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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
五章 残全生落 悪意の災
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十五話 花より団子

ロード、朔桜、ノアはリクーナの御者する馬車に乗り“戻りの森(リバースフォレスト)”を放浪していた。

目的は朔桜の宝具【(エレクトロ)電池(チャージャー)】にエナを溜めること。

放浪する事に意味があるため、馬車の屋根に出て、各々が安らげる姿勢で座っている。

ロードは仰向けになり、両腕を枕にして足を組み

朔桜は正座を崩した姿で、気持ちよさそうに風を浴び

ノアは両手で頬杖を突き、うつ伏せで足をバタバタとしている。

一同は共通してほのぼのとした空気感で過ごしていた。

御者をするリクーナだけは、馬車が揺れないように気をつけながら

一生懸命小さな身体で大きな馬を走らせていた。


「リクーナちゃーん疲れてない!? そろそろ休憩するー?」


朔桜は口の横に手を添え、大きな声でリクーナを気に掛けると

リクーナは前を向いたまま大きな声で返事した。


「大丈夫ですー。まだ回れまーす!」


リクーナは大丈夫と言ったものの、若干の疲れが見える。

ここ数日感ずっと手綱を握りっぱなしだ。


「ロード、今日は一日お休みにしない?」


「一世界が滅びる瀬戸際だってのに随分と悠長だな」


朔桜は目を丸くして驚く。


「ロードが居るのにこの世界滅びちゃうの? それって()()負けるって事だよね?」


わざとらしく悲しそうな表情をする。

そんな朔桜の言葉に反応し、ロードは飛び起きた。


「またって言うな! 別に一日くらい休んでもエナの収集に対して影響ない」


ロードは周囲を見渡し、休めそうな場所を探す。

しかし、視界には樹木しか映らない。

ロードは身軽に屋根から飛び降り、リクーナの横に並ぶ。


「リクーナ、この辺で休める場所はあるか?」 


「え、はい、ありますけど……」


「そこに立ち寄れ。少し休息する」


「分かりました。ご主人様」


ノアは匍匐(ほふく)前進で朔桜の傍に()い寄り、口に手を添える。

朔桜は内緒の話だという事を察し、耳を傾けた。


「朔ちゃん、ロードくん操るの上手くなったね」


「えへへ」


「おい、聞こえてんぞ」


こうして特別に休息が設けられた。


「ここです」


数分後到着したのは、道の横にポツンと一軒だけ建っている家。

家の付近には鉢が置いてあり、観葉植物が飾られている。

店先には木製の長椅子に赤い布が掛かっており、中央に柄の長い赤傘が一本立っていた。

まるで人間界の店のようだ。

朔桜が呆然とのぼりを見つめる。


「お団子屋だ」


風ではためくのぼり旗には、しっかりとだんごやと書いてある。


「エルフに人気のお店なんですよ」


「まあ、エルフしか来れないだろうけどな」


ロードがつっこむとリクーナ苦笑する。

戻りの森にエルフ以外が個人的に入れる事は基本的にはあり得ないのだ。

リクーナは馬車を店の横に着けると、物音を聞きつけて店の中から緑色の着物を着た女エルフが出てきた。


「わぁ! 着物だ!」


朔桜は久しぶりに見た人間界の和の服装に目を輝かせる。


「いらっしゃいませぇ~。まぁ、エルフ以外のお客様は久しぶりね」


エルフは笑顔を浮かべると一人一人に紙のメニュー表を渡す。

メニューには団子の味と飲み物値段などが表記されている。


「俺はチョコ団子にブラックコーヒー」


「ノアは笹団子にほうじ茶~」


「私はチマ団子にコリル水をお願いします」


「待って! 今、コーヒーとかほうじ茶って聞こえたけど!」


朔桜は注文に待ったをかけた。


「早く注文しろ、店の迷惑だろ」


朔桜が慌ててメニューに目を通すと確かに緑茶やほうじ茶と書いてある。

それにトッピングも豊富に揃っていた。


「これ完全にお母さん来てたよね」


着物のエルフは朔桜を見ると何かを閃いたように手を合わせる。


「あれぇ~? もしかしてサクラちゃん?」


「は、はい、朔桜です!」


「あらあら、久しぶりねぇ。桜花様はお元気?」


「えっと……元気……であってほしいと思います……」


「一緒には住んでいないのねぇ~まあ、彼女に会ったらよろしく言っておいて~」


「は、はい! えっと、私は三色団子と抹茶で」


「かしこまりましたぁ~。少々お待ちくださいねぇ~」


着物のエルフは嬉しそうに店の中に入って行った。


ガンダルの葉の木漏れ日を感じ、澄み切った空気を肺一杯に吸い込む朔桜。

小鳥のさえずりを聞き幸せを感じていた。


「平和だね」


「これが母さんが守った平和だ」


「そうだね」


二人は遠くを眺め、おもいでに(ふけ)る。


「あれ? そのネタまだやってるの?」


ノアが不思議そうに首を傾げる。


「ネタ?」


何の事だと朔桜も首を傾げ返す。


「あはは~あんな大勢の前で兄妹なんて冗談言っちゃうなんて、朔ちゃんやるね~」


ノアはロードと朔桜が兄妹という話をまるで信じておらず

その時の事を思い出して、腹を抱えて笑っていた。


「えっと……本当」


「あはは! またまた~。 いいのロードくん? 朔ちゃんが妹で」


「不本意ながら」


ロードが冷静に返すと、朔桜は長椅子から立ち上がりロードの前に立つ。

姿勢を前に倒し、頬を膨らませ両腰に手を当てる。


「不本意って何ですか、お兄ちゃん!」


「甘えたポンコツ妹みたいな呼び方やめろ」


身体を逸らし、胸に手を当てる。


「不本意って何です、兄さん?」


「クールな世話焼き妹みたいな呼び方も合ってない」


内股で頬に手を当て、首を傾げる。


「不本意って何でですか、お兄様」


「おっとり上品妹みたいな呼び方も違う」


感情を身体全体で表し、地団駄を踏む。


「不本意って何だよ、兄貴!」


「やんちゃなじゃじゃ馬妹みたいな呼び方も却下」


棒立ちで無表情になる。


「不本意って何? 兄上」


「凛とした無表情妹みたいな呼び方もしっくりこない」


猫背で髪の毛をくるくるいじり視線を逸らす。


「不本意って何さぁ~あに」


「気だるげな陰キャ妹みたいな呼び方も不採用」


最後はいつも通りに反論する。


「不本意って何! ロード!」


「まあ、それでいい」


兄妹の息の合った掛け合いにノアは瞬きをパチパチと何度も繰り返す。


「まるで仲の良い兄妹みたいじゃん」


「まるで仲は良くないが兄妹らしいからな」


「……まじ?」


「マジだ」


息の合った問答を見て、ノアは二人の関係を信じざるを得なくなった。


「お待たせ致しましたぁ~」


タイミング良く串に刺さった大きな団子と美味しそうな香りの飲み物が到着。


「この話は終わりだ。団子食ったら行くぞ」


ロードが話を締めくくるが、ノアは既に二人の関係には興味なく

目の前の団子に釘付けだ。


「いただきまーす!」


一口で三つの団子を串から根こそぎ口に押し込める。


「おがわぁり!」


口に団子を詰め込んだまま、追加注文をかます。


「お前なぁ……」


呆れるロードを余所に、朔桜も当然のように追加注文をぶちかます。

ロードは深い溜息を漏らし、団子を頬張る。


「……うまっ」


一同は満足いくまで団子を堪能し、束の間の休息を過ごしたのだった。

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