二十七話 絶対的な檻
シ・セウアが放った烈風に向かうように人工宝具であるノアは飛び出す。
一同はあっと驚き、騒然とするもノアは余裕のある笑みを浮かべた。
「大丈夫! ノアがみんなを守るからさ。【最高の親友】」
一同の前に立ち、自身の分身を三体作り出す。
「からの~【変身】! 丑の刻!」
“精天機獣”丑の刻。
水都市スネピハでノアが戦った強敵の姿を模倣。
その巨体で一同に覆い被さり、代わりに激しい烈風を受ける。
風の轟音が止むと丑の刻は何事も無かったように立ち上がった。
天使の機体で造られた頑丈な機体が烈風をも凌ぎ、皆の命を守ったのだ。
だが、今の攻撃で“風神封縛帯”は見るも無残に壊滅。
の七つの大岩は粉々に砕け、周囲のガンダルの木々は、細切れの木片と化した。
その悲惨な光景を目の当たりにして、烈風の威力の恐ろしさを皆は思い知る。
守る役目を果たした分身は消え、ノアは少女の姿に戻って一同の安否を確認。
「みんな、無事かなー?」
一同はノアの声に応答する。
彼女の奮闘の甲斐あって誰一人怪我を負った者はなく、全員は無傷で済んだ。
「……助かった。ノア、お前が居なきゃ今ので全員死んでいた」
ロードは自身の甘い判断を深く反省する。
「ノア、凄い役に立つでしょ~?」
名誉挽回と言わんばかりに満開の笑みを浮かべた。
「ああ、これからも頼りにしている」
「……わ、わお! じゃあ、一層頑張らないとね!」
予想もしない素直な言葉にノアは面食らう。
照れた気持ちを隠すようにロードに背を向け、シ・セウアに向き合う。
「一つ試したい策がある。ノア、シンシア、力を貸せ」
二人はロードの策を聞く。
それと同時にシ・セウアは、背から伸びた黒い触覚のようなモノから十字の棘を周囲に撒き散らす。
棘は風で宙に舞い四方八方に広がり、十字の棘は風で煽られ、高速回転を始めた。
「ロードくん、あちらさんなんかやるつもりだよ!」
「おい、ヤバさしか感じねぇぞ!」
ロードが危機的状況を感じたと同時に、一本の矢がその不安を打ち消した。
「流星群!」
放たれた矢を追うように、天から無数の光の矢が降り注ぎ、無数に漂う棘を全て打ち砕く。
「その攻撃は二度目よ。シ・セウア」
シンシアの言葉を聞き、唯一無二の星の矢を目の当たりにしてシ・セウアは古の記憶を思い出す。
過去に対峙した英雄の一人。弓使いのエルフの姿を。
「ギャオオオオオオオオオオオオ!!!!」
自身の封印に関与した存在を思い出し、怒涛の雄叫びを上げた。
剥き出しの殺意のままに二本の触覚が風陣を飛び出し、真っ直ぐシンシアに伸びる。
「丁度いい、シンシアは俺と同時にドでかい一撃を打ち込め!」
「ええ!」
二人は流星のように素早い身のこなしで飛び出し、触覚を前に飛び出し
シ・セウアを挟み込むように二手に分かれた。
「紫雷―夢花火!」
「崩壊!」
幻影のようにブレた紫色の花火と
崩壊の名に相応しい巨大な爆発が風陣を二層破壊。
「ダメ! 攻撃が届いてない……っ」
シ・セウア本体には遠く及ばない事は朔桜の目から見ても明らかだ。
だが、二人の目的は違う。
真の目的は爆撃で視界を眩ます事。
「しくじるなよ、ノア!」
ロードは大声でノアに指令を出す。
「おっけ!」
風を操り爆風をかき消すシ・セウアに向かって、シンシアは矢を放つ。
「星々は世界を渡る!」
矢は異空間へ消え、風陣の内側に出現。
矢は本来の姿へと戻る。
「ばぁ!」
矢の正体は【変身】で星矢に変化したノアの分身。
分身は更に【最高の親友】と【変身】を使い、六体のロードに増殖。
「爆雷―鈴鯨×六!」
六体のノアは、シ・セウアの身体目掛け、一コンマのずれも無く
ロードが使う上級魔術を零距離で放つ。
「いっけーーーー!!!!」
外部から自身を守る絶対的な風陣は、自身を閉じ込める絶対的な檻となった。
シ・セウアに攻撃をかわす術はなく、六体の鯨が鈴の音を鳴らし爆ぜる。
風陣の中は都市を消滅させるほどの暴力的なエネルギーに支配された。
スノードームのように土埃が舞い上がる中、巨体の影が静かに佇んでいる。
あの攻撃をもってしても、精霊神シ・セウアは傷の一つも無く健在であった。




