六十七話 最大戦力
鬼との戦闘でカシャは跡形も無く潰され、ノアは機能を停止。
残されたのは無力な朔桜と疲弊したキーフ。そして七十二名の衛兵だけ。
「そんな……ノアちゃんでも勝てない相手なの……?」
朔桜は絶望する。
あのロードすら倒した事のあるノアでも、
倒しきる事ができなかったと言ったのだから。
「あいつは今までの敵と格が違う。逃げたところで追いつかれるのがオチだ」
鬼が動かないうちに対策を考えるべきだ。
キーフがこの先どうするか考えていると名案を思い付く。
「そうだ。俺の属性は雷。こいつの電力に充てる事はできないか?」
機能停止したノアを電力で復活させようという提案。
だが、朔桜は首を横に振る。
「キーフくんのエナの量じゃ目を覚まして喋るくらいはできるだろうけど、戦うには全然足りない。と、思う……。
ロードくらいの力じゃないとノアちゃんをまともに維持する事はできない。と思う……」
「ちっ」
率直に力不足と言われたキーフは不貞腐れ、別の案を思考。
「こんな時にシンシアさんがいてくれれば……」
朔桜は淡い期待を抱くも残酷な回答が返ってきた。
「シンシアはやられた」
朔桜が振り返ると背後には衛兵総長ザギバ。自警団長シュトロン。
レオ。キリエ。四人の増援が居た。
今答えたのはザギバだ。
「やられたって……シンシアさんが!?」
「正確にはやられたかもしれない。アレがシンシアの腕を喰ってるのを見た。
生きてても弓を引ける状態じゃないだろう」
「でも、生きてる可能性はあるんですよね」
「ああ」
「シンシアさん……」
朔桜が宝具を握り、シンシアの無事を祈った。
「あんたら逃げたんじゃなかったのか!? それにレオやキリエまで!
連れは逃がしてくれと言ったはずだ!」
キーフは強い口調でザギバに詰め寄る。
だが、その仲裁に入ったのはキーフの家族のような二人だ。
「この人たちは悪くない。。。私たちは自分の意志で来たの。。。」
「素直にはい、そうですかって相棒を置いて逃げる訳ないだろ! バカ!」
一人で勝手に前に出たキーフの事を二人は怒っていた。
「バカはお前たちだ! そんな力じゃ、奴に手も足も出ない! 現にあいつだって負けたんだぞ!」
あいつとはノアの事だろう。
「さっきの爆発、ノアちゃんの攻撃だろ? あんなのを喰らってんだ、今なら相手も弱ってるはず。俺達でも勝てるかもしれない!」
「精天機獣でもやっとだったんだぞ! アレはその遥か上の域だ!」
「そこまで分かっているのに。。。一人で相手しようなんてやっぱり大バカ。。。!!」
妹に怒られ、キーフは言葉を詰まらせる。
「俺らは三人で一人。ずっとそうやって旅してきた。生きてきただろ。少し強くなったくらいで俺らを守ろうなんて調子に乗るな!!」
レオの本気の怒りにも触れた。
もしもレオが一人で敵と戦っていたら
自分も同じ事を言うだろうと思い直した。
「生きるも死ぬも一緒だ。みんなで戦おう」
「レオ……キリエ……。それにあんたらもすまなかった……力を貸してくれ」
キーフは深々と頭を下げる。
レオとキリエは左右からキーフを背中手を回し和解した。
「仲睦まじいとこ悪いが、そろそろ奴さんさんもやる気だぜ」
ザギバが大斧を構え注意を促す。
土煙が晴れると同時に鬼が敵意を剥き出しにして立っていた。
身体は至る所に罅が入り、右肩と左脇腹には割れている部分もある。
その中は深淵のような闇。中身はまるで見えない。
「さあ、レディは後ろへ」
シュトロンが朔桜を後方へ誘導する。
「あ、少し待ってください!」
朔桜はレオに向かって駆け出した。
「レオ君! 右手、出して」
「え? あ、はい?」
レオが手を差し出すと朔桜は手に持っていた宝具をレオに当てる。
「これで全部。道中少しだけエナが集まったから」
レオの右手と右わき腹の怪我は
何事もなかったかのように綺麗に治っていた。
「ありがとうございます!! 朔桜さん!」
「みんな、気をつけてね」
一言だけ告げ、シュトロンエスコートのもと朔桜は後方に戻る。
朔桜を衛兵たちに任せ、シュトロンは剣を構えた。
「さあ、みんな準備はいいかな?」
「おう! バッチリだ! ノアのくれた絶好のチャンス、活かさない手はねぇ!」
「よし! 行きましょう!」
「ああ、ぶっ倒す」
「はい。。。!」
現状最大戦力の五人で鬼と対峙するのだった。




