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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
四章 輪廻凱旋! 都市奪還作戦
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七十話 最ある絶交

夕陽が落ち緑の月が昇る精霊界の夜。

静まり返った街に少女の叫び声が響く。


「お兄ちゃん。。。お兄ちゃん。。。!!!」


手伸ばし空を掻き、変わり果てた兄の姿を手繰(たぐ)る。

枯れた悲痛な声から、その心の痛みが分かる。

その悲しみが全員の心に伝わる。

だが、それを良しとしないモノがポツリと不満を口にした。


「その声、耳障りだ」


彼女の高い叫び声に不快の念を露わにし、

糧斧から身を出し、叫びを上げていたキリエ目掛けて

胸を貫き血に塗れた手から真っ白い結晶を飛ばす。


「っ!」


不意に放たれた攻撃。

常人のザギバにはその攻撃に反応出来ない。

警戒の声を出す間も無い。


「反拳」


打ち出された結晶を(たん)と拳で打ち返し、鬼人の額のど真ん中に突き刺した。


「キーフから……その手を離せ」


常人の範疇(はんちゅう)であるレオが、常軌(じょうき)逸脱(いつだつ)した鬼人の攻撃を跳ね返したのだ。

怒りに満ちたレオの眼は、今までのレオとは違う。

雰囲気全てが別人のように変わっている。


「ア――――?」


反動で空を仰いでいた鬼人は、レオの変化に興味を持ち、額に刺さった結晶を身体に還す。


「今のはまぐれか?」


レオは鬼人の問いに答えない。

彼が言いたい事は一つだけ。

再び、自分の感情を荒々しくぶつける。


「キーフから……その汚い手を離せぇ!!!」


レオの怒号に鬼人は溜息で応じる。

キーフの胸部から手を引き抜き、弧を描いて手に着いた血を綺麗に払拭(ふっしょく)

右手でキーフの身体を軽々とレオに向かって放り投げた。


「キーフ!!」


慌てて受け止めようとするレオの隙を鬼人は狙う。

両手の十の指先から結晶を放出。

十の結晶がレオとキーフの二人を襲う。


「反 拳!」


両手で十の結晶を全て跳ね返し、数個の結晶を鬼人に打ち返し、キーフを丁寧に受け止めた。


「ほう……。まぐれではないな。

力を隠してた訳でも、エナを吸収した訳でもない。

面白い、貴様も戦いで成長したのか、ならば――――」


「うるせぇ!! 黙ってろ!!!」


レオが再び怒号を飛ばし、鬼人を怒りと悲しみの感情が混じり合った鋭い眼で睨み付ける。

そして、その目から大粒の涙が湯水の如く零れ落ちた。

鬼人はフンとつまらなそうな声を漏らす。

追い打ちをかける事はせず、先の態度とは対照的に

レオたちの様子を興味深そうに眺めていた。


「キーフっ! キーフ!!!」


レオがキーフに何度も呼びかける。

キリエも傍に駆け寄り、必死に呼びかけた。


「お兄ちゃん。。。お兄ちゃん。。。!!!」


彼の顔はすでに青白くまるで生気を感じない。

変わり果てた親友の姿を見て涙が止まらない。


「目を開けろよ、キーフ!!!!」


何度も呼びかけたのち、

レオの叫びが届いたのか、薄っすらと開けた目が大粒の涙を流したレオの目と合う。


「レ……オ……か……」


その声を聞いた途端、レオは知りたくない現実を知った。

知ってしまった。


「キ、キーフ!! そ、そうだレオだ! ほ、ほら……と、隣にキリエも居るぞ!」


レオの声は震えている。

あり得てはならない、最も望んでいない最悪の結末を察してしまった動揺の声。

それを必死に紛らわし、自分を騙し、押し殺し、喋り続ける。


どうにか出来ないかと策はないかとキーフの次の言葉を阻むように喋り続けた。


「ま、待ってろ! 今なんとかして――――」


何も浮かばない空っぽな頭を行動で埋めるため、

現実を逃避するために慌てて動き出そうとするレオを

瀕死の身体から出るとは到底思えないほどの強力な意志()が彼の服の裾を掴んだ。

それは文字通り、“最期の力”。


「悪い……な……レオ」


その言葉の続きはレオには分かる。


「悪い、キリエ」


その言葉の続きはキリエにも分かる。


二人に告げられたのは


「お別れだ」


最高の親友にして


最愛の兄からの


最悪の言葉だった――――。

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