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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
四章 輪廻凱旋! 都市奪還作戦
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七十三話 打ち砕かれた尊厳

レオは自分の中に確かに受け継がれた力を確かめるかのように

拳をじっと見つめた後、後方を静かに振り返る。


「衛兵総長さん。キリエを頼んます」


「……おう。安心して行って来い」


衛兵総長ザギバは快くレオを送り出す。

キーフの事には()えて触れない。

これはもうレオたちの問題だ。

同期である五区衛兵長ランデュネンの仇をひっくるめて、レオを信じ、そして託した。

レオも同時にザギバの言葉を信じ、一点目掛けて駆け出す。


「うおおおおお!!!!」


大切な相棒を奪い、その大切な妹を泣かせ、仲間やスネピハの人々を苦しめた

悪しき鬼人を決して許しはしない。

無鉄砲に突っ込んでくる単調な特攻を鬼人は涼しく嘲笑う。


「愚かな」


手を(かざ)し、親指で四本の指を弾いた。


「っ――――!!!」


今までまるで目で捉える事の出来なかった速度の攻撃。

だが、今のレオにはそれが見える。


「反 拳!」


指先から放たれた白い結晶を両拳で全て弾き返す。

今のレオは二人で一つ。

キーフのエナを得て、数倍強く、逞しく成長していた。


「今の俺なら十分戦える!」


レオは自分の力に確かな手ごたえを感じて笑みを溢す。


「微力ながら僕も協力する」


シュトロンが鞭剣を構え、横に並び立つ。


「お願いします!」


鬼人から目を逸らさずに二人は会話する。


「僕は何をすればいい?」


「とりあえず、俺をあいつの(ふところ)に」


「承知した!」


二人は同時に飛び出す。


「来れるものならば来るがいい」


鬼人は掌から生成した白い結晶を自ら握り潰す。

そして細かい結晶を振り撒いた。


「全員、死ね」


小さな破片はレオとシュトロンを狙い一斉に飛んでゆく。

一粒一粒が弾丸に匹敵する。

このまま打つ手がなければ、全身が貫かれ、蜂の巣になる未来しかない。


「アースウォール。。。!」


まるで攻撃を予測していたかのように

地面から突き上げた土の壁が、二人を押し上げ難を逃れた。


「お願いっ!!! お兄ちゃんの仇を。。。!!!」


「任せろっ!! キリエっ!!」


土の壁の根元は結晶片で大破。

壁は無惨に崩れてゆく。


「うおおおおおおおおお!!!」


破片が地上に残されたザギバとキリエを襲うが、

ザギバが糧斧でなんとか防ぎ切った。


「かましてやれぇ!!!」


ザギバの叫びでレオは勝負を仕掛ける。


「シュトロンさん、俺を飛ばしてくれ!」


全てを貫くような真っ直ぐな目。

ザギバ同様、シュトロンもこの戦いの全てをレオに託す。


「分かったっ!」


一つ返事で鞭剣を螺旋状の足場に変形させる。


「乗るんだ!」


レオが乗ると勢い良く剣を振り切った。

螺旋状の剣はバネのように弾みをつけ、一気にレオを放出。


「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」


拳を両脇に構え、力を貯めながら一直線に飛び出すレオ。

迫り来るレオを前にしても鬼人が焦る事はない。

圧倒的な余裕が感じられる。


「弱者が弱者を取り込んだところで、所詮は弱者。強者には遠く及ばぬ」


鬼人は手を(かざ)し、無数の結晶を容赦なく飛ばす。


「滅殺。」


鋭い結晶が視界を覆う。

レオの逃げ場を完全に奪う。

だが、レオは怯まない。

逃げる選択など彼の脳内には無いのだ。


「反拳!」


真正面から拳の連撃を打ち込み、全ての結晶を弾き返した。


「うおおおおおおおおお!!!!!!」


「――――っ!」


鬼人は一瞬表情を揺るがす。

一瞬で肉片になっているはずの存在が、当然の如く迫り来る。


「俺の全力の拳、叩き込む!!」


「ふん。来い、精霊人」


「この一撃に俺の全てを賭ける!」


右の拳に全力を集中。

身体を捻じり、最大の威力で打ち込む。


「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!


身体中から空気が揺らぐ程の熱いオーラ溢れ出る。

レオの想い、キリエの想い、キーフの想いを乗せ、芯ある拳を振う。


「反 拳!!!!!!!!!!!!!!!!!」


少年の小さな拳は、何十倍にも大きく見えた。


「――――っ!!」


拳を打つ衝撃で地面が砕け、弾け飛ぶ。


レオの今持てる全身全霊、渾身の一撃を拳に込め、打ち込んだ。


正真正銘、この場で最強で最高の一撃。


それでも、


鬼人を倒す事は叶わなかった――――。


「うそ……だろ……」


拳は鬼人に届かず、分厚い結晶の壁に阻まれている。

レオは言葉が出ない。

その理不尽な強さに。

圧倒的格の差に。

攻撃を容易に防いだはずの鬼人は突如、叫び声を上げて激昂。

結晶の壁を自らの手で破り、レオの頭を大きな右手で荒々しく鷲掴む。


「がぁ!」


「……屈辱。屈辱だぁ!!!!!

精霊人に! それもこんなガキ相手にっ!!」


今までに見た事無いほどに感情を昂らせ、声を荒らげる。

額に血管を浮き上がらせ、まさに鬼の形相(ぎょうそう)だ。

レオの拳で鬼人は無傷一つ付いていない。

にも関わらず、全身を震わせ、爆発した怒りを露わにしていた。

そう、全身が震えている。震えてるのだ。

それは溢れ上がるレオへの怒りからではない。

レオに対しての()()からだ。

差し迫る鬼神の如きレオの気迫に、鬼人はあろう事か怯えた。

あれほどまで()めていた少年の拳に身体を仰け反らせ

数歩後ろに逃げ足を踏んでいた。文字通り、恐れ(おのの)いていたのだ。

鬼人の尊厳を完膚なきまでに打ち砕いた証。

レオは力及ばずとも、心では鬼人を完全に凌駕したのだ。


「許さぬ。貴様だけは許さぬ。

貴様の仲間、そして、そこの女も(なぶ)り殺してやる。

惨殺してやる。圧倒的な力で蹂躙(じゅうりん)してやる。

当は強い、精霊人如きに退けは取らぬ!!」


怒りに燃えた鬼人は今までの比ではない。

どう足搔いたとて、圧倒的な力量の差は覆らないのだ。

重機並の圧力で、レオの頭を潰しにかかる。


「ぐぅぉぉ……」


レオは苦しそうに藻掻(もが)くが、抜け出す事は叶わない。


「レオーーー。。。!!!」


キリエの悲痛な叫び声が荒野に響く。


「ハハハハハハハッ!!」


鬼人の高らかな笑い声が荒野に響く。


「カツン」


鬼人の硬い頭に何かがぶつかった。


「ア――――」


そんな抗いようのない絶望淵から彼を救ったのは


その辺に落ちているような


掌に収まる程度の小さな小石だった――――。

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