二十五話 精霊神 シ・セウア
二足で大地に立つ全長五十メートルを超える全身若葉色の神。
半身は鳥獣。半身は獣。
漆黒の角に背から伸びた黒い触覚のようなモノには、十字の棘が無数に付いている。
身体の倍以上ある巨大な両翼。
長い尻尾はガンダルの木よりも太い。
その姿はまるで幻獣のグリフォンそのものだ。
翼を豪快にはばたかせ、耳をつんざくような叫びを上げる。
轟く咆哮は千年以上も囚われていた怒りに満ちていた。
親を恨み、人を恨み、世界を恨む叫び。
六体の精霊神の一体、風の精霊神 シ・セウアは
“風神封縛帯”の楔から解き放たれた。
「シ・セウア。神を名乗るには些か力に劣るが、精霊界を滅ぼすには十分だろう」
影は神の力を計り、一人でに納得する。
ロードが精霊神を警戒している隙をみて、影はメサと合流を計る。
「行かせるかよ!」
ロードが追撃するも、メサが黒い蝶を放ち、ロードの追撃を阻む。
「君が今相手にするべきは僕らじゃない」
「くそっ!!!」
メサと影は合流し、影が空間を侵食。
二体は異空間の中に入ってゆく。
「もう我らがこの世界に留まる必要は無い」
「悪いけど、後は頑張って。ロード・フォン・ディオス」
「ふざけんな。こんなもん解き放っといてタダで済むと――――」
「いいのかな? 話をしている間に、君のお仲間三人は精霊神に踏み潰されてしまうよ?」
ロードの言葉を遮り、メサはわざと煽る。
端的に言えば、ここは黙って見逃せと言っているのだ。
「精々足掻いてみせろ。我はお前たちに期待している」
影は最後に一言言い残し、メサと共に侵食した空間に消えた。
影たちの行動や言葉は理解の範疇を逸脱している。
考えても無駄だ。今、優先してやるべき事は決まっている。
「ちっ!」
ロードは怒りを抑えつつ、早々にシ・セウアの足元に倒れている
ノア、シンシア、カシャを風の魔術で無事に回収。
一旦、朔桜たちと合流する。
「朔桜! とりあえずそいつらを起こせ!」
全員を後方に下がらせ、三人を地面に寝かす。
朔桜は宝具【雷電池】でシンシアとカシャを回復させたが、二人とも気を失ったままだ。
「ノアちゃん! 起きて!」
「カシャさん! 起きてください!」
「シンシアさん。。。シンシアさん。。。!」
朔桜はノアに呼びかけ、レオはカシャに呼びかけ、キリエはシンシアに呼びかける。
「起きろ、ノア!」
ロードがノアに電撃を放つと自然に電撃を吸収。
ビクッと身体を震わせると、ノアは目を覚ました。
どうやらただ気を失っていただけのようだ。
「むにゃぁ……ノア、また負けちゃったんだ……」
地面に仰向けになり、茫然と空を見上げるノア。
完全に負け癖がついて自身を無くしていた。
「自己嫌悪に浸ってる場合か。あれをどうにかするぞ」
ロードの方を向くとそこには巨大な生物が周囲の様子を窺っていた。
復活した状況をいまいち理解していない様子だ。
「あの鳥獣ってもしかして精霊神!? いつの間にか封印解かれちゃったの!?」
「影とメサは逃し、精霊神の封印も解かれた。俺らの完全敗北だ……!」
ロードは拳を強く握り震わせる。
「まだ負けてないよ! 精霊神を私たちで倒そう!!
影たちの思い通りにさせちゃいけない!
みんなが生きる精霊界を、お母さんが守った精霊界を滅ぼさせちゃいけない!」
朔桜の言葉でロードは再び前を向く。
「ふん、一番弱い奴が良く吠えやがる。ノアはそいつらを守れ!」
ロードは一方的に言葉を残し、一人で前線に赴く。
その背中はやる気に満ち溢れていた。
「現れよ、我が“八雷神”が一柱。万物を引き裂く裂雷神! クリムゾン!」
天は雷雲に覆われ、真っ暗に暗転。
紅雷が落ち、四つの豪腕を持つ大きな赤鬼が顕現。
クリムゾンという自身の脅威となりえる存在に
シ・セウアはすぐに気が付き、精霊界に二体の神が対峙する。




