまで踏ん張っていたシンシアもついに地面に膝を付いた。


「ここまで……なの……?」


もう立ち上がる事すら出来ない。

無論、弓矢を構える事も。


「くそっ!」


ロードも身体から際限なくエナが奪われてゆく。

これ以上は全員の死に繋がる。

後十数秒で八雷神を呼び出すエナすら奪われてしまう。

この瞬間、ロードは素直に敗北を認めた。


「お前の勝ちだ。シ・セウア」


最後の力を振り絞り、伏雷神ライトニングを顕現させ

朔桜とノアだけでも逃がそうと左目を覆い、《無常の眼》を開眼。右手を天に翳す。


「――――っ!」


しかし、周囲は黒風で夜のように暗く、真っ暗な闇に包まれてた。

この視界では、もう二人を拾う事は出来ない。

唯一出来るのは、ロード一人だけがこの場を去って生き残る事だけ。

ロードは考える。この絶望的な状況を打開する策を。方法を。

しかし、考えうる百の方法全てを使っても、奇跡でも起きない限り

全員が生き残る方法は、万に一つの可能性も無かった。

“完全な詰み”。

そんな言葉が頭を過った時。

突如としてオーヌに変身したノアの腹が煌々と輝き出す。

それが光源となり、互いの姿がハッキリと確認出来た。


「うわっ! ノアのお腹光ってる!」


オーヌに変身したノアが自分の腹を見て驚く。


「ノアちゃん~出して~~」


体内で黒風から匿われていた朔桜の声。

腹肉をドンドンとドアのように叩く。


「朔ちゃん黒風で死んじゃわない?」


「平気~~だから出してぇ~~」


今にも泣きそうな声で朔桜は懇願する。


「ロードくんどーする?」


「……出してやれ」


「おっけ~。出したたげて」


オーヌに変身したノアは口の中にを太い腕を突っ込み

異物を吐き出すかのように胃液とともに朔桜を吐き出した。


「ちょっ、出し方っ!」


腹から出てきた朔桜は粘液にまみれベトベトだ。


「うぇ~格好良く登場したかったのに……」


自身の悲惨な姿を見て不満を漏らす。

朔桜自慢の桜色の髪の毛が、徐々に端から白く変色してゆく。


「朔ちゃん、ストレスで白髪に……」


「違うのっ! これは神様的なアレで……え~っと……あ~もう! 説明してる時間は無ーいっ!」


朔桜は半ばヤケになり腕を振ると同時に暴風が吹き荒れ

身体に付いた液と周囲に渦巻く黒風をもたったの一瞬で消し飛ばしたのだ。

暴風の勢いで朔桜の髪を結っていたリボンをも同時に吹き飛ばしてしまったが

朔桜はそんな些細な事を気に留めている様子は無い。

目を向けているのは、周囲の視界が晴れて確認できる倒れた仲間たちの姿。

皆はもう瀕死の状態。

後少し朔桜の行動が遅ければ、皆は生命を維持するエナすら吸い尽くされていただろう。


「お~! 凄~い!」


ノアは少女の姿に戻り、感心してパチパチと拍手している。


「黒風を一撃で……」


ロードはあまりの出来事に驚きを隠せない。

精霊界の風はシ・セウアにより支配されており

ロードですら操る事は不可能。

なのにも関わらず、それをいとも容易く朔桜はやってのけたのだ。

黒風が晴れたにもかかわらず、辺りは夜のように暗い。

朔桜はロード問い答えずに空を見上げていた。

燦々(さんさん)と照っていた太陽は

大きな緑色の月と重なり、その姿は隠れていた。

即ち、日食。

そして、新月。

朔の時。

乱れた髪を整える事もせず

神聖な光を纏う朔桜は真剣な眼差しでロードに問う。


「ロード! 私は何をすればいい?」


「お前……何をって……」


「アレを止めて世界を救う方法を教えて!」


朔桜は精霊神をアレ呼びで指差し、真剣な目でロードを見つめた。

この絶望的な状況でも、朔桜の目には諦めの色は感じない。

むしろ勝つ気ですらいた。

その度胸にロードは自然と笑みを浮かべる。

朔桜ならば、不可能を可能にも変えられる。

そんな予感がした。


「いいだろう! 俺らで神を討つぞ!!」


「うんっ!」


最強の兄妹は世界の命運を背負いシ・セウアと向かい合う。


ロードの鮮やかな眼に

深淵の絶望から微かな希望が見えていた。

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