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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
五章 残全生落 悪意の災
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五話 桜花(過去編)

桜花の過去編です。

精霊界の巨大な樹木が(そび)え立つ外からの侵略を許さない閉鎖的な“戻りの森(リバースフォレスト)”。

その特性を利用し、太古昔からエルフが住まう閉鎖的な土地。

未開の地が多くエナが豊富。

ガンダルの葉が良質な土を造り土地も豊かだ。

山から流れ込んだ綺麗な水が湧き出る泉もある。

その泉に黒と紫が入り混じった人一人が入れるほどの不気味な異空間が唐突に開き、一人の女性が吐き出された。

紅赤(べにあか)髪の黄金色の眼の美しい女性。

裾の広いゆったりとした長い服を着ている。

覗かせた色白の首や手首は禍々しい闇に蝕まれていた。

得体の知れない彼女をたくさんのエルフが取り囲む。

状況を聞きつけた村長のチェイビが若いエルフに背負われ、駆けつけると彼女は瀕死の状態だった。


「あんた余所者かいね。大丈夫かい?」


心配したチェイビが手を差し伸ばそうとすると

彼女は身を(えぐ)られるような痛みに耐えながら一言だけ告げた。


「私に触れてはダメ……。貴女もこの影に呑まれてしまう」


敵意のある拒絶ではない。

相手を心配した敬意ある拒絶だ。

その意を()んだチェイビは手を引っ込め、静かに頷く。

彼女は笑顔を浮かべると、ぎこちない動きで胸元のペンダントを探す。

もう身体の感覚もまともにない。

彼女は指に全神経を集中させる。

指先ペンダントが当たると、彼女は強く握り締めた。

すると、ペンダントは煌々と輝き出す。

光に驚いたのか警戒したエルフが弓を構える。


「やめい!」


チェイビが大声でそれを阻止。

周囲のエルフはその光景をただ黙って見守る。

暖かな光が彼女の身を包むと、彼女を蝕んでいた闇を跡形も無く払っていく。

そして、光が消えると微睡んだ彼女の意識はプツリと途絶えた――――。


それから五日後。

彼女は柔らかな布団の中で目を覚ます。


「はっ!」


飛び起きたと同時に椅子に座って編み物をしていたチェイビと目が合う。


「……えっと……ここは?」


自分の状況が理解できず、首を傾げポカンとしている。


「ようやっと目覚めたか。五日間眠り続けておったぞ」


「五日間っ!? 戦争はっ!? 激流の地(トーレント)との戦争はどうなりましたかっ!?」


急に血相を変え、チェイビに縋りつく。

真剣な眼差しでチェイビの答えを静かに待つ桜花。


「お主、記憶が混乱しておるのぉ。まず、お主は……()()()()()()()()?」


「どの世界って……」


言葉を繰り返したと同時に、彼女の記憶が次第に(よみがえ)ってくる。


「そうだ。私、あいつに襲撃されて世界を渡ったんだ……」


自分の左薬指を見て、ようやく状況が呑み込めたらしい。


「思い出したかの?」


「はい……。全部、思い出しました」


彼女は目を潤ませ、唇を強く噛み締めた。

だが、一転。静かに呼吸を整え、精神をも整える。

逸脱(いつだつ)した精神力だ。

自分が助けられた身分だとと状況を理解する。

すぐにチェイビに向き合い頭を下げる。


「失礼しました。あの、私、魔界から来ましたオウカ・フォン・ディオスと言います。

気軽に桜花とでもお呼びください。

この度はご親切に拾っていただいて本当にありがとうござます! なんとお礼を言っていいか……」


「ふぉっふぉっふぉ。構わんよ、桜花。

儂はチェイビという。このエルフの住まうクェア村の村長じゃ」


「村長さんっ! これはこれは重ね重ねのご無礼を!」


二歩下がり距離を離す。 


「あの……先程どの世界からとおっしゃいましたよね?

別の世界の存在をご存じなのですか?」


「知っておるよ。長命なエルフ歴史で語り継がれてきた話じゃ。

人間界、魔界、天界、そして、ここは精霊界じゃ。

まさか、別の世界の精霊人を自分の目で見るとは思わんかったがのぉ」


桜花はチェイビの言葉を聞いて何かを一人で理解する。


「精霊界……あぁ……そういう(えん)なのね……。

えと……えと……何かお礼をしなきゃ……あっ……私一文無しだ……。

てか、黒鏡(こっきょう)も無くしてるし……。

夢露時雨(むろときしぐれ)』と【(エレクトロ)電池(チャージャー)】は渡せないし……う~ん……えっと……」


彼女は慌ただしく表情を変え、落ち着きなく身振り手振りを繰り返す。


「ふぉっふぉっふぉ。面白い娘じゃ。

礼は構わんよ。助けの手を差し伸べるのに世界も種族も関係ない。当たり前の事をしただけじゃ」


チェイビの言葉に桜花は嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます。あの、少し失礼します」


桜花は突然一人でに喋り出す。


「精霊界の扉の位置は分かる? えぇ!? 忘れたぁ!? あらら、しっかりしてよ~。困ったなぁ、早く戻らないとみんな心配するよぉ……」


続けて一人でブツブツと喋りだす。


「桜花、急にどうしたんじゃ?」


「あ、いや、すみません! あの、もう一つお聞きしても……」


「構わんよ」


桜花はふぅと息を漏らす。


「大きな門を知りませんか? 古くからある門なんですが……」


「門……うむぅ……心当たりはないなぁ……」


「そうですか……。色々とありがとうございました」


桜花は布団の横に置かれた私物の傘を手に取って立ち上がる。


「行く当てはあるのか?」


「いいえ、何もないです。でも、私を待ってる人たちがいるんです。一刻も早く帰らなくちゃいけないんです。お礼はいつか必ずしに参りますので!」


「精霊界は広い。行く当てなく探すのは骨が折れるぞ」


「それでもっ!」


桜花は感情的になり声を荒らげる。

ふと正気に戻りチェイビに頭を下げた。


「すみません、私を心配してくださっているのに……」


「いいんじゃ、残してきた者たちがそれほど大切という事じゃろう」


桜花はチェイビの言葉に深く頷いた。


「この家を使いなさい。外界に出入りするのは些か難儀じゃが良い所じゃ。

桜花が帰れる手がかりを掴むまでここを足掛かりにしなさい」


「そんな――――」


「桜花。焦るのは分かるが、一人の身体じゃないんじゃ。もっと慎重になりなさい」


「……はい」


チェイビは無償で桜花に手を差し伸べた。

それから数週間、桜花はクェア村で暮らしながら森の外に出て、門の情報を集めを始めた。

時折、好意で住まわせてくれた恩返しとしてエルフの狩りに同行。

桜花は戦闘センスがずば抜けており、運動能力が高いエルフすらも遥かに上回っていた。

鮮やかな朱色の傘の武器『夢露時雨(むろときしぐれ)』でバッサバッサと獣を狩っていく。

ガンダルの木も軽々と両断していき、土地の開拓なども手掛け

エルフが怪我をした時は宝具【雷電池】で治療にも務めた。

人当たりも良く裏表のない性格と行いが外界人嫌いのエルフを凝り固まった考えを変えてゆく。

こうした日々の積み重ねがあり、クェア村で桜花はクェア村の一人と認められた。

もう彼女を外界人と嫌う者はただの一人もいなかった。

ある日、桜花が森の外に行こうとすると急に吐き気に襲われた。

覚えのある四度目の感覚。


「……もしかして……」


エルフの女医に診察してもらうと桜花の妊娠が発覚した。

それからは狩りへの同行を控え、森の外に出る事も減らし、お腹の子供を最優先したのだ。


「レグルス心配しているかな……」


桜花は布団の中で大きくなったお腹を撫でながらポツリと小言を漏らす。


「ユーフェイスもザイアもロードも元気かなぁ……」


桜花の目からポロポロと涙が零れ落ちる。

戦時中に置いて来てしまった別世界の家族を思いをはせる。

チェイビはそんな彼女の頭を優しく何度も撫でた。

そして、ついに第四子が生まれた。

大声で泣く元気な女の子だ。


「桜花、お疲れ様。子の名はどうするんじゃ?」


「……ユーフェイスもザイアもロードもレグルスに決められちゃったから……この子は私の独断で決めちゃうんだ……」


桜花は自分の子を抱え上げる。

髪の色を見て一目で決めた。


「…………サクラ。この子の名前はサクラ・フォン・ディオス」


こうしてフォン・ディオス家の第四子。


サクラ・フォン・ディオスがこの世に生を受けたのだった。

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