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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
五章 残全生落 悪意の災
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二話 記憶の光景

巨木の根元をロードが颯爽(さっそう)と駆け抜ける。


「こっちでいいのか?」


ロードは左手に抱えた朔桜に方向を聞く。


「うん……この先だけど、勝手に来ちゃって良かったのかな?」


「今更だろ」


ロードは悪びれもなく言い切る。


「あっ……そこを右!」


その後も朔桜の指示に従い進んでゆくと開けた平原に出た。

平原の中心には朔桜の言った通り泉があり、年老いたエルフ、子供を連れたエルフなど多くのエルフが木の桶を持ち水を汲んでいる。

ロードは平原に出ず、木を背に身を隠した。


「ここが目的地か?」


「うん。私、やっぱり……ここに来たことある」


朔桜の言葉にロードは怪訝な顔をする。


「どういう事だ?」


「私、小さな頃ここに住んでたみたい」


「は? 何言ってんだ?」


ロードは引き気味に朔桜を見た。


「そんな可哀想なものを見る目で見ないでー!」


「死苦草を食った後遺症か」


「違うよっ!」


「それとも脳にアーガハイドが住み着いてるのか?」


「違うって!」


「メサの能力を食らった後遺症だな」 


「それだよっ!」


「それとも……あ?」


「その、蝶を出す能力を食らって倒れてから小さい頃の記憶が戻ったの。

私、この村でお母さんと二人で暮らしてた!

この泉……覚えてる。何度も一緒に水を汲みに来ていた!

この平原も覚えてる。精霊と一緒に駆け回っていた!

全部間違えない私の記憶だよ」


朔桜は堂々とロードの目を見て言い切った。

その目を見れば嘘偽りの無い事など一目で分かる。


「なら、お前が探していた母親はここに居るって事か?」


「それは分かんないけど……」


「なんだよ、ハッキリしろ! ここでお前の母親が見つかれば、それは俺のモノなんだぞ!」


ロードは朔桜の胸元の宝具【(エレクトロ)電池(チャージャー)】指差す。


「記憶が曖昧なんだよぉ~ここに居た事は覚えてるんだけど……その後どうしたんだっけなぁ~~?」


朔桜が頭を抱え(うな)っていると木の横から子供の女エルフが顔を覗かせる。

二人の会話は耳の良いエルフには丸聞こえだったのだ。


「っ!」


ロードが警戒すると女エルフは朔桜を指差す。

緊張が漂う中、


「もしかして、サクラちゃん?」


エルフの唐突な言葉に二人は目を丸くする。

驚きすぎて朔桜はすぐに言葉が出ない。


「あれ? 違った?」


朔桜は激しく首を振る。


「さ、朔桜です! お姉さん……私を……知っているんですか?」


朔桜は女エルフの唇を見つめたまま呼吸を忘れる。


「もちろんっ! ()()()()()に遊んだじゃない! サクラちゃんは忘れちゃったの?」


「ちょっと前? えっ? えっ?」


朔桜は混乱し状況が整理できずにあたふたしていると

二人の間にロードが割って入る。


「待ってくれ。こいつは今幼い頃の記憶を無くして混乱しているんだ」


「えっ……そうなの?」


朔桜は縦に首を振る。


「良かったら詳しく話を聞かせてくれないか?」


代弁し話すロードの顔を女のエルフは顔をじっと眺める。


「貴方――――」


「ままーーーー!」


女エルフが何か言おうとしたと同時に小さな男児のエルフが駆けてくる。


「ああ、ごめんね。お腹空いてたもんね」


今にも泣きそうな男児を抱き抱えてあやす。


「ごめんなさい。私、この子のご飯作らなくちゃいけないんだったわ」


母エルフは苦笑する。


「頼む、少しだけ時間をくれないか?」


「ごはん! ごはんーーー!」


子供は母エルフの胸でぐずり出す。


「話してあげたいのは山々なんだけど……ごめんなさいね。

私よりなんか村長の方が朔桜の事詳しいから全部話してくれると思うわよ」


「村長が朔桜の事を?」


「ええ、村長の家は――――」


「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!」


とうとう子供は泣き出してしまった。


「あーあーごめんねー。今作るからねー」


エルフは(きびす)を返す。


「村長の家はクェア村の真ん中の赤い屋根の家!

クェア村に貴方たちを嫌う者は一人もいないから、今度落ち着いて話しましょう!

またね、サクラちゃん!」


エルフは駆け足で泉で汲んだ水桶に蓋をして飛び去って行った。

ロードは舌打ちを鳴らす。


「あのく……」


クソガキのせいで聞きそびれたと言おうとしたところで言葉を止めた。

耳の良いエルフがどこまで聞こえているか知れたものではない。


「……とりあえず、クェア村でシンシアたちと合流してからその村長とやらの家に行くぞ」


「……うん……」


ロードが確認すると朔桜は心ここに在らずという感じで生返事を返したのだった。

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