二十四話 復讐者の試練
黒い衣を纏ったロードは黒い不気味な影と対峙する。
現状、影の侵食を対処する方法は無い。
最悪、ロードの《八雷神》ですら侵食する可能性もある。
そうなれば、最強最悪の敵になりうる。よって簡単に八雷神を出す事は出来ない。
ロードは何か一つでも弱点となりうる情報を引き出しておきたかった。
「お前の名はなんだ?」
「…………」
「何故、俺と朔桜をこの世界へ呼んだ? 何が目的だ?」
「…………」
「何故、お前は精霊神を蘇らせ、精霊界を滅ぼそうとする?」
「…………」
「一切答えないつもりか?」
「…………」
返答は皆無だ。
だが、ロードは言葉を続ける。
「お前が人間界に来た時、言ったよな。勘が良いのは、母親譲りか、と」
「…………」
「これだけは聞かせろ。魔界で母、桜花を襲撃したのはお前か?」
その問いだけには少しの間があった。
「…………そうだ」
今までのノイズとは違うハッキリとした言葉で、影は自身の行いを肯定した。
その言葉にロードの血管が鳴る。
「紅雷―紅玉!!」
荒ぶる感情任せに放った、超高密度の小球の紅雷。
「あれはシネト村の時、肉塊を消し飛ばした術! みんな下がれっ!」
レオはこの魔術の凄まじい威力を知っている。
それにシネト村の時よりもロードはエナ値を増し、威力も上がっている。
計り知れないエネルギーの塊が影に触れる寸前、赤光が一帯を赤く染めた。
「《世界への冒涜》」
影が淡々と能力の名を唱えると突如、空間は蝕まれ、紅玉は爆発する前に闇に呑まれた。
「無駄だ。如何なる攻撃も、私の《世界への冒涜》前では全てが無力。決して届く事は無い」
影の能力にレオは茫然とする。
「そんな……ロードさんのあの術も無力化するなんて……あんな奴どうやって倒すんだよ……」
だが、攻撃を無力化された当のロードは驚いている様子はない。
普通の攻撃では倒せないと薄々理解していた。
今のは、母を襲撃したという怒りに任せて無意識に出た攻撃だ。
母が消え、父は狂い、自身は辛く苦しい日々を過ごしてきた元凶への激しい怒りだ。
ふつふつと湧き上がる怒りを治めるため、ロード深呼吸し、冷静さを取り戻す。
「てめぇは……何のために母さんを狙った?」
「決まっている。お前たち、血族の復讐のためだ……」
「復讐? 俺らがお前に何をしたってんだ?」
「何をした、か」
ロードの問いに影は長い日々を思い出すように語る。
「レグルスと桜花は人間界を滅ぼすための人魔戦争を邪魔を。
ユーフェイスとザイアは気の狂ったレグルスを殺す邪魔を。
そして、ロードと朔桜。貴様らは人間界を滅ぼすために放った忌竜の邪魔を。
何度も、何度も、何度も! 忌々しい、忌々しい、忌々しい!!」
影はロードたちの前で初めて感情を剥き出す。
今度は影が感情の昂りに合わせ、赤黒い罅の影を地面に這わせ、ロードを襲う。
「くっ!」
ロードは飛翔で宙へ浮き攻撃を回避。
だが、影は止まらず、後ろのレオたちを狙う。
「アースウォール!」
キリエが土の壁を数段に張り影の侵攻を遅らせた。
その間にロードが朔桜、レオ、キリエの三人を風の魔術ですくい上げる。
「た、助かった~」
「あっぶねぇー」
「危機一髪でしたね。。。」
「油断も隙もあったもんじゃねぇな」
三人を地上に降ろし、再び影と対峙する。
「聞きたい事は山ほどあるが、これには答えろ。
お前、なんで俺らが兄妹だと知っていた?」
「同じ“特異なる神の血筋”だ。見れば分かる」
「“特異なる神の血筋”?」
影の言葉に朔桜は首を傾げる。
「貴様らはまだ自覚していないのか。創世神イザナミの血族を濃く継いだ存在だという事を」
次から次へと飛び出す聞いた事の無い影の言葉にロードは顔を顰める。
「創世神イザナミ? お前、何言ってんだ?」
「創世神……イザナミ……」
朔桜は突然、眩暈に似た感覚に襲われた。
「朔桜!」
倒れそうになる朔桜をロードは瞬時に抱き抱え、その身で受け止める。
「だ、大丈夫……ありがと」
朔桜は辛そうに頭を抑えつつも、なんとか応答している。
「時機にその言葉の意味が分かる。準備は整ったようだ」
その言葉の通り、ノア、シンシア、カシャは地に倒れ
無傷のメサだけが神錠の前に立っていた。
「■■■、準備はいいよ」
「さあ、復讐の幕開けだ。サクラ・フォン・ディオス!
貴様には桜花から受け継いだ神の力を存分に揮ってもらおう!
そして、ロード・フォン・ディオス!
貴様には世界の秩序を乱し、平和と安寧を乱す罪を与えよう!」
「――――っ! 現れよ、八雷――――」
「遅い」
一か八かロードが八雷神を呼ぼうと天に翳すも、伸びた影が腕を侵食する。
「ぐあっ!!」
腕の罅が広がっていくにつれ、細胞一つ一つを念入りに殺されていくような、気の遠くなるような
焼けるような、溶けるような、想像を絶する痛みが、腕から伝わり脳へ押し寄せる。
「っっ!!」
「ロード!」
朔桜は腕を抑え、悶絶するロードに胸元のペンダントを当てる。
宝具【雷電池】は煌々と輝き
侵食した影を拒絶して振り払った。
「《解放の黒揚羽》!」
土壇場に乗じて、メサは黒い蝶を手から大量に放ち、神錠へ集わせる。
黒蝶は複雑に何千にも張り巡らされた封印をいとも容易く突破。
パズルを解くかのように神錠が開き、閃光の中から巨大な影が解き放たれた。
滅亡の帰来。ロードたちの目の前で精霊界を滅ぼす
精霊の神が目を覚ましたのだった――――。




