二十二話 ロードVSメサ
荒廃した地に立つのは、ロード・フォン・ディオス。
そして、メサ・イングレイザだ。
ロードの雷と風の猛攻を全て凌ぎ切った無傷のメサが静かに佇んでいる。
「僕とカテス以外は負けたみたいだね」
メサはまるで他人事のように現状を口にする。
「お前も今からその負け組に入る」
「ははっ! そんな冗談は一発でも攻撃を当ててから言って欲しいな」
余裕を見せるメサに腹を立て、ロードは荒々しく魔術を放つ。
「蒼雷!」
素早い蒼の雷がメサを狙い撃つが、容易にかわされた。
「雷光!」
電光石火の如く、一瞬でメサに近づき、拳の連撃を繰り出すも全て素手で捌ききられる。
「紫雷―向日葵!」
ロードを中心として、大きな花が咲くように電撃の花が弾ける。
メサはグレーのストールを盾のように使い初撃を防ぐ。
更にはストールを脚のように使い、ロードから距離を取った。
ロードが追撃するとメサはストールを鞭や爪のように自在に操り、攻撃で迎え撃つ。
ロード雷の魔術と風の魔術で応戦。互いの攻防はほぼ互角。
「ちっ! ノアみたいな布使いやがって!」
苛立ちを隠さず、不満を漏らす。
一撃一撃を確実に逸らされる。
魔力だけが消費されてゆく状況だ。
「これは彼女の持つ『雨の羽衣』の試作品『晴の羽衣』。
■■■がDr.Jから受け取ったモノを僕が貰ったんだ」
命のやり取りの最中にも関わらず、メサには余裕そうに言葉を返す。
「流石だな、あのイカれ科学者。厄介なモノを作りやがるっ!」
「そうだね。彼は凄い優秀だったよ。
あのまま僕たちが援助していれば、“九邪”になる素質は十分にあった。
君は彼をどこに隠したのかな?」
「さあなっ!」
「まあ今となっては澄んだ話だけどね」
「ごちゃごちゃと……よく喋る口だなっ!!」
一進一退の攻防の末、ロードの大きな雷で互いは距離を取った。
丁度その時、カテスを退けた朔桜たちが駆け付ける。
「ロードッ!」
全員はメサと向かい合うように立つ。
「この程度の奴らも引き止めれないなんて。
悪いけど、君は“九邪”候補としては不合格を付けるしかないかな!」
メサは大きな声で審判の結果を言い放つ。
「さっきからお前が一人でずっと言ってる“九邪”ってなんだ?」
「あれ? 説明してなかったかな? ごめんごめん。
“九邪”は、九つの邪な存在。
世界を滅ぼすため各世界から集められた九体の悪意の精鋭。
一人一人が世界に大きな影響を与える力を持っているモノの事だよ」
全員はその言葉を聞き、息を呑む。
「そしてこの僕、メサ・イングレイザも“九邪”の一人。
能力は《解放の黒揚羽》。
神域以外の封印は全て解く事が出来る。
故に【解放】の位を与えられた、この精霊界を滅ぼす魔人さ」
その言葉を放った瞬間、全員がメサに強い敵意を向けた。
メサの世界を滅亡させようとする行為は、明確に倒すべき存在だという事を示している。
だが、メサは余裕を崩さず笑みすら浮かべていた。
これほどの力を持ち、尚且つ悪意のあるモノが九体も居るという事実は
一同にとって絶望でしかない。
「まったく、君たち兄妹には同情するよ。親の問題に巻き込まれて大変な人生だね」
メサの言葉にいち早く反応したのは朔桜だった。
「親の問題? それってどういう事ですか!? 何か知っているんですか!?」
血相を変えて朔桜が必死に問うも、メサは表情を崩さない。
「悪いけど、僕からこれ以上言うと彼に怒られそうだから止めておくよ」
その言葉の瞬間、ロードから激しく火花が散る。
「知ってはいるんだな。なら、何が何でも吐いてもらうぞ、メサ・イングレイザ!」
ロードはすぐさま左の眼に手を翳す。
「狂い咲け、《無常の眼》!」
左の眼を鮮やかな紫陽花色へと変化させ、自身のエナと身体能力を倍に跳ね上げる。
「その眼……本気って事だね。
悪いけど、“世界の理”の問題で僕は今はまだ本気を出せないし、《八雷神》も相手には出来ない。
神々の相手は神に任せるかな。知りたい事は本人に聞くといい」
メサが後方に退くと同時に空間を侵食し、蝕み、影が姿を現す。
「ロード・フォン・ディオスは任せるよ。
日食の時間には少し早いけど、僕は精霊神とやらを起こしてくる」
「させるかよ!」
ロードが電撃を放つも影がその身を伸ばし、電撃を防ぐ。
侵食された電撃は無力化され、影に溶けるように呑まれた。
「ちっ! このくそ影野郎!」
ロードが敵意を剥き出しにするも、影は何も答えない。
その間にメサは神錠へと向かって行く。
「シンシア、ノア、カシャは奴を追え!」
「分かったわ!」
シンシアを先頭にノアとカシャが続く。
影は三人の追撃を邪魔する事はしなかった。
「お、俺たちはどうすれば!?」
レオが問うとロードは背を向けたまま返答する。
「お前らは後方に下がって自分の命と朔桜を守れ!」
「りょ、了解ですっ!!」
レオとキリエは朔桜の前に立ち身を構える。
「さあ、影野郎。お前には聞きたい事が山ほどある。
少し話に付き合ってもらうぞ」
ロードは影を前に静かに向き合うのだった。




