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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
五章 残全生落 悪意の災
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八話 恩返し

ひとしきり泣いた朔桜は、泣き疲れたのかロードの膝の上で眠ってしまった。

その間、ロードはこの村に来た理由と目的をチェイビに説明。

朔桜は今だにすやすやと小さな寝息をたてて眠っている。


「ほれ、これがクェア村の滞在許可書じゃ」


「ああ、確かに」


滞在許可書には村長チェイビの字で一同の名前と最後に責任者のチェイビの名が記されていた。

書面を確認し、紙を黒鴉の衣の懐に入れる。

これで滞在は認められた。住民とトラブルになる事はない。


「ロードよ、本当に“風神封縛帯(シドラスネメス)”からシ・セウアが解き放たれるのか?

あそこには何重もの結界と神鍵(しんき)で究極の封印を施されておる。あれを解く者などにわかには考えられぬが……」


ロードの言葉をチェイビは疑う。


「阻止しなければ、間違いなく破られる。断言してもいい。

あの影野郎は、魔界で封じられていた怪物を箱詰めにして人間界に持ち出してきたような奴だ。

そんな奴がわざわざ大見得切ってまで嘘を言う理由がない」


「もしそんな事になれば、この森はおろか、精霊界が――――」


「滅ぼさせやしない。俺たちの親が守った世界だ。

フォン・ディオスの名にかけて、この世界は守ると誓う」


そう言い切ったロードの姿は、チェイビの目には一瞬、桜花の姿と重なって見えた。


「ふぉふぉ、今やっと……桜花の子だと確信したよ」


「何を今更」


二人が話している最中、柔らかかったチェイビの表情が険しく変わった。


「何があった」


表情で異変を察したロードがチェイビに問うとチェイビは人差し指を立て、静まるよう促す。

チェイビの耳が機敏に動く。ロードには何も聞こえないが、チェイビには何かが聞こえているらしい。

次第にロードの耳にもガラガラと馬車の(せわ)しない音が聞こえていた。


「という次第でござます村長! どういたしましょう!?」


外から若い男エルフの大声が聞こえてくるが重要な事は話終えた後のようだ。


「うむ……。暫し、待て」


「村長! 事は一刻を争います! ご判断をっ!」


許可なく戸を開けたエルフと座布団に座ったロードの目が合う。


「ご……御客人でしたか。失礼しました」


エルフは一礼する。

それと同時に戸の開く音で朔桜も起きた。


「むにゃぁ。おはよ、ロード」


「起きろ、問題発生だ」


ロードは立ち上がり無慈悲に朔桜の頭を床に落とす。

木製の床とぶつかり、ゴンと鈍い音が鳴り響く。


「いだぁ!!」


「丁度連れも目が覚めたらしい。連絡を復唱しろ。俺らが力になる」


エルフは戸惑いチェイビの顔を窺うとチェイビは縦に頷く。


「では、復唱いたします! 戻りの森(リバースフォレスト)の最北端にて“喰者(フルーヅ)”の一角。ビッグレモンが出現!

真っ直ぐクェア村に向けて突き進んで来ています!

今のところ人的被害の報告はありませんが、森に甚大な被害が出ているとの報告があります!

目的は不明! このままでは後十数時間で“風神封縛帯(シドラスネメス)”を通過すると想定されます!」


「あの影野郎の差し金か? ビッグレモンってのは確か“精霊女王の忘れ形見”とか言ってたな?」


ロードの問いに自分の頭をさすりながら朔桜が答えた。


「うん。私たちが最初に出会ったあの赤い竜とあの鬼人を産み出した桃目玉の仲間だよ」


「お主ら奴らに遭遇したのか!?」


「ああ、その二体はとうにお陀仏(だぶつ)だ。

俺ならそのビッグレモンとやらも、同じとことに送ってやる事も出来るがどうする?」


「君は何を――――」


あまりの飛躍した言葉に若いエルフが口を挟もうとするが、チェイビは即断した。


「頼む、ロード・フォン・ディオス。お主にこの“戻りの森”を救ってほしい!」


「引き受けた。母さんが受けた恩は俺が返す」


「私も! 私も協力する!」


「全員村から出ずに自宅で茶でも飲んでろ。行くぞ、朔桜!」


ロードは朔桜を抱え、風の魔術で飛び去る。

村長宅の入り口にある分かれ道に見慣れた大きな馬車が停車していた。

そして、周囲のエルフたちは慌ただしい。


「状況説明は必要か?」


「いいえ、不要よ」


ロードが問うとシンシア毅然(きぜん)と返す。

シンシアの耳もこの騒ぎの原因を聞きつけていたようだ。


「今から俺と朔桜は“喰者”ビッグレモンを討ちに出る」


「私も行くわ!」


シンシアも参戦に名乗りを上げるが、ロードは首を横に振った。


「あの影野郎の揺動かもしれない。お前ら全員はこのクェア村を守れ。

ビッグレモンは俺と朔桜が責任を持って片付けてくる」


シンシアはロードの言葉に一瞬目を丸くして驚く。

だが、すぐに嬉しそうに笑みを浮かべた。


「少しの間に変わったみたいね」


「なんの話だ?」


「いいえ、こっちの話。今の貴方になら安心して任せられるわ」


シンシアはロードの変化をいち早く察した。

ロードの目は真剣そのもの。遥か昔に見ていた勇敢な少年と同じ目。

シンシアはその目を信じ、ビッグレモンの知り得る情報を二人に開示する。


「“精霊女王の忘れ形見”にして“喰者”の最後の一角。漂酸 ビッグレモン。

漂う酸と書いて漂酸。その名の通り 宙を漂う酸の精霊よ。

私は実際に見た事が無いけれど、どこからともなく突然現れて

進む先の進路全てを無に帰す災害みたいな存在らしいわ」


「弱点や対処方は?」


「残念ながら聞いたことないわね」


「精霊人組は何か知らないか?」


ロードのはレオ、キリエ、リクーナ、カシャを順に見る。


三人は首を振ったが、カシャだけ心当たりがあった。


「漂酸なら、二年ほど前に一度だけ見たことがあるゾ!」


「本当か?」


「ああ、平原に小さな黄色い液体が浮いていて、何かと思って近づいたら

突然、液体が膨張。私の半身は一瞬で溶けて死んだんだ。

蘇生に半日近くかかって大変だったゾ!」


出来事を思い出すように、自身の肩の部分を何度も撫でる。


「黄色い膨張する液体か……他に何か感じた事はないか?」


「ふむ……。あれは近づく生物を率先して狙っているという感じだった。

捕食するような感覚……と言えばいいのか」


「溶かしてエナを吸収してるって事?」


朔桜の言葉をカシャは肯定する。


「溶かす液体。スライムの強個体みたいなもんか」


「ノア知ってるっ! スライムってあのぷにぷにの雑魚モンスターでしょ?」


「スライムなら簡単に倒せそうだね」


ノアと朔桜が何とはなしにゲームやアニメで見知った知識で話すと、ロードたちはそれを否定する。


「何を言ってる。スライムは難敵だゾ!」


「そうだ。あいつらは物理は効かないし、魔術で跡形も無く消し去らないと際限なく復活する」


「精霊獣や家畜、精霊人だって捕食するんだから」


「え、こわい」


朔桜とノアは異世界との認識の差を思い知る。


「とりあえず、だ。ビッグレモンにはなるべく近寄らず、距離を取って戦うのがベストってこったな」


ロードは対ビッグレモンの対策を完結に(まと)めた。

シンシアとカシャはそれに同意。


「行くぞ、朔桜」


「うん!」


ロードは朔桜を抱き抱えると飛翔で空を飛び、ガンタル樹木の葉から上空に飛び出した。

出た先はロードたちが“戻りの森”の入り口付近。


「あれ!? 瞬間移動してる!?」


物理現象を無視した出来事に朔桜は驚く。


「流石は、“戻りの森”ってところか」


ロードは森の性質に感心しつつ、手を天に(かざ)す。


「現れよ、我が“八雷神”が一柱。駆け巡れ、伏雷神! ライトニング!」


空は瞬く間に曇天に覆われ、蒼雷から脚に黒い雷雲を纏い

角から蒼い雷を放つ蒼黒の気高き神馬が姿を現す。

ロードと朔桜はライトニングにシルクのように滑らかな毛に触れた。


「目指すはこの森の最北端だ。行け! ライトニング!」


主の命令を受け、神馬は触れた二人と共に光となり


神速で森の最北端へ辿り着いたのだった。

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