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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
五章 残全生落 悪意の災
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十三話 零れた心情

戻りの森(リバースフォレスト)”の開けた土地で

シンシアとキリエは精霊術の特訓をしていた。

キリエは目を閉じ、精神を澄まし集中。

呼吸を整え、静かに目を開いて精霊装備『短杖』を振って精霊術を詠唱。


「アースウォール。。。!」


地面から分厚い土壁が飛び出す。

一見頑丈そうな壁だが、シンシアは目を伏せて首を横に振った。


「まだ集中力が足りていないわね」


シンシアが裏拳で土壁を殴ると、たったの一撃で穴が空き、中部辺りから崩壊した。


「その証拠に密度がスカスカよ」


「えっと……シンシアさんの拳ならそうなると思うんですが。。。」


精霊術や精霊獣の突撃ならば、容易に防げる強度ではある。

単純にシンシアがパワフルすぎるのだ。

それに気づいたシンシアは顔を真っ赤にする。


「と、とやかく言わないっ! もう少し密度を意識してっ! 集中っ!」


「はい。。。」


精霊術はエナ値の総量と集中力で威力や効力が変わる。

地の精霊術は多種多様な物へと変化でき、味方を補助する効果が強い。

精霊術の力を高めてもらいつつ、実戦で補助できるようにするのがキリエの目標だ。

シンシアはエナの解放訓練。

先の戦いで火と雷の二適者(デュアル)になってしまった。

失った力を補うためには、今まで以上に研ぎ澄まされた技術と集中力が必要だ。

戦いの中で大きな力同士を凝縮させ、ぶつかり合わせる事で

力が一気に弾け、エナの爆発的解放が起きるという方法を偶然知った。

それを意図して使えるようにするための集中訓練だ。

イシデムでは滝行で集中力を高めていたが、

戻りの森には滝は無い。代わりに特殊な瞑想を行い精神を整えてゆく。

そんな日々を続けている中、シンシアは増々、集中力を高めていった。

しかし、キリエの伸びはいまいちだ。


「キリエ……今日も集中出来てないわ」


「すみません。。。」


項垂(うなだ)れながら謝る。

だが、キリエが集中出来ていない理由、それは明白だ。


「やっぱり……キーフの事?」


シンシアは少し躊躇(ちゅうちょ)しながらも、今は亡き兄の名を口に出す。

するとキリエ静かに頷いた。


「旅に出ると決めてから誰かが死ぬという覚悟はしていました。。。

いや、覚悟していたつもりでした。。。

でも、兄が死んでから毎日、兄が夢に出てくるんです。。。」


「…………」


「兄は私を責める訳でもなく、ただ静かに笑ってるんですよ。。。

それが辛くて、辛くて。。。」


この言葉を聞きシンシアは胸を痛める。


「ごめんなさい。私がもっと強ければ……」


「シンシアさんのせいじゃありませんよ。。。

あの生物が強すぎて、兄や私が心身ともに弱すぎたんです。。。

……良くない事ですけど、ふと頭を(よぎ)るです。。。

イシデムで三人が出会った時、旅なんてしていなければ、今頃三人で笑い合えてたのかなって。。。」


その言葉は今までキリエが口に出せず、内に秘めていた本心。

自分たちの行動を否定し、助けてきた数多くの精霊人の命をも否定した

後ろ向きながらも、最も自分の心に従ったが故の言葉。

今更後悔したところで、キーフが戻って来る事は無いのは、キリエも百も承知だ。

だが、内に溜まった黒いモノをどうしても吐き出したかったのだ。

それほどまでに兄の存在は大きく、彼女の心に深い穴を開けてしまっていた。

言葉に覇気も無くなり、次第にトーンが落ちてゆく。


「朔桜さんが別れて育ったロードさんと出会えて嬉しそうにしていた時、正直私は複雑な気持ちでした。。。

どうして私はこんな辛い思いをしているのに、どうして――――っ……すみません、今のは忘れてください。。。」


自分が行き過ぎた言動をした事に遅れて気づき、キリエは逃げるようにしてその場を立ち去った。


「キリエ……」


その晩、シンシアは彼女の心はもうすり減ってボロボロだという事を

密かにレオだけに打ち明けた。


「キリエが……そんな事を?」


レオは嘘だと言わんばかりに唖然としている。


「だって今までずっと――――」


「今の今まで心を押し殺していたのよ。私も全然気づけなかった」


「キリエ……」


レオは長年一緒に居てその心情に気付けなかった自分を責める。


「少し考えれば分かる事なのに……何やってんだ……俺は……キーフにキリエを頼むって言われていたのにっ……!!」


自分の拳で胡坐(あぐら)をかいた太腿(ふともも)を力いっぱいに叩く。


「そんな事しても何も解決しないわよ……」


シンシアはレオの震えた拳を優しく両手で包む。


「キリエの事は俺に任せてください。時間は掛かるかもしれないけど、俺は傍であいつを支え続ける」


その言葉を聞いてシンシアは昔の事を思い出した。


「ふっ……まるでどこかの英雄が言いそうな言葉。貴方は……ちゃんと支えてあげてね……」


そう言ってシンシアは切なげな笑顔を返したのだった。

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