二十一話 レオ、キリエVSカテス
レオとキリエ対峙する相手は
両目に赤い縦線の入った無表情の白い仮面。
奇妙なほどにしなやかな身体。
黒が基調の鮮やかな道化師の衣服。
ベルトからは短いマント。
腰には長い鉄の棒が携えられているピエロの魔人。
この敵に至っては今だ力を見せておらず、実力が知れない。
「おっし! 行くぜ! キリエ!」
「うん。。。」
二人は意気込んで戦闘態勢に入る。
するとピエロは大きく手を叩き始めた。
「素晴らしい! 素晴らしい!! 素晴らしい!!」
ノイズのような性別が判断出来ない大きな声で何故だか褒め称える。
何か攻撃の前兆かと二人は身構えた。
その瞬間、二人の間にピエロは割り込んでいた。
「っ!!」
それに遅れて気づいたレオが拳を振るうも、ピエロは身軽に拳をかわす。
「君には興味はありません」
淡々とした冷たい喋り方。
長く、しなやか足から鞭のような蹴りが放たれる。
「ぐっあ!!」
何とか腕で頭や首などの急所は守ったが、腕の肉がべっこりと潰れている。
腕を鍛えていなければ骨は容易に砕けていただろう。
「レオ。。。!」
キリエは地の精霊術でピエロの足場から尖った岩を突き出させレオを援護。
ピエロはその攻撃をまるでステップするかのようにピョンピョンと渡り歩き、終いには一回転して遠くに距離を取った。
「地の魔術。いや、この世界では精霊術ですね。素晴らしい、素晴らしいです。その闇」
ひとりでに頷くピエロ。
「あいつ……何一人で何を言ってやがんだ……」
「さぁ。。。」
「尋常じゃねぇ強さだぞ……気を付けろ、キリエ」
レオが忠告したと同時に正気を取り戻りしたように
ピエロは二人に向き合う。
「失礼、名乗りが遅れてしまいました。
私は“九邪”【誘惑】の候補 カテスと申します」
「九邪? 誘惑? 候補? なんだ、突然――――」
鋭い蹴りがレオの腹部を打つ。
レオは一瞬でガンダルの木に打ち付けられる。
「レオ。。。!!」
「君は少し自覚した方がいい。君一人だけが場違いなんですよ」
レオはその言葉に返事すら出来ない。
背中を強烈に打ち付けまともに呼吸すら出来ない状況だ。
「許さない。。。!!」
地の精霊術を駆使してカテスを後方へと追いやるキリエ。
その様子をカテスは満足気に見ている。
「隙あり~」
ノアが後方から天の羽衣でカテスに斬りかかる。
だが、どこからともなく取り出した短剣で攻撃を綺麗に受け流す。
「コウテイパンチ!」
更にその隙を突き、カシャが放ったパンチが顔に直撃。
仮面は砕け、一瞬素顔が露わになったが、すぐに手で隠した。
「ベガ!」
雷撃の矢が追撃。
カテスは休む間も無く吹き飛んだ。
「ぐっ……これは少々手厳しい……。引くのが最適でしょう……」
顔と脇腹を抑え、息を切らしていた。
倒すには絶好の好機。
「皆皆さまこれにて、失礼」
だが、カテスは一瞬にして気配と姿を消し、この場から立ち去った。
すぐにシンシアが辺りの気配を探るもまるで位置を掴めない。
「完全に撒かれた……。息使いもエナもまるで感じ取れない……」
身を隠す高度な隠密能力は九邪候補の素質だろう。
シンシアの表情には悔しさと驚きの感情が入り混じる。
「レオ。。。!」
レオの傍にキリエが駆け寄る。
ノアとカシャがカテスと応戦中に
朔桜は宝具【雷電池】でレオの治療を開始していたのが功を奏し、なんとか一命を取り留めた。
「大丈夫。レオ君助かったよ」
一同は安心の息を漏らす。
「良かった。。。朔桜さんありがとうございます。。。」
「いえいえ」
「運が悪かったわね……。あいつだけ頭一つ抜けて強かったわ」
シンシアが敵の実力を見抜けなかった事を悔やみ、唇を噛む。
「皆さんの相手は?」
「私の相手は倒して木に縛ってあるわ。もう戦闘の意思は無いみたい」
シンシアの視線の先の木には、ハーフが雁字搦めにされて縛られていた。
「ノアは殺した~」
「私も殺したゾ!」
「あなたたちは本当に容赦ないわね……でも今の相手だけは仕留めておくべきだったかもしれないわ」
シンシアに一抹の不安が残る。
「そうだ、ロードは!?」
朔桜が思い出したかのようにロードの方を見ると
そこにはもう緑の大地は無く、荒廃した荒野が広がっていた。




