八十四話 手合わせ
スネピハ奪還作戦により
“精天機獣”
丑の刻
午の刻
未の刻
酉の刻
四機。
“喰者”
誘香粘竜 ストロベリアル
複製結合 バルスピーチ
二体。
バルスピーチから産まれた新たな生命、鬼人。
そして、精霊王アーガハイドを討った事により
リフィンデル王国近隣で忘れ形見が活発化していた件は落ち着きを取り戻した。
再び、人々の生活は穏やかなものになるだろう。
だが、戦いの代償は実に大きかった。
七割の都民が死に
二区衛兵サビーが行方不明。
五区自警団長ランデュネンが戦死。
ポテとキーフも激戦の果てに戦死するという結末を迎えた。
揺られる馬車の中、朔桜の手には黒鏡が握られている。
「ソレはお前が思っている以上に高価なモノだ。二度と無くすなよ。二度とだ」
「はいぃ……」
ロードの横で朔桜は小さく縮こまる。
精霊王が討たれた後、ロードは黒鏡の反応を追って水中から朔桜が落とした黒鏡を回収したのだ。
「まあまあ、回収できたのだから良かったじゃないか!」
ロードの横で大男が腕を組み笑う。
「黙れ、カシャ。戦力として雇ったのに、バラされやがって」
「ほんとほんと。油断するなとか言って早々に潰されてたら世話ないよね」
朔桜の向いに座るノアはカシャを指差しクルクルと回す。
「電池切れしてノビてた奴がよく言う」
ロードが鼻で笑うとノアはニコニコした顔で反論する。
「足折れたぐらいでベッドで気絶してたロードくんがよく言うよ~」
三人は笑い合う。だが誰一人として笑っていないのが分かる。
全員目が本気だ。カシャは仮面を被っているから表情すら分からない。
「くっ……空気がわるい……」
朔桜は耐えかねて暖簾から外に顔を出し深呼吸する。
「ぷは~自然の空気は美味しいなぁ」
「どうしたの? 朔桜」
朔桜に気づいたシンシアが馬を御者したまま尋ねてきた。
「中の空気が少し悪くて……」
「ああ……今はそっとしておいてあげて……。
家族が死んですぐに立ち直れるものじゃないわ」
「あ、いえ、レオ君たちじゃなくて……」
訂正しようとする朔桜の前にふわふわと小さな精霊が現れた。
「あれ? この子……」
「朔桜、貴女もう精霊の判別ができるの?」
「えっと……なんとなくなんですけど。私と契約していた雷精霊ですよね?」
「そうよ。スネピハでアーガハイドに取られたって聞いたけど、健気に追って来たみたいね」
精霊は朔桜の周りクルクルと漂う。
「また、私と契約してくれるの?」
朔桜が問いかけると精霊は嬉しそうに動き回った。
「じゃあ、契約」
朔桜が指を差しだすと再び、光を放ちながら指に溶けるように消えた。
「良かったわね、朔桜」
「はいっ! これでまたみんなの力になれます!」
中からは今だにロードたちが騒ぐ声がする。
目的地に到着するまで三人は仲良く言い争いを続けていた。
到着したのはイシデムの鍛錬所。
目的は三つ。
一つはイツツを送り届ける事。
二つは預けていたリクーナの迎え。
そして三つ目は――――
「そう……ですか……。ぐすっ……ポテ様……キーフ……」
門前で膝を付いて泣き崩れるヒシメ。
そう、ポテとキーフの死亡報告だ。
レオとキリエはここまでの道のりずっと心ここに在らずだ。
師に続き、親友、兄までも失ったのだ。
まともな精神状態でいられるわけがない。
「少し、庭を借りるぞ」
ロードはヒシメの許可なく
鍛錬所の庭へとズカズカと入ってゆく。
「ちょ! ロード!」
朔桜も後を追い、一同もそれに続く。
庭の片隅でロードは空間を計っていた。
「何してるのかしら?」
「さあな、分からんゾ!」
シンシアとカシャは首を傾げている。
「ストーントゥーム」
地面から長方形の岩を突き出した。
凹凸はほとんどない綺麗な長方形だ。
「見栄えは悪いが、無いよりはマシだろう」
ロードの行為の意図が分かるのは、人間界に住んでいた朔桜だけだ。
「ブルームス」
石の周りに色とりどりの綺麗な花を咲かせ、両手を合わせて目を閉じる。
「師匠、あんたには本当に世話になった。
キーフ、間に合わなくてすまなかった」
一言だけ言葉を添える。
「彼は何をしているの?」
シンシアが朔桜に問う。
「あれは死者を弔っているんですよ。
人間界の習わしみたいなものです」
朔桜はロードの横に並び、静かに手を合わせた。
「ノアも!」
ノアも朔桜の横に立ち、朔桜のマネをするように手を合わせる。
続いてシンシアもカシャも墓石に手を合わせた。
「皆さん……」
その様子を見て、項垂れていたレオは堪えていた涙を流す。
同時にキリエもその場で泣き崩れた。
二人はやっと現実を受け止めた。
この区切りの行為によって、実感がなかった感覚。
ふらっと帰って来るような、淡い期待を胸に抱いたまま耐えていた感情。
心が壊れぬように逃避していた。だが、事実を認めた。
親友が、兄が、この世にはもういないという現実を。
明日に、明日進んで行くために。
「シンシア、リクーナを馬車に」
「ええ」
シンシアは静かにその場を後にした。
「俺たちは先に進む。お前たちはどうする?」
ロードは感傷に浸っているレオとキリエの前に立ち問う。
「ロードっ!」
全く気を遣わないロードを叱るように朔桜が割って入ろうとした。
「今、二人は答えられる状況じゃ――――」
「行きますっ!」
「行きます。。。!」
即決だった。
レオとキリエは返答に一切迷わず、言い切った。
ロードはこの答えに笑みを溢す。
「気に入った。馬車に乗れ、あの忌々しい影をぶちのめしに行くぞ!」
こうしてロード、朔桜、ノア、シンシア
レオ、キリエ、リクーナ、カシャの八名は
精霊界とそれに住まう多くの生命を救うため
エルフの住まう森“戻りの森”へ向かって進むのだった。
~輪廻凱旋! 都市奪還作戦編 完結~




