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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
五章 残全生落 悪意の災
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十話 ビッグレモン


喰者(フルーヅ)”ビッグレモンは目的も無く“戻りの森(リバースフォレスト)”を溶解し、進行中。

速度は遅いが、これ以上森を溶かさせるわけにはいかない。ここは二人の恩人たちの森なのだ。

ロードは手を前に(かざ)し、魔術を唱える。


風握(ふうあく)(しゅく)


周囲に漂う小さな酸を一箇所に圧縮して(まと)める。

人の顔と同じくらいの大きさの酸の球体が出来上がった。


「さあ、集めたはいいが、どうしたもんか……」


ロードが対処に困っていると、朔桜が口を開く。


「炎で燃やしてみるのは?」


朔桜が燃焼させる方法を提案。

ロードは試しに火の魔術を放つ。


「フレイレイド!」


火の下級魔術に風の魔術で酸素を送り込む事で一気に火力を増させる。

一点に集めた酸から白い煙が噴き出す。どう考えても身体に有害な煙だ。

ロードは風の魔術でその煙を吸わないように上空に逃がした。


「どうにか処理は出来たな」


酸は全て熱で蒸発し、気化。

跡形も無く消滅した。


「凄い! 風の魔術って本当に汎用性高いね!」


汎用性という言葉を聞いてロードは頭痛に襲われる。


「その単語を発するのはやめろと何度言ったら分かる!」


「え~なんで? 汎用性ってそんな変な言葉じゃないよ?」


朔桜は別に変な事は言っていないと首を傾げるが、ロードは本気だ。


「いいからやめろ! 二度と口にするな! それとも酸のプールで泳ぎたいか?」


ロードの目は本気だ。


「分かった! 分かったって!」


朔桜は慌てて了承した。

以前からあったが、汎用性という言葉にこんなに気を立てるのか朔桜には理解できない。

ロードは深く溜息を吐くと周囲を見渡し現実を直視。

空中には大、中、小、極小の酸が数千を超えて漂う。

きりのない作業量にうんざりとする。


「時間は掛かるが、燃やして少しずつ処理していくか」


そう言った途端、ロードはある異変に気付く。

遅れて朔桜も異変に気付いた。


「なんか……酸の量増えてない?」


漂酸を見た時よりも、数が増している。

極小の酸が宙から突然発生。

極小の粒同士が結合し、一回り大きく。

一回り大きい酸が同じ大きさの酸と結合。

倍々の原理でその堆積を増やしていく。

次第に酸は増えていき、視界はあっという間に黄色一色に覆われた。


「どうやら、火を付けられた事で、奴のやる気にも火が付いたらしい」


一面に広がった酸は、一箇所に集い形を成す。

黄色く分厚い酸の身体。

二本の短い触覚が機敏に動く。

吹き上がる蒸気は高温で周囲の空気を揺らす。

地上には蒸気を放つ巨大な蛞蝓(なめくじ)が出現した。


「あれが漂酸 ビッグレモンの真の姿か」


ビッグレモンが通った場所には黄色い粘液が残り、草原や大地を溶解。

ロードは驚きもせず、ただ冷静に観察している。


「凄い熱そうだけど……そんなに強そうには見えないね……」


朔桜からすれば、蛞蝓なんて梅雨の時期に人間界の庭によくいる害虫程度のイメージしかない。


「フレイレイド!」


ロードが再び、火の魔術を唱えるが、ビッグレモンにはまるで効果が無い。

それ以上に厄介な事が起きていた。


「あいつ……俺の魔術を吸収しやがった」


ロードは顔を(しか)める。


「吸収って……じゃあ、魔術で倒す手段は無いの!?」


焦りを感じる朔桜とは対照的に、ロードは冷静に顎に手を当て思考する。


「今の感じ恐らく、あいつの特性はエナの吸収だ。

そして、吸収したエナを燃焼させて高温の熱に変換している。

見ろよあの蒸気。さっきよりも灼熱の熱波が伝わってくる」


ロードの言う通り、周囲の温度は急上昇。

草原は高温の熱気で燃えている。


「酸の塊だから物理も効かない。どんなエナの攻撃も通用しない。

今や、あいつは無敵の存在に近い……」


ロードは俯瞰(ふかん)して物事を語る。


「で、でも、ロードには最強の【八雷神(はちらいじん)】があるじゃん!」


「土雷神 ネザーの大陸震撼砲でも、あのビッグレモンを倒せるかどうか不確定だ。

最悪、エナを全て吸収されて手が付けられなく可能性すらある」


「そんな……」


「それ以前に、俺の攻撃でこの森は跡形も無くなるのは確定だ」


朔桜が愕然としている最中、ビッグレモンは大きく口を開け、酸の塊を吐き出す。

ロードは風壁を前方に展開するが、勢いを殺すどころか風壁が一瞬で溶けた。


「ちっ!」


球体のまま移動するが、周囲にも酸が漂っていて風壁が溶けて穴が空いていく。

何度も風壁―球を張り直すが、どんどんロードの魔力だけが消費させられている。


「姿を現してから上空にも酸が届くようになってきたな……」


状況は刻々と悪化していく一方だ。


「なんか、なんか、ないかな」


朔桜は必死に脳をフル回転させる。

だが、朔桜の頭ではこの状況を打破できる策は思いつくはずもない。


「というか、そもそもさ、この酸はどこから現れたんだろう?」


当たり前だと思って受け入れていた現象。

そこに朔桜はふと疑問を抱いた。


「どこからって……突然現れる災害みたいなモノってシンシアが言っていただろ?」


「そう、そこだよ。突然現れる災害でも、原因はあるはずだよね。

雨なら雨雲が。台風なら気圧が。地震なら地層とかさ」


「つまり、漂酸にも発生の原因があると?」


「違うかな……?」


ロードは自身の持つ魔界と人間界の知識。精霊界での情報を交えて再思考する。

その時、クェア村で朔桜とノアがしていた会話を思い出す。


「そうか……お手柄だ、朔桜」


ロードの顔を見て、朔桜は安心しきった笑みを浮かべる。


「あいつなら……あの蛞蝓をぶっ殺せる」


そう言い放ったロードは勝利を確信し


お馴染みの余裕のある悪い笑みを浮かべた。

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