十二話 凱旋と出発
森で見つけたエルフたちを連れ、クェア村に堂々の帰還を果たしたロードと朔桜。
村の入り口で数人が二人の帰還を緊張した面持ちで待ちわびていた。
「お帰りなさい」
そう最初に迎えたシンシアには確かな確証があった。
ロードと朔桜の表情から勝敗は察せられる。
「お帰りサクラ、ロード。無事でなによりじゃ」
村長チェイビが続いて迎える。
二人の安否を気にしてか、家の中でじっとしてはおられず
シンシアたちと合流していたのだ。
チェイビは二人の後ろで疲弊しきった三人のエルフに気が付く。
「そこのエルフたちは?」
「森で拾った」
「ビッグレモンに襲われてたんです。でも、皆さん無事ですよ」
三人は揃って朔桜の言葉に深く頷く。
「そうか、ありがとう。して、ビッグレモンは……どうなった?」
改めて確認とばかりにチェイビが尋ねるとロードが堂々と答える。
「安心しろ。“喰者”最後の一角。ビッグレモンはこの俺が蹴散らしてきた」
その言葉を聞き、一同は一息つき笑顔を取り戻す。
「凄かったんだよ! ロードがもう圧倒的で! 集めた酸をギュッてしてボーッて燃やして
ヌメヌメ無敵の蛞蝓を八雷神でサァーって倒しちゃって――――」
「分かったわ朔桜。後で聞くから落ち着いて!」
興奮気味に語る朔桜をシンシアが落ち着かせる。
「森を村を救ってくれてありがとう、ロード。
私たちの同胞を助けてくれてありがとう、朔桜」
チェイビは深く、深く頭を下げて感謝の言葉を述べた。
それからすぐにチェイビはクェア村の外出禁止令を解き
各村に一言添えてビッグレモンの脅威が去った事を報告する伝令を走らせた。
村人も大歓声を上げ、ロードと朔桜を迎えた。
二人も“戻りの森”を守り
母、桜花が受けた恩を返せた事に満足していた。
村人の信用を得たついでに、ロードと朔桜は一つの決断をする。
「ロード」
「ああ」
短い会話を交わし朔桜が真剣な面持ちで口を開く。
「みんなに聞いておいてほしい事があるんです」
村長チェイビ立ち合いのもと、シンシアたちや村人にロードと朔桜は
兄妹で桜花の子供だという事実を話した。
話を聞いた村人は更に沸き上がる。
「やっぱりサクラちゃんか! 大きくなったなぁ!」
「さすが、桜花の血族ね」
歓喜の声で溢れている一方、旅の一同の反応は全然違う。
「ぷぷっ……」
ノアは笑いを堪えるそうに下を向いて表情を隠す。
「驚いたわ……」
シンシアは素直に驚愕している。
「そうですか? 最初から何か通じ合うものがある感じありましたし
俺はそんな驚きは無いですよ? な、キリエ?」
「…………」
レオがさっぱりと答える一方、キリエは静かに俯く。
二人の容姿はまるで似ていないし、性格も天と地だ。
光と闇のような対の存在と言ってもいいほどだ。
だが、本人たちの口から語られた事をただただ一同は理解した。
村人には桜花の子という事は話したが、“風神封縛帯”の一件は伏せた。
広く話が広がれば、大混乱になる事は違いない。
風神封縛帯は村から遠く、村人ですら立ち入り禁止の地区にある。
それに加え、チェイビが村長に事情を話し、外出禁止令を出してもらった。
先の伝令に添えた一言とはその件だ。
今回のように村人が巻き込まれる事はない。
もし精霊神 シ・セウアが復活してしまえば
その時点で村人の避難がどうのという次元の話ではない。
“精霊界の滅亡”これが現実となる。
この世界のどこに居ようと生命は滅びる事になるのだ。
日食の日まで残り二週間。
その間に復活を阻止するため、影を倒せるほどに強くならなくてはならない。
それに相手は影だけではない。
魔人メサ・イングレイザの存在だ。
“喰者”の一角。誘香粘竜 ストロベリアルを一撃で倒すほどの実力。
最悪メサと同等の仲間を連れてくる可能性もある。
以前の“金有場”のように傭兵を雇う可能性もある。
そうなった場合、ロードとシンシアだけでは対処できない。
一同は各々万全に備えるよう力の底上げを図る事にした。
「じゃあ行ってくる」
ロード、朔桜、ノア、リクーナの四人は“戻りの森を巡る。
朔桜の宝具【雷電池】でロードが八雷神 リ・マインドを顕現させ消費した魔力をで回復させた事で、貯蓄していたエナがほぼ底を突いた。
戻りの森は未開の地が多く、豊富なエナが漂っている。
二頭の早馬と駅馬車で森を回り、後二週間エナを回収する。
ロードは今だ不足した魔力を自然から吸収
ノアは電力を消費しないよう極力小電力で過ごす護衛。
リクーナは迷わない道案内兼、馬車の御者を引き受けた。
もう一人でも二頭の手綱を握れるとシンシアのお墨付きだ。
「行ってきまーす。チェイビおばあちゃん」
「行ってらっしゃい。サクラ」
チェイビに見送られ、四人はクェア村から出発したのだった。




