二十三話 超越の解放者
神錠へ向かうメサをノア、シンシア、カシャが追う。
素早く駆けるメサの背後目掛け、シンシアは星の矢を放つ。
「星槍!」
矢から小さな星光が煌々と舞い、星の矢がメサの背中を捉えた。
だが、メサは背を向けたまま、身軽にかわしてゆく。
「くっ! 後ろに目でも付いてるの!?」
シンシアがその完璧な避けように驚くと、メサは足を止めて付いて来た数を確認する。
「Dr.Jの人工宝具。精霊王を倒したエルフ。それに僕に強化された傭兵か。随分と豪華な顔ぶれだ」
「なんとしても、精霊神の封印は解かさないわ!」
「悪いけど、それは無理かな」
シンシアが会話している間に、ノアとカシャは両サイドに回り
強襲を仕掛けたが、それも容易にかわされる。
大袈裟な回避じゃない。完全に攻撃の間合いを理解している最低限の回避だ。
「あーもう! 紙一重でかわされる!」
「まるで攻撃が当てる気がしないゾ!」
二人はメサの見事な避けように不気味さすらも感じていた。
お返しとばかりに、メサは大量の黒い蝶を放つ。
ノアは前に飛び出し、雨の衣を纏い、駒のように回転して黒蝶を両断。
カシャは触れないように一匹ずつ、確実にかわしてゆく。
「二人とも離れて!」
シンシアの掛け声で二人は黒蝶の塊から距離を取った。
「崩し!」
星矢が炸裂し、メサの黒蝶を一掃する。
「助かったゾ! あの黒い蝶に触れれば即死だからな。気をつけるんだゾ!」
「即死級の力持ってる奴、多すぎじゃないかしらっ!?」
「ノアさっき当たっちゃったー」
二人はギョっとするが、ノアに異常は見られない。
「元来、全生物は創世神から創られた言ってしまえば、神の子。
生き物が僕の蝶に触れるとね、無意識下で封印している制限を解くんだ。
でも、そうすると肉体が力に耐えられなくなり、暴発して死ぬ。
ま、稀に死なない例外もいるんだけどね。
君は人工宝具だから僕の能力の影響は受けないよ」
「じゃあノアは存分に戦えるね!」
不意を衝き、ノアが『雨の羽衣』で斬りかかる。
素早い一撃をメサは『晴の羽衣』で受け止めた。
「まねっこしないで!」
ノアは連撃を繰り返すと、次第にメサは押され始める。
「まるで鞭の雨だね……。流石に使いこなしている」
メサの羽衣は武器としては、ノアの羽衣の下位互換。
伸びる距離も雨の衣の半分程度だ。
そして、手足のように操れるノアと違い、メサはまだ武器を使う感覚でしか操れていない。
「シンシアお姉さん! 撃って!!」
合図と同時に閃光が放たれた。
「崩壊!!」
仲間の背から撃っていいレベルの攻撃じゃない。
「っ!」
メサの意表を衝き、広範囲に広がる星矢が大爆発。
メサとノアの二人を吹き飛ばす。
「どうかな? 死んだかな?」
ノアは当たり前のようにカシャの背後から出てくる。
無論、メサと戦っていたのは【最高の親友】で作った囮だ。
舞う土煙の中から人影が歩みを進める。
「噂には聞いていたけど、実際目の当たりにしてみると分身した事に気が付かないものだね。
それに弓矢の威力にも驚いた。魔力……いや、エナを急速に凝縮させて膨張させたのか」
メサは服に付いた汚れを払い、土煙の中から平然と状況を分析して現れる。
「生身であれは受けられそうには無い。悪いけど、僕ももう少しだけエナを出そうかな」
瞬間、メサの内から膨大なエナが溢れ出す。
「二人共、気を付けて! こいつエナジードの量を隠しているけど、尋常じゃないわ!」
シンシアの言葉を受け、ノアとカシャはより一層警戒を深める。
だが、メサからはまるで警戒心を感じない。
強者三人を相手にしても、自然体を保っている。
「君もエナも相当なモノだと思うよ。到底、常人の域ではない。
“九邪”として即採用しても良いくらいだ」
「願い下げよ」
「はは、だろうね」
メサは浅く乾いた笑いを返す。
「まあでも、君たちは勝てない。
僕は神々を除いては、この四世界で一番エナの多い魔人なんだからね」
「一番は少し自信過剰なんじゃないかしら?」
大袈裟だと笑うシンシアだが、額から流れる冷や汗は嘘は付けない。
「いいや、一番だ。断言しよう。
君も知っているんだろ? この“世界の理”を。
世界に裁かれるエナジードの限界点を」
その言葉を聞いてシンシアの顔色が変わる。
一瞬、脳裏に過去の光景がフラッシュバックする。
「……貴方もアレを見たのね」
ノアとカシャは顔を見合わせる。
二人が何の話をしているのか分かっていない。
「僕は人柱を使って彼らを呼び出して試してみた。
故に、正確なエナジードの限界点を知っているんだよ。
“九邪”全員がその事象を承知済み。“九邪”全員が世界に仇名す存在って事さ」
「貴方たちがどれだけ危険な存在なのかが分かったわ」
「その点では、君とあの精霊王も同等だよ。世界に仇名す脅威だ。
でも、君は少しエナ値に余裕があるみたいだけど、引き上げてあげようか?」
「遠慮しておくわ」
「はは、つれないね。まあ、君たちは殺しはしないよ。
悪いけど、みんなで精霊神に挑んでほしいからね」
「シ・セウアに挑む事は無いわ。私たちがここで貴方を倒すのだから!」
そう言ってシンシアは静かに矢を弓に番えた。
だが、その瞬間。
「よっと」
背後に回った手刀がシンシアの首を打つ。
「っ――――」
「コウテイパンチ!」
すかさずカシャがメサの不意を衝く。
「遅いよ」
顔が二つあるかと錯覚するほど早く首を捻り、一撃をかわして
素早い掌底がカシャの心臓を打つ。
「ぐっ!」
二人は力なく地面に倒れる。
「シンシアお姉さん! ペンギンさん!」
たったの一瞬であの二人を倒した。
その強さはエナ値だけでは計れない。
メサの戦闘能力は生物としての限界を超越していた。
「大丈夫。加減はした。死んではないよ」
「……そう。優しいね」
「もしかしたら、彼らの助けになってくれるかもしれないからね」
「ロードくんと朔ちゃんに何をさせたいの?」
彼らと言葉を濁すが、ノアの明確な問いかけにメサは静かに笑う。
「それは秘密だよ――――」
その言葉を最後にノアの意識はプツリと途絶えた。




