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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
四章 輪廻凱旋! 都市奪還作戦
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八十話 精霊界の王 (過去編)

精霊王の過去編です

精霊界、現リフィンデル王国の領地。

旧アツテミフォ王国の領地、北西の戻りの森(リバースフォレスト)の近郊にある

人口二百人と少しばかりの精霊人が住まう小さなコド村で彼は産まれた。


「父さん! 母さん!」


笑顔で精霊人の母とエルフの父に手を振る少年の名はアーガ。

父譲りの長い耳と、母譲りの綺麗な琥珀色の目が特徴の普通の少年。

村の周囲は緑豊かで動物も豊富。川も近く質素ながらも何不自由なく暮らしていた。

ある日、近くのタク村と小さな(いさか)いが起こった。

どちらかが規定の多く魚を取った。などという小さな火種がきっかけで気が付けば、村と村を対立させた。

互いに隣の村の住民を嫌悪し、互いに嫌がらせを始めたのだ。

最初は深夜の門前に家畜の糞尿を撒き合うなどの行為が行われた。

次に川を塞き止め、周囲の薬草を根こそぎ刈り取るなどの行為。

次は門を壊し、互いに火を付けた。

獣をけしかけ家畜を殺した。

事故を装い村人を殺した。

そして、ついにはつまらない精霊人の争いは、村と村の殺し合いになったのだ。


「僕も戦うよ」


五才のアーガは既に頭が良く、エルフの血を引いているが故に身体能力も高かった。

幼い身で身の丈以上の木の槍を両手で抱えて戦いに志願した。

大人ぶる子供の頭に大きく暖かな手が乗る。

彼に目線を合わせると父は静かに首を振った。


「いいかい、アーガ。父さんはこの村を守る。だから君は母さんと家を守ってくれ。いいかい?」


「うん! 任せてよ、父さん!」


アーガの言葉を聞き微笑んだ姿が父の最後であった。

その争いでアーガの父は戦死した。

なんでも、タク村が雇った傭兵集団“金有場”の衛兵百人を皆殺し、大将と刺し違えたらしい。

だが、父の武勇も虚しく、コド村の村長は劣勢に転じた途端、自身の村を売って交渉を持ち掛けた。


「私と家族の命は助けてくれっ! コド村はくれてやる! 住民は奴隷として売るなり好きにしてくれて構わない! だからどうかっ……!」


「いいだろう」


村長間で交渉は締結。

コド村の村長が戦の敗北を宣言して争いは終わった。

締結の条件は

・コド村は名を消し、タク村とする事。

・生存者は全てタク村の住民となる事。

・コド村の自然財産を全てタク村に譲渡する事だ。


それを了承した後、コド村の村長は斬首刑で首を晒された。

村長の親族も全員一列に首を並べられ、落とし前を着ける形となった。

無理もない。懐に入れたのち反旗を翻されても困るのだろう。

タク村の村長に変わり、エルフに寛容だったコド村の人は次々と村を出て行った。

運悪く母は病で床に伏せしまった。自力で歩く事すら困難な病状。

常に咳き込み、布団で苦しそうに呼吸する毎日だ。

父を亡くしたアーガは子供の身ながら大人と同じく働き、雀の涙ほどの賃金を受け取り母と自身の生活を賄っていた。

一日中働き、帰路に着く小さな背中に嫌な視線が集まる。


「気味の悪い耳だ」


「村長はあんなのに利用価値があると言っているが……」


「いつ牙を()かれてもおかしくない。早く殺してしまえばいいのに」


エルフを異形種と虐げ、気味悪いと嫌悪する。罵倒する。

それもそのはず、百の傭兵たった一人で倒せるほどの力を持つ種族だ。

復讐の念を抱いたまま成長すればいつか復讐されるのでは。と皆が恐れていた。

そんな息苦しい日々を過ごして一年が過ぎた頃。

村に狼の精霊獣が迷い込み人々を次々と襲った。


妖精狼(フェアリーウルフ)だ!! 逃げろっ!!」 


村の人々は右往左往し、阿鼻叫喚の中、

疲弊していたアーガはその騒ぎにすら気づかず、虚ろに歩いていた。


「グルルルルゥ……」


唸り声でやっとその危機的状況に気が付く。


目の前には大きな妖精狼が立ち塞がっていた。

大きな口は血に塗れ、真っ赤な血が滴っている。


「――――っ!」


アーガが逃げようとした時にはもう遅い。

妖精狼は小さく食べやすそうな子供に狙いを定めた。

アーガは足が縺れ、地面に倒れる。

両手で顔を守るがそんなものは無意味。

妖精狼は一噛みで腕ごと頭を丸呑みにできる。


「く……来るなぁーーー!!!」


大きな口を開け襲い掛かった妖精狼は寸前で動きを止めた。


「あれ……。と……止まった。なんでだ!?」


アーガは喰われる寸前、能力に目覚めた。

その能力の名は《王の号令》。

精霊、精霊獣を己がままに操る事が出来る能力。

アーガはまだそれが自身の能力だと気が付いていない。


「エルフが妖精狼を止めたぞ!」


「凶暴な妖精狼があんな子供に従っている!」


周囲の精霊人が騒めきだす。


「まずい……早くこの場から逃げよう」


アーガが走るとその後ろを追いかけるように妖精狼が駆けてくる。


「なんだお前っ!? 付いて来るな!」


そう言った、そう命じた瞬間、妖精狼は動きを止めた。


「……まさか、僕の言葉が理解出来るのか?」


ここでアーガは初めて自身の能力を理解する。


「こっちに来い! でも、もう精霊人を襲うな!」


妖精狼を自身の能力で従順に従わせ、飼い慣らす事に成功したアーガは、妖精狼に首輪を付けてハイドと名を付けた。

ハイドは群れから追われた妖精狼で行く当て無く彷徨っていたのだ。

利口ながらも寂しがりで常にアーガのを傍を離れなかった。

母が倒れ、働き詰めだったアーガにとっても心の支え、遊べる唯一の友人となっていたのだ。

アーガは自身の能力を理解し、少しずつ付近の精霊、精霊獣とも意思疎通が出来るようになっていた。

妖精狼は話普段は森の奥で群れで住む精霊獣。

それが村に出てきたのは村の開発や乱獲で食べる餌が減った事による理由だとアーガは知った。

妖精狼を通して精霊獣の事、自然の事を深く知る機会に巡り合えたのだった。

精霊光が灯る小さな部屋で立派な白い毛並みを撫でながらアーガは夢を語る。


「ハイド、僕は大きくなったら偉い環境学者になる。

たくさんお金を稼いで母さんをもっといい環境に移してあげたいんだ。

そして、精霊人、精霊、精霊獣、獣、植物全ての生命が住みやすい世界にするんだ」


ハイドは夢を応援するかのように静かに頷いた。

だが、()()()は突然訪れた。

妖精狼の襲撃がきっかけでアーガは更に村人から精霊獣使役すると恐れられ、虐げられていた。

精霊人の恐怖は日に日に積りついに決断が下された。


「お前は今日から五日、隣の町にこの魚と薬草を売りに行くのに同行しろ」


「えっ!?」


「そろそろお前も町での商売を覚える時期って事だ」


そう言われアーガは喜んだ。

自分が自分の行いがやっと認められたのだと舞い上がった。

翌日、母とハイドを家に残し、馬車に揺られ五人の村人とアーガは大量の魚と大量の薬草売りに行く。

町までは荷馬車で一日かかる。

日が暮れた時ふとアーガの傍に小さな火の人型精霊がやってきた。


「アーガ! 貴方の家が大変なの!! 早く戻って!!」


嫌な予感がアーガの脳裏を過る。

慌てて走る馬車を飛び降りた。


「おいこら!! 待て!!」


「まずい! もう、ここで仕留めろ!!」


馬車は踵を返し、アーガを追う。

中の村人は全員武器を持ち武装している。

そこでアーガはこれは周到に練られた罠だったと気が付いた。


「精霊! 馬を傷つけないようにあの馬車を燃やせ!」


「了解」


アーガの能力《王の号令》で火の精霊は馬車を焼き払った。


「ぐああああああああ」


中の精霊人は丸焼けになりその場に倒れた。

アーガは馬を捕まえ、急いで村へと戻る。


「間に合ってくれ……」


神に祈りながら村に着くと

そこには悲惨な光景が広がっていた。


救いの神なんてモノはいなかった。


家は既に焼かれ、炭になって家としての原型はもうない。

家族で暮らした居場所は失われていた。

肉が焦げた臭いが辺りに漂う。

やせ細った髪の長い精霊人が太い木に張り付けられ業火に焼かれていた。


「あ……ああ………」


その身は焼け焦げ誰だかの判別など出来ない。

だが、アーガには分かる。

あれが、変り果てたあの姿が、自分の母なのだと。

ショックで言葉が出ない。

呼吸をしているのかも理解できない。

呆然とその光景を目に移していると背後から何者かが迫る。


「っ!」


反応するのに遅れ、振り下ろされた斧が眼前に迫る。


「ギャウ!!」


大きな狼が体当たりして村人を吹き飛ばし、間一髪でアーガを救った。


「ハイド!」


吹き飛ばされた村人が立ち上がると

その背後にはぞろぞろと大勢の武器で武装した村人が立っていた。


「なんでこいつがここにいるんだ!?」


「村を出てまだ一日も経ってないじゃないか!」


「あいつら、殺し損ねたのか!」


そう、住民は計画してアーガとアーガの母をを殺す事を企んでいたのだ。


「お前らが母さんを!! 母さんがお前らに何をしたっていうんだ!!」


「うるさい異形種!!」


泣きの訴えも彼らの耳には入らない。


「異形種とつがいになり、お前なんかを産んだのが罪なんだよ!!」


「僕が……お前らに何をした!!!」


「何かするかもしれないからその種を予め摘んでおくんだぁ!」


振りかざされた斧をまたもハイドが身を(てい)して防ぐ。

アーガを守るかのように。幾度も、幾度も。


「邪魔だ!!」


ついに長い石槍がハイドの身体に突き刺さる。


「今だ!!」


何本もの槍がハイドを貫いた。


「ギャウン!」


高い悲鳴が響き、ハイドは地面に伏した。

アーガは今度はハイドを庇うようにして抱き抱える。


「ハイド! どうしてこいつらを攻撃しないんだ! お前が本気を出せばこいつらなんて――――っ! まさか……」


アーガは思い出した。

初めてハイドと出会った時。

己の能力を自覚した時命じた言葉を。


「こっちに来い! でも、もう精霊人を襲うな!」


そう命令していた。

ハイドはその言葉に逆らわず、自身より弱い精霊人から今まで逃げ生き延びていたのだ。


「ハイド……僕の命令のせいで……」


大粒の涙を流したアーガの涙を

ハイドは長い舌で舐め取った。

まるで君のせいではないよと言わんばかりに。


「ハイド……」


「ワォ―――――――――ン」


別れを告げるかのように大きな遠吠えをすると

アーガに抱かれたままエナとなりこの世から消えた。

その遠吠えは隣の町までよく響き渡ったという。


「もう終わりだ異形種。変なマネはすんじゃねぇぞ」


母を殺され、親友のハイドを殺され、

四方八方を武装した村人に囲まれたアーガ。

涙を流し、村人を睨み付ける。

絶望。憎悪。怒り。恨み。呪い。

全ての負が彼に集約した。


「臆病な精霊人。醜い精霊人。貴様らは生かしてはおかない」


「ははっ! この状況で何を言ってんだ。

いくらエルフでも丸腰のガキがこの人数に勝てるわけないだろうが!」


「数ならば、僕が勝っている。お前らは皆殺しだ」


「何? あまりのショックで頭がおかしくなっちまったか?」


「無理もねぇ、薄汚ねぇ母親も、臭い害獣もみんな死んじまったもんなぁ!」


「てめぇも早く楽にしてやるよ!」


「腕を噛み千切れ」


振り翳された斧はアーガに届く事はなった。


「いでぇ!!いでぇ!!!」


大量の妖精狼が夜の闇に紛れ一人の男を襲う。

ハイドの雄叫び。

その声で集まった妖精狼その数、二百頭。


「四肢を噛み砕いたのち四肢を裂き、全身の皮を剥ぎ、そして、喰い殺せ」


妖精狼たちはアーガの命令の通り男の四肢を強力な顎で噛み砕き

乱雑に引き千切る。

鋭い牙で皮を引き、無惨なまでに喰い散らかして絶命。

あまりの残酷な光景に、多くの村人は、母を殺されたアーガと同様に言葉を失った。

気づいた時には村人のもう逃げ場は無く妖精狼に完全に包囲されていた。


「最初からこうしていればよかった。

精霊人、精霊、精霊獣、獣、植物全ての生命が住みやすい世界。そんなのは存在しなかったんだ。

他を(むしば)む精霊人さえいなければ、完成された世界になる」


「待ってくれて……俺らはただお前が怖かったんだ……」


「そうだ……すまなかった。償いならなんでもするだから……」


「僕以外の村人全て、同様に喰い殺せ。一人残らずだ」


妖精狼は一斉に飛び掛かる。

そこから先は地獄だった。

村人の苦痛に悶える叫びを聞きながら、アーガは無心で村を見て回った。

精霊人としての最後、光景を目に焼き付けていく。

一日にして村人は一人残らず虐殺されたのであった。

アーガは血に塗れた首輪を手に誓う。


「ハイド、君の名前を継いで僕……いや、今日から()()()()()()()()()()だ。

醜く、卑しい精霊人を全て駆逐し、この世界を正しく導く王になる存在へと昇華する」


永い年月を重ねたのち


英雄になる器を持った少年は《王の号令》と《生命の拒散》二つの能力を得て


絶対的な支配者。精霊王アーガハイドとなった。

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