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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
五章 残全生落 悪意の災
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三十五話 抵抗の意志

精霊神シ・セウアは今までに負った全ての傷を癒し、万全な状態と成す。

風陣も再び完全な状態に修復されてしまった。

それに引き換え、ロードたちは皆、満身創痍(まんしんそうい)

完成された黒風から際限なくエナが奪い去られ、時間の経過とともに不利になってゆく。


「くっそ……八雷神も呼べて後一回……次は無い……」


朔桜の宝具【(エレクトロ)電池(チャージャー)】の貯蓄も尽きた。

エナの枯渇は即ち、敗北。

今後の致命傷は即、死に至る。

まさに詰み寸前の状況だ。


「風が操れれば……いや、無いモノを強請(ねだ)るな。あるモノで考えろ……」


ロードは脳をフル回転させ、打開策を考える。

その間にも、全能力を取り戻したシ・セウアは

背から伸びた黒い触覚から無数の十字の棘を再び周囲に撒き散らす。

以前、カウルとシンシアがシ・セウアと対峙した時は

切れ味と貫通力抜群の十字の棘には相当苦しめられた。

棘は一瞬で空を覆い、黒に染める。その数は千を優に越えていた。

加えて、(くちばし)を開き、螺旋状に回転する破壊の風。

球風の準備も出来ている。

大きな翼をはばたかせ、鉄に近い硬度を誇るガンダルの木すら切り刻む烈風を放つ。

荒れ果てた大地に身を隠す場所も、身を守る術も持ち合わせていない。

絶望の死の風が押し寄せる。

ロードの脳裏に浮かんだ唯一生存する(すべ)。それは敗走。

伏雷神ライトニングで皆でこの場から離脱する事だ。

しかし、逃げた先でもエナを回復する事は出来ない。

この世界の風はシ・セウアにより支配されている。

全ての大気中のエナはシ・セウアの意のまま。

反撃するにもエナを回復させるため、朔桜とノアを連れて人間界に戻るしか方法は無い。

その間に、エルフが住まう“戻り森(リバースフォレスト)”は確実に滅びる。

それだけではない。力を合わせて救った水都市スネピハも、今まで巡って来た村々も

世界の門を渡れないシンシア、レオ、キリエ、カシャ、ハーフは精霊界に取り残される。

即ち、生きとし生ける全ての生物は死に絶え、精霊界は滅亡する。

以前のロードならば、仲間を見捨て、迷わず自分の命を最も優先しただろう。

しかし、今は違う。

その胸には数々の新たな出会いを繰り返す中で、新たな感情が生まれていた。


「ここで引くわけにはいかねぇよな!」


ロードは全員の先頭に立つ。

黒風で全身が脱力感に支配されている中、真っ直ぐ手を構えた。

今にも下がってしまいそうな右手を左手で支え魔術を唱える。


「爆雷―鈴鯨(リンゲイ)!!」


巨大な雷とともに巨大な鯨が出現。

鈴の音を響かせ、勢いよく爆ぜる。

その威力で烈風を跡形も無くかき消した。

しかし、蓄えられた球風は無慈悲にロードを狙う。

ロードは回避を試みるも、固空で周囲の大気を固められ身動きが出来ない。


「っ!」


「《縦断(じゅうだん)》!!」


ハーフの能力が球風を切り取った。

だが、固空はまだ続いている。

消耗し息の乱れたロードは無呼吸の状態を長く保てない。

それを予測していたかのように、マントをたなびかせ飛び出したのは、カシャだった。


「やれやれだゾ!」


拳を今まで以上に溜め、渾身の一撃を放つ。


「エンペラーパンチ!!」


今までのコウテイパンチの比では無い。

強烈な拳は固定された大気を粉々に打ち砕く。

カシャはロードを姫のように両手で抱え、シュレーターダッシュでその場を離脱した。


「はぁ……はぁ……助かったが……その持ち方はやめろ……」


「はっはっは! じっとしていろ! 落としてしまうゾ!」


カシャが笑う最中、空を塗り潰す数千の十字の棘がカシャの頭上を覆う。

棘は雨のように一斉に降り注ぎ、二人を狙う。


「そこを動かないでね」


この瞬間を待っていたかのようにシンシアが弓矢を構えていた。

冷静沈着。全力集中。

落ち着いて、一つ。

呼吸をいれた。


定点流星群(フィクストスターズ)!」


煌めく星々が矢を追いかけるように飛び出し、全ての十字棘を捉えた。

十字棘は攻撃を避けるべく、まるで生物のように自由自在に空気中を動き回る。


「甘いわ」


星々はシンシアの瞳に映り、定めた対象に向かって追尾を開始。

数千の十字棘は数千の星により、その脅威の存在を全てを打ち砕き、消し去った。

皆の協力でシ・セウアの死の猛攻をなんとか乗り切る。

しかし、カシャは後方に戻ると同時に、膝を付く。


「くっ……これ以上はしんどいゾ……」


「僕ももう能力を出せないよ……」


ハーフも限界を迎え、腰を下ろしてしまう。


「まだよ……ここで倒れたら……全てが終わる……」


根性でその身を支えているシンシアだが、息も荒く身体中が震えていた。

ロードも後、八雷神一回と数回の魔術しか使えない状況。

しかし、シ・セウアは再び精霊術を発動。

皆は身構えるも、今までの攻撃とは何かが違う事を肌で感じた。

大気を舞っていた黒風が突如として渦を巻き、小さな黒い球体一点に集まる。

ロードが使う紅玉と同様、凄まじいエネルギーが集約されてゆく。

黒い球体の周りは次元が歪み、膨大なエネルギーで陽炎が生まれている。

エナの量は広大な精霊界の半分以上を占める。

そんなものが放たれたが最後。この地平は跡形も無く消し飛ぶ。

無論、生命など塵のように一瞬でその命を終える。


名を黒風―黒玉(こくぎょく)


風の精霊神シ・セウアが自ら編み出した世界を滅ぼす神の一撃であった。

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