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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
四章 輪廻凱旋! 都市奪還作戦
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七十七話 希望の闇 八雷神 クラウ

空が落ちてくる。

逃げ場の無い広大な消滅の光の層。


「くっそっ! こんなのどうしようも……」


各所で自分が出来る事に尽力している者は手にしていた武器を落とす。


「私達は普通に暮らしていただけなのにっ! どうしてこんな目に……」


次々と訪れる理不尽な過酷に怒る者は拳を握り締める。


「もう……どうでもいい……どうにでもなっちまえ……」


生を諦め、死を受け入れる者はその場に倒れた。


「もうやめてくれ……やめてくれよぉ……」


妻を失った男は残された娘を抱きかかえ、為す(すべ)なく涙を流す。


同刻、人々は個々多様な感情を胸に、空を覆う神々しい光を見て 等しく 絶望した――――。


スネピハで生きとし生ける全ての生命の世界が縮まっていくかのような異様な感覚が襲う。


「おいおいおい! 冗談だろ!?」


衛兵総長ザギバも唾を派手に飛ばし、慌てふためく。


「僕たちは……こんな次元の違う相手と戦おうとしていたのか……」


自警団長シュトロンは己の力の届かない力を前に愕然としている。


「。。。。。。。」


キリエは倒れたレオ強く抱きしめ、静かに奇跡を願う。


「ロードっ! 今すぐ回復するから!」


朔桜はロードの力を信じ、回復させようとするが、ロードは手でそれを制した。


「不要だ」


「なんで……」


いつもは我先にと回復を要求するロードが、初めて回復を拒んだ。


「ロードならこんなの余裕だよ! いけるよっ!!」


朔桜はロードを励ますも、顔をしかめられる。


「何言ってんだ。()()()()()()。優先して回復させるべきは俺じゃないって話だ」


「それってどういう……」


ロードは軽く溜息をつく。


「時間がない。少し離れてろ」


朔桜に十分な説明をせず、空を仰いだ。

いつもの雰囲気と違う事に朔桜も気づく。


「死ぬ気とかじゃ、ないよね?」


ロードは鼻で笑うと目を伏せる。


「当たり前だ」


笑みを浮かべたその表情を見て朔桜は安心した。


「よし! じゃあ、任せる!」


そう言い残し、ロードの(そば)を離れる。

光に触れた生命全てを消滅させる光。

普通の魔術は貫通してしまう。

今までのロードの《八雷神》はどれも強力な能力を持つが、この状況から皆を救える柱はいない。

故に、新たな柱を顕現させる。

ロードは手で左目を軽く隠し、ゆっくりと離す。


「狂い咲け、《無常の眼(むじょうのめ)》」


ロード瞳が水色、ピンク、紫が混じり合った紫陽花の鮮やかな色へと変容。

自身の持つ魔力と身体能力が倍に跳ね上がる。


「現れよ、我が“八雷神”が一柱。雷雲纏いし、黒雷神! クラウ!」


光の層を貫き、灰色の落雷が大地に落ちた。

そして、上空に巨大な漆黒の大雲が顕現(けんげん)


「あれは……雨雲?」


朔桜がロードに問うとロードは怪訝な顔をして言い直す。


「雷雲だって言ってんだろ」


巨大な雷雲に身を隠した長い黒竜がその身を静かに覗かせた。

その姿は濃いような、薄いような、空気のような、所々が煙のように霞む。

幻覚のような曖昧な存在。

上空の光は空いた風穴は塞がり再び層となって大地の生命に落ちる。

神雷級の落雷でも開いた穴は約二百メートル。

光層の厚みは推定数千メートル。修復力は二百メートルの穴がたったの一秒程度だ。


「――――」


黒竜は呼び出したロードを無言で見つめている。

その静かな佇まいはまさに、神と呼ぶに相応しいほどに澄んでいた。


「クラウ。あの目障りな光、全てを遮断しろ」


「――――」


クラウはロード言葉に静かに頷く。

大きな口を天に開き、勢いよく黒煙を吐く。

その煙はただの煙ではない。誰も見た事もないような現実離れした黒。

光を一切反射しない光吸収率百パーセントの暗黒の微粒子。

四つの世界のどこを探しても、これより黒いモノは存在しない。

それを一気に放出しているため煙に見えるのだ。

煙は次第に黒雲となり、スネピハを覆い尽くす広大な光層を瞬く間に覆い尽くす。


「凄い……」


朔桜はその様子をただ呆然と眺める。

ロードが開いた掌を握ると黒雲は消滅の光を呑み込んだまま急速に収縮し、跡形も無く消滅した。


スネピハの水面には再び、眩く輝く星空と大きな月が映る。

ほんの一瞬の出来事だった。

希望の闇が絶望の光を呑み込んだ。

一同は呆然と夜空を仰ぐ。


「剛腕の巨人が光を呑み込んだ……」


「巨大な女神が光を吸った……」


空を見上げた衛兵総長ザギバと自警団長シュトロンの意見が食い違う。


「いや、いや、どう見ても巨人だろう。見ろよ、あの筋肉を」


「何を言っているんだ衛兵総長。あのか細い腕を見るんだ。どう見ても麗しい女神様だ」


「あれ? 私には竜に見えるけど……。ロード、一体どういう事?」


朔桜が説明を求めるとロードはそれに素直に答えた。


「クラウは実体の無い幻想竜。みたモノによって姿、形がまるで違う。

俺が“認識”している黒竜の姿が一番正しい姿だ」


「それは特性であの光を消したのが能力?」


朔桜の言葉にロードは驚く。


「珍しく賢いな。クラウの能力は“光”と“みる”という概念を奪う。

ある程度の範囲制限はあるが、あの程度の光なら造作も……」


ロードは朔桜と話している最中(さなか)、役目を終えたかのように地面に倒れるのだった。

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