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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
五章 残全生落 悪意の災
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二十八話 知恵の逆手

ノアとシンシアの連携攻撃を繰り出しても、シ・セウアを倒すには至らなかった。

ノアの分身の攻撃で風陣は内側から六枚ほど吹き飛びはしたが

まだ堅牢(けんろう)な風陣は十枚以上残っている。


「ありゃ~倒せなかった」


ノアは他人事のように軽く残念がる。

上級魔術や、強力な精霊術でも一枚を壊せる程度。

精霊界から無尽蔵にエナを剥奪する黒風を使うシ・セウアの風陣を破るには

一瞬で全てを壊す他に方法は無い。

はずだった。

シ・セウアは突如、血相を変えて風陣を自ら解き放ったのだ。

ロードは予想通りの行動に笑みを浮かべる。

先の大爆発で、風陣の内側の酸素は全て焼き尽くされていた。

精霊神と呼ばれていても生み出された生物。

呼吸もすれば酸素も必要とする。

空気を取り入れるために必ず風陣を解くと同じ風使いとしてロードは予測していたのだ。

左目を手で覆い、能力《無常の眼》を発動。

手を天に(かざ)し、内に秘めた神を呼び出す。


「現れよ、我が“八雷神”が一柱。駆け巡れ、伏雷神! ライトニング!」


空は瞬く間に曇天(どんてん)に覆われて暗くなり

落雷から脚に黒い雷雲を(まと)った蒼黒の神馬が顕現。


「神速で切り刻め!!」


ロードの号令で角から蒼い雷を放ち、ライトニングは飛び出した。

シ・セウアの両目を角で潰し、手足や両翼の健を断ち切る。

そして、全身を数万回以上も切り裂いた。

身体が切られた事に身体が遅れて気が付き、赤い血が一気に噴き出す。


「あのシ・セウアに傷を!! 《上鳥権威》を上回ったっ!!」


神の力を持ってすれば当然の事。

シンシアは驚きを露わにするも、ロードの表情は険しい。


「だが、仕留めきれてねぇ」


速度と手数重視でライトニングを呼び出したが

戦闘向きではないライトニングでは火力が足りず

シ・セウアを仕留めるまでには至らなかった。

だが、功績は大きい。

両目を潰し、両翼の健を断ち切るという大きな負傷を与えた事で、先ほどの烈風は封殺。

そして、討伐寸前にここから飛び去られるという最悪の心配は消えた。

ここで仕留めきれなければ、多くのエルフが住む“戻りの森(リバースフォレスト)”は完全に滅ぼされる。

それだけじゃない。身を粉にして救った水都市スネピハも、今まで寝泊まりしてきた村々も全てだ。

もうロードたちは後に退く事は出来ない。


「仕留めろ! シンシア!!」


ロードから風陣が解ける可能性を聞いていたシンシアは予め、矢を番えていた。

風陣が消えている今こそシ・セウアを討つ絶好の機会。


「星々よ……我に命を――――っ!」


契約の言葉の途中、詠唱が止まる。

急にシンシアは口を大きく開けたまま、苦しそうに喉を抑えて膝を付き地面に倒れた。

周りの全員も同様、次々と地面に伏してゆく。

だが、一人、ノアだけが平然としていた。


「(え!? みんなどうしたの!?)」


と言っているつもりだが、口は動いていても声が出ていない。

周囲の空間だけ音が響いていないのだ。


「(野郎……同じような事を俺らにも……)」


ロードはこめかみから電撃を放ち、電波でノアの脳に直接指示を伝える。


「(ノア! 奴の攻撃だ。全員を一箇所に集めて衣で掴め!)」


ノアはロードに頷き、指示の通り雨の羽衣で皆を囲って一箇所に集めようとするが

身体が動かない。身動き一つ出来ないのだ。

ノアは無理だとロードに首を振る。


「――――っ」


ロードは脳内でライトニングに命令を出すと

ライトニングは神速で一同を拾い、光に変えてその場を移動。

シ・セウアから大きく距離を取る。


「ぶはぁ!!!! 死ぬ!!!」


ロードは大きく呼吸する。

他の皆も同じく激しく呼吸を繰り返す。


「ごほごほっ! あいつ一体何をしたんだ!? 危うく一度死ぬところだったゾ!」


カシャは盛大に(むせ)ながらロードに回答を求める。


「俺もたまにやるエグい手だ。野郎、空気を固めやがったんだ!」


「空気を固めるだと!?」


そう。シ・セウアは学んでいた。

呼吸は生物に必要なモノ、必要な行為だという事を。

ならば、対峙する生物とてそれは必然。

空気を固め、呼吸を不能にさせたのだ。

故に、音は響かず、誰の声も届かなかった。

両目が見えずとも、シ・セウアは風の力でロードたちの居場所を完璧に把握していた。


「朔桜っ! 朔桜っ!!!」


シンシアが朔桜に必死に呼びかけている。

しかし、返事は無い。

異変に気が付いたロードは目を大きく見開き、すぐ朔桜の口に耳を近づけた。


「冗談だろっ!」


朔桜は息をしていない。

数カ月前まで普通の学生だった少女が耐えられる易い攻撃ではなかった。

すぐさま朔桜を地面に寝かせて、胸に両手を重ね合わせ、心臓を刺激するよう電撃を浴びせた。

体重を掛け、何度も心臓マッサージを繰り返す。


「おい! こんなところで死ぬんじゃねぇ!! 起きろ、朔桜!!!!」


普段冷静なロードが血相を変えてなりふり構わず、懸命に蘇生措置を繰り返すも

朔桜の顔はどんどん青白く青ざめてゆく。

ロードは朔桜の鼻を摘み、口から息を吹き込む。

朔桜の肺は空気で膨らみ呼吸をしているかのように動くが、全く起きる気配は無かった。


「呼吸くらい自分でしやがれ!」


ロードは必死にそれを幾度となく繰り返す。


しかし、彼女が息を吹き返す事は無かったのだった。

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